2014 Fiscal Year Research-status Report
アイトラッキングを用いたエクスポージャー中の注意変化の検討
Project/Area Number |
26380946
|
Research Institution | Mejiro University |
Principal Investigator |
高橋 稔 目白大学, 人間学部, 准教授 (10341231)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 臨床心理学 / 注意の回避 / アナログ研究 / アイトラッキング |
Outline of Annual Research Achievements |
認知行動療法の伝統的な技法のひとつとして知られているエクスポージャーは、刺激にさらされている際の注意や態度によって、その効果が十分得られないことが知られている。これまで脅威刺激に対する注意や態度という点については、注意バイアス研究において取り上げられ検討されてきたが、たとえば500ミリ秒程度の短時間の観察が中心であり、十秒単位、分単位で実施されるエクスポージャー中の注意変動については十分検討されていない。そこで、本研究ではエクスポージャー中の態度の一つとして視覚的注意を取り上げ、脅威刺激にさらされている際の様子を検討することを目的としている。 これまですでに申請者は脅威刺激と快刺激を同時に提示するような個体内比較の実験計画において、30秒間脅威刺激にさらされるという条件のもと、視線の移動の様子を観察した。結果、脅威刺激をより回避する傾向があることを明らかにした。しかし、脅威の程度は個々人により異なり主観的であり、このことを踏まえた研究デザインを組むことが課題として挙げられた。そこで本研究計画では、個人特性を新たな変数として加え、注視傾向の特徴を明らかにすることを目的とした。本研究では限定性恐怖症(動物型)を取り上げることとした。限定性恐怖症は、脅威対象が明確であり、実験刺激としても準備がしやすい。しかし、限定性恐怖症(動物型)の症状を評価するためのアセスメントツールがないという現状にある。そこで、本年度は準備段階として限定性恐怖症(動物型)を評価する質問紙を作成し標準化することを目的とした。その上で、本年度はエクスポージャーに関する課題や実験計画について、立案した。これらの成果は国内で発表をすることは当然であるが、アイトラッキングを用いた研究は未だ盛んではないため、今後も海外の研究成果を確認するとともに、討論を重ねていく予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
先に述べたとおり、恐怖や不安は主観的体験で、また個人差もあり、これは限定性恐怖症においても同様である。そのため現在の課題として、脅威刺激に対する個人内要因を統制することが挙げられた。しかし、先行研究を探してみても、本邦において実験対象とする限定性恐怖症(動物型)を査定する標準化された尺度はない。そこで本年度は、まず限定性恐怖症(動物型)を評価する質問紙を作成し標準化することを目的とし、研究を進めることとした。とくに、本邦でも日常的にも多くの人が体験している虫に対する恐怖尺度を作成することとした。大学生379名を対象に調査用紙を配布し、359名より回答が得られた。因子分析の結果、虫恐怖症尺度は1因子27項目となった。再検査信頼性を確認した結果、.90と高い相関が確認された。また、FQ-16や簡易型行動課題を用いて、本研究で作成した虫恐怖尺度の収束的妥当性と弁別的妥当性を確認した。また抑うつや不安尺度を用いて併存的妥当性についても確認した。その結果、十分各妥当性が確認された。今後は、本尺度を用いて、対象者の脅威刺激に対する個人特性を評価する。 一方で、アイトラッキングを用いてエクスポージャー中の視覚的注意を測定しようとする本研究計画については、実験計画の立案を終え、現在はアイトラッキング装置で用いる記録・分析用ソフトウェアとの調整を行っている段階にある。 またこれまでの一連の成果については、2014年11月に開催されたアメリカ認知行動療法学会において発表した。このほか、エクスポージャー中の態度という点において、脅威刺激に対する態度に関する展開を見せている応用行動分析学の新たな立場の研究者・実践者との討論を行った。
|
Strategy for Future Research Activity |
エクスポージャーは脅威刺激に継続的にさらされることで脅威の程度が低減していくが、そのスピードは一定ではなく個人差がある。そのため単純に時間経過に伴う視覚的注意の変化を測定するのではなく、脅威刺激に対する主観的評価が低減していく様子を記録しながら、これに伴い視覚的注意がどのように変動するものかについて検討する必要がある。そこでまず、脅威刺激にさらされていることにより起こるレスポンデント条件づけの消去(もしくは馴化)過程と、視覚的注意の変化について検討することを目的としている。 今後の研究では、脅威刺激にさらされた際に対象者の主観的評価の低下していく様子について、参加者より報告を受ける(パソコンによるキーボード操作をしてもらう)ことのできる課題を用意した。そしてこの実験課題中の視覚的注意の特徴をアイトラッキング装置により記録し、その結果を検討するという計画である。実験参加者は、本年度作成した限定性恐怖症(動物型)尺度の結果より高不安群(20 名程度)と非不安群(20 名程度)に分けて比較検討する。この課題を通して、アイトラッキング装置による視線移動の解析結果として、おもに総注視時間と総注視回数を測定時間単位(10 秒間単位)を算出し、評価する予定である。この実験の後、現在のところあらたに提示時間を一定にし(例えば、60 秒程度)、提示回数を操作する条件を用意し、その際の視線的注意を観測し、エクスポージャーの効果とともに検討することを予定している。 以上の研究を円滑に運用したり、データ処理の事前整理のために大学院生や大学院修了生のアルバイトを雇用する予定である。また、実験参加者への謝礼を支払う予定にしている(1時間あたり、1000円程度)。また得られた成果については、国内外での学会等へ参加し、議論していく予定である。
|
Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、アイトラッカーの購入費用が当初予定していた金額よりもりも安価にすんだこと、また研究補助の費用を予定した費用を下回ったことによる。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度も本年度同様に出張を予定しているが、本年度実績にもとづき考えると足りない状況にある。そのため本使用額を出張費用として充てたい。このほか実験をより円滑に進めるために人件費として充てると同時に、次年度の物品費用を低く予算を立てているため、残りはおもに物品購入費用としたい。
|