2016 Fiscal Year Research-status Report
公共場面における規範逸脱行動の発生過程と抑制のための授業の検討
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26380885
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Research Institution | Nara University of Education |
Principal Investigator |
出口 拓彦 奈良教育大学, 教育学部, 准教授 (90382465)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 規範逸脱行動 / 規範意識 / 学級 / 私語 / シミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
大学生を対象とした質問紙調査を行い,自分の行動基準や他者の逸脱頻度が,自分自身の逸脱頻度に影響を及ぼす可能性を見いだした。また,一部の逸脱行動については,他者の行動基準も,自分自身の逸脱頻度に影響を及ぼしている傾向も示された。さらに,中学生を対象とした質問紙調査によって,学級全体の逸脱頻度(私語の頻度)は,「遵守」という行動基準を持った一部の生徒によって規定されている可能性が示唆された。一方,「同調」の行動基準を持つ生徒は,クラスに比較的多数存在していたが,このような生徒がクラス全体の逸脱頻度を規定している傾向は示されなかった。また,逸脱頻度だけでなく学級風土にも同様の傾向が示され,クラス内にいる「遵守」の行動基準を持った少数の生徒の割合が,学級全体の風土を規定している可能性が示唆された。 この他に,コンピュータ・シミュレーションによる研究も行った。これまでは,主として,自分の周囲のセル(人)の「行動」を参照して,自らの行動を変容させる規則を使用したシミュレーションを行っていた。平成28年度は,周囲のセルが持つ「態度」(行動基準)を参照する規則を用いたシミュレーションを行い,「行動」を参照する規則との比較検討を行った。その結果,問題行動が他者に与える影響力がさほど大きくない場合であったとしても,「遵守」よりも「逸脱」の行動基準を持った成員の割合が高ければ,「逸脱」の割合が2割程度であっても,教室における問題行動の頻度(逸脱率)が高くなりうることなどが示された。さらに,これまでの研究結果を基にして「逸脱行動に関する授業案」を作成した。そして,大学生を対象に授業を行い,質問紙によって効果測定を行った。 これらの研究によって,公の場における規範逸脱行動の発生過程と,その抑制方法について検討するために必要な知見の収集を試みた。研究結果は,国内外の学会や紀要などで発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究結果は,国内外の学会や紀要上で発表されている。また,平成28年度中に学会で発表したデータの他にも,大学生や母子の規範意識および行動基準等に関するデータも収集している。これらは,平成29年度の国際学会(採択済み)や国内の学会等で発表する予定である。さらに,コンピュータ・シミュレーションによる研究も継続して進めており,雑誌論文として発表できるように準備を進めている。 今のところ,質問紙調査による研究結果と,コンピュータ・シミュレーションによる研究結果との間に大きな齟齬は見られておらず,研究計画や理論的な背景について,大きな見直しをする必要性は示されていない。このように,「規範逸脱行動の発生過程」に関する検討は順調に進んでいる。 「逸脱行動に対する授業案」に関しては,これまでの研究結果をふまえて,大学生を対象とした授業案を作成し,これを実施した。しかし,質問紙による効果測定の結果,受講者の規範意識が著しく向上する傾向は示されなかった。このため,効果測定の際に収集されたデータ等を基にして授業案を改善し,効果測定を継続して行っていく必要がある。 以上のことを総合すると,研究計画はおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
前の「現在までの進捗状況」に記載したように,現在のところ,質問紙調査とコンピュータ・シミュレーションによる研究結果との間に,大きな齟齬は発生していない。このため,「規範逸脱行動の発生過程」に対しては,これまでの研究結果をふまえて,質問紙調査とコンピュータ・シミュレーションを併用して,さらに検討を進めていく。 具体的には,これまでは主として大学生や中学生を対象とした質問紙調査によるデータを分析対象としてきたが,平成28年度に実施した小学生・中学生・高校生およびその母親を対象とした調査データを分析し,発達段階なども考慮しつつ,考察していく。さらに,母子間の規範意識や行動基準と逸脱頻度の関連についても,併せて分析を行っていく。 「逸脱行動に対する授業案」の作成については,質問紙調査の自由記述に対する回答などを基にして授業案を改善し,より多くの履修者を対象とした授業を行うなどして,さらに検討を行っていく。これに関連して,比較的理解が難しいと考えられるコンピュータ・シミュレーションの方法や結果(出力)を,より平易に示すことができる方法についても,併せて考察していく。 研究成果の公表に関しては,平成28年度に収集したデータを分析し,国内外の学会において発表する予定(一部は採択済み)である。また,雑誌論文への投稿も進めている。
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Causes of Carryover |
国内で開催された国際学会で発表したことによって旅費が安くなったため。さらに,購入予定であったワークステーションについても,現在使用しているもので研究を遂行することが可能であったことから,これの購入を見送ったことで支出額が減少した。ただし,母子を対象とした質問紙調査実施の際,これを調査会社に委託したことに伴う経費がかかり,最終的には4万円弱の次年度使用額となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度は国外で開催される国際学会で発表するため(採択済み),旅費の一部にあてる予定である。
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