2015 Fiscal Year Research-status Report
親密な関係における暴力の発生規定因と暴力に対する態度
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26380844
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
森永 康子 広島大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (60203999)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 親密な関係における暴力 / ジェンダー / ステレオタイプ |
Outline of Annual Research Achievements |
配偶者や交際相手からの暴力を「親密な関係における暴力(IPV: Intimate Partner Violence)」と呼ぶ。27年度は1) IPVと心理学変数の関連についての検討を社会人を対象として行い,さらに,2) IPVの発生メカニズムとしてステレオタイプを取り上げ,女子中高生を対象に検討した。1) 社会人(20~60代)を対象とした調査では,IPVの認識(暴力とみなすかどうか)と自己関連変数(自己観)や自由選択の感覚,幸福感の関連について検討した。そのうち自己関連変数との関係を検討した結果から,20代から60代の成人の男性の暴力認識には関係自己(重要他者との関係で自己を定義する傾向)が関連し,関係自己が高いほど暴力を認識するようになることを見出した。これは,26年度に実施した戦争や軍事行動に対する態度調査と同様の結果であり,男性の暴力に対する態度は他者との関係が影響することが示唆される。 2) 女子中高生を対象とした調査では,好意的性差別態度(ネガティブなステレオタイプに基づきながらも,女性をたたえるような態度)や自尊心が, IPVへの態度にどのように関連するかを検討した。その結果,自尊心が好意的性差別態度やIPVへの態度に影響することを見出した。また,女性についてのネガティブなステレオタイプに基づいた言葉かけを他者から受けることで,そのステレオタイプに沿った意識を持つことも見出された。26年度に実施した自己ステレオタイプ化の検討では,他者との比較という社会的文脈に応じた男子大学生の自己ステレオタイプ化が見られたが,今回の調査では,他者の発言によりステレオタイプが喚起されると,女子中高生が自分の将来の行動をステレオタイプに沿った方向に変える傾向が見られた。これは,女性のステレオタイプを意識させることが,女性の行動に制限をかけることを示唆するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究は主として,2本の柱からなっており,それは1)IPVの認識と心理学的変数の関連を問うもの,さらに,2)暴力の発生メカニズムを検討するものである。この2点について,平成26年度と27年度で5つの調査を実施した。調査対象者は中学生から60代の成人まで幅広い年齢層である。この5つの調査をもとに,IPV認識や暴力一般に対する容認度の性差が見出され,さらに,男性の認識には対人関係に関する変数が関連することが示唆された(中国四国心理学会第71回大会で発表)。この中では,特に,日本でほとんど検討されていない戦争や軍事に関する態度を取り上げたことが特徴的である(日本心理学会第79回大会で発表)。 また,主として暴力の発生メカニズムを検討した研究からは,ジェンダー・ステレオタイプが重要な役割を果たしていることが示唆された。特に,他者の発言からステレオタイプが喚起されることで,ネガティブなステレオタイプに沿った行動傾向を示すようになるプロセスを示した研究(日本社会心理学会第56回大会,The 17th Annual Meeting of the Society for Personality and Social Psychologyで発表)は,ステレオタイプが女性の行動を制限するメカニズムを解明する上で重要といえよう。このように研究はおおむね順調に進展している。 なお,上記の学会発表4件(うち1件は国際学会)に加え,平成28年度にはすでに発表確定の学会発表が3件ある(うち1件は国際学会における招待発表,1件は国際学会)。研究成果の報告という点でもおおむね順調である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで,1)IPVの認識と心理学的変数の関連についての検討,さらに,2)暴力の発生メカニズムの検討,という2つの柱を立てて,それぞれ別個に検討を行ってきた。しかし,IPVに関わる心理学的変数がどのような過程を経て,暴力(の認識)へとつながるのかは不明確である。今後は,上記の1)と2)を統合し,具体的なIPV発生メカニズムを中心に検討する予定である。 また,平成27年度は4件の学会発表を行い,平成28年度にはすでに発表確定の学会発表が3件あるが,論文としてはまだ掲載の段階にいたっていない。今後はこうしたデータや報告をもとに,論文化を進めていく予定である。
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Research Products
(11 results)