2014 Fiscal Year Research-status Report
思春期の子どもの学校適応を向上させる心理教育プログラムの開発
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26380915
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Research Institution | Saitama Gakuen University |
Principal Investigator |
藤枝 静暁 埼玉学園大学, 人間学部, 准教授 (60521515)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
相川 充 筑波大学, 人間総合科学研究科(系), 教授 (10159254)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ソーシャルスキル教育 / 予防教育 / 学校適応 / 児童・生徒 / 感情スキル / 縦断的研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、思春期の子どもを対象に、学校適応感を向上させ、いじめや不登校などの深刻な問題を予防するための心理教育プログラム(以下、プログラム)を開発することであった。中1ギャップと言われるように、いじめや不登校といった学校現場における問題は中学校入学後に深刻化する。いじめは自死に至る危険性のある問題である。不登校は学力の遅れだけでなく、孤独感や疎外感の上昇、また、自己肯定感の低下につながる恐れがある。こうした問題の根底には対人関係能力、特にソーシャルスキルの不足が指摘されている(藤枝・相川, 2001など)。ソーシャルスキルとは対人関係を開始、維持、発展させる上で必要な技能である。これらの問題を効果的に予防するためには、中学校へ入学する前の小学校教育において、ソーシャルスキルを学習する機会を設ける必要がある。 プログラムを開発するうえで参考となるのが、大対(2007)による学校適応アセスメントの3水準モデル(以下、大対モデルと略す)である。大対モデルによるとソーシャルスキルや感情コントロールが社会的機能および学業的機能に影響を与え、それが、学校適応感に影響を与えるという。また、大対らは最終目標として学校適応感を上昇させるためには、まず、行動的機能を高めるための介入が必要だと指摘している。具体的な介入方法として、ソーシャルスキルおよび感情に関わる行動の統制をあげている。 学校現場では、既に、教師が子どもにソーシャルスキルを意図的に教えるソーシャルスキル教育(以下、SSEと略す)が実践されている。SSEではあいさつや聴き方といったスキルの他に、共感や思いやりといった感情のスキルも含まれている。 以上から、本研究では大対モデルを参考としながら、小学生を対象にソーシャルスキル教育を実施し、学校適応感の向上を目指し、その効果を横断的および縦断的に検証する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度より、関東の公立小学校1校の全学年の全学級において、「こころの教育」として、ソーシャルスキル教育(以下、SSE)を実践している。倫理的配慮として、各クラスの保護者会で、担任教師が「こころの教育」についての説明を行い、保護者の同意を得た。実践を開始する前に、研修会の場を設け、研究者が学校長および教師に対してソーシャルスキルおよびSSEに関する説明を行った。 「こころの教育」の年間および学期毎の実施計画、授業指導案、効果測定の内容と時期などは、研究者と教師が話し合って決めた。1学期は、学校生活の基本であるあいさつ、話を聴く&話す、感謝の3つのソーシャルスキルを学習目標とした。先行研究より、これらのソーシャルスキルが肯定的な対人関係、向社会的行動の増加、仲間から受けるソーシャルサポートの増加に寄与することが明らかになっている。実践では、月毎に取り上げるソーシャルスキルを決めて、担任教師がSSEの授業を行った。授業の他に、朝の登校時、給食、清掃、帰りの会などにおいても、教師が子どもにソーシャルスキルの遂行を促した。 本研究の特徴として、学校と家庭が連携して子どものソーシャルスキルの習得に取り組んでいる。具体的には、学校便り、学級通信、保護者会を利用して、子どもが学習しているソーシャルスキルを家庭の保護者にも紹介し、家庭でも子どもがソーシャルスキルを実行するように促すことを依頼した。 2学期および3学期は、ソーシャルスキルの中でも感情スキルを中心に学習をした。月ごとに、今の自分の気持ちに気づく、表情や声から相手の気持ちに気づく、相手を嫌な気持ちにする言葉と心地よい気持ちにする言葉に気づくといった学習した。 これらの実践の効果を確認するために、学期毎に児童用アンケートを実施した。また、教師へのアンケートも行い、学級内で気になる子どもの変容を調査した。
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Strategy for Future Research Activity |
H27年度は、関東の公立小学校1校において、昨年から行っている「こころの教育」を継続している。昨年度1年間の「こころの教育」の成果として、各クラスの担任から「子どもたちがあいさつをよくできるようになった」「ありがとうと言えるようになった」「話を聴くときの態度が良くなった」「言葉遣いが良くなった」「乱暴な言葉をつかった児童に対して、周りの子どもが注意するようになった。注意された児童も、素直にあやまった」といったことがあげられた。一方、小学校全体の課題として、各クラスに感情のコントローがル苦手な子どもが数名いること、また、クラスによっては、感情が高まり、コントロール不能に陥り、攻撃的行動をしてしまう、いわゆるキレる子どもがいることも指摘された。こうした学校の現状から、小学校長および教師から「平成27年度も引き続き、ソーシャルスキル教育(以下、SSE)に取り組みたい」という要望が出された。そこで、平成27年度1学期は、感情スキルの中でも、怒りを中心としたネガティブな感情コントロールの学習に取り組んでいる。 ところで、小学校では4月に、教師の異動があり6名の教師が新しく着任した。実践を継続するにあたり、4月に全教師を対象に研修会を行った。研究者が講師役を務め、SSEの説明および昨年度の実践内容を共有し、共通理解を深めた。新任教師のSSEへの関心や動機づけが高まるように、ロールプレイを取り入れるなどの工夫をした。 実践の他に、昨年度に行ったアンケート調査結果の分析をする予定である。分析はSSEの効果を検討するために、時期(1学期、2学期、3学期)×学年(1年生~6年生)の分散分析を行う予定である。また、大対モデルの妥当性を検討するために、共分散構造分析などを行うことを予定している。 昨年度の実践から得られた知見は今年度の日本教育心理学会、日本学校心理士大会で発表する予定である。
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Causes of Carryover |
研究分担者のデータ解析が終了していないため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
分担者が繰り越した平成26年度分の予算は、平成27年度に終わっていないデータ解析を進める際に使用する予定である。
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