2015 Fiscal Year Research-status Report
不安の高さが妨害情報の抑制過程に及ぼす影響と神経基盤の解明
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26380986
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
松本 絵理子 神戸大学, その他の研究科, 教授 (00403212)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 不安 / 感情 / 注意 |
Outline of Annual Research Achievements |
何らかの課題に取り組む際、日常環境では課題に無関係な雑多な情報(ノイズ)があふれているため、それらの無関係な情報を抑制する必要がある。抑制プロセスに関する理論的モデルでは、目標課題の負荷が高い場合、認知資源を集中させるために周辺情報の処理を行う余剰な資源が枯渇し、その結果、目標課題と関連のない情報の処理が抑制されると考えられてきた(認知負荷理; Lavie, J.Exp.Psychol HPH, 1995)。このモデルは日常場面における機器の操作と課題遂行時の雑多な情報の影響、周辺デザインの妨害性などの評価に応用可能であることから広く注目を集めてきている。しかし、これまでの多くの研究は健常な個人を対象としており、情動的側面の個人差に注目した場合、従来のモデルでは説明できない場合が考えられる。 本研究課題では、情動的側面の中でも不安に注目し、不安の感じやすさの個人特性と、課題と関連の無い情報の抑制との相互作用を検討するものである。申請者はこれまで、高不安者の注意特性について顔表情を用いて検討を行い、高不安者では脅威表情に対する注意は解放されにくいことを見出してきている。一つだけ異なる表情を検出する視覚探索課題を行った場合では、高不安者では、背景の妨害刺激に怒り表情が配置された場合、反応時間が有意に遅くなったが、この効果はセットサイズが大きく課題の負荷が高い条件で顕著であった。このことから、高不安者では課題負荷が高い場合であっても中心となる課題に関連しない情報に注意を向けてしまう傾向が強いことが示唆される。本研究では、課題成績と神経活動を記録することにより、課題に関連しない情報の抑制に関わる脳内処理と不安の高低の関連を分析し、認知過程に及ぼす不安の影響を明らかにすることを目指すものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度は実験心理学的検討を中心に課題研究を行い、不安と妨害刺激の抑制の関連について検討した。特に、課題非関連に呈示される表情の効果について、課題非関連刺激の配置と数を操作して妨害抑制過程に及ぼす影響と不安特性の関係について焦点を当て、検討を行った。その結果、課題非関連刺激の数と影響の大きさについて一定の関係が見いだされた。さらに、26年度の成果では、脅威性の高低により注意が捕捉される程度に影響がみられるかについて実験を行った結果、脅威性が低い場合には注意が捕捉される程度は低いことが示された。課題への負荷だけでなく、刺激の持つ情動価を定量的に操作することで、課題非関連情報処理のモデルの新な側面について検証可能であることを示した。平成27年度は、前年度の成果を受けて、妨害刺激の物理的特性について操作を加え、より初期の視覚処理過程での操作が、感情価を持つ刺激に対する注意捕捉や配分に影響をどのように及ぼすかを検討したところ、妨害刺激の物理的特性の操作は検出成績に影響を及ぼすことが示された。しかし、不安との関連については、明確な相互作用は認められなかった。 この結果は、不安の感じやすさといった個人特性が脅威情報への注意抑制と関連するというこれまでの知見が、刺激の物理的な特徴に負うものではなく、刺激の脅威性などの感情価のカテゴリカルな処理がより影響を及ぼしていることをする。この結果は、脅威情報への注意捕捉が認知処理段階のどのレベルで生じているかを検証する手がかりとなるため、重要な結果であるといえる。さらに解析を進め、成果の公表を目指したい。脳波測定実験の進捗はやや遅れ気味であるが、これらの行動データからパラメータを見直し、進めていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
高負荷の課題を遂行する際における、課題と関連のない情報をどのように抑制し、課題に認知資源を配分するのか、という大きなテーマの中で、特に不安という個人的な情意面での特性に着目し、不安の程度に関する計測結果と心理実験、および課題中の脳活動データを組み合わせ、検討を行ってきた。昨年度に得られた不安尺度得点と妨害刺激の物理的特性の操作に関するデータ解析をさらに詳細に進め、刺激の視覚処理の比較的初期の段階に影響を及ぼすと予測される操作と不安との関連について、心理ー神経基盤に関するモデルの構築を進めたい。また、26年度、27年度に行ってきた刺激の情動価特性、物理的操作と不安との行動実験の結果を元に、不安が高い場合には、どのような特性を備えた刺激には注意を抑制することが困難であるのかについて詳細に検討し、脳活動の記録とその解析を加えて、複数の側面からの検討を進めたいと考えるものである。特に脳活動の記録と解析において、個人差の検討を行うために、サンプルサイズを増やすと同時に解析手法の吟味を行い、処理の高速化を図るための手法を開発したい。
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Causes of Carryover |
H27年度後半に使用を予定していため、論文執筆及び投稿に必要となる経費である英文校閲費、および投稿料(ページチャージ)相当額を確保していた。特にオープンアクセスを行うためのページチャージは比較的高額であるが成果公表には効果的であるため、予算を確保していた。しかし、解析プロセスを進めた結果、より明確にデータの個人差に言及するためにもサンプルサイズを追加し再度検討を進める方が望ましいと判断に至った。そのため、確保していた英文校閲及び投稿料を次年度に繰り越す必要が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額については、H28年度にサンプル追加および再検討を行ったデータを元に論文執筆を行い、その論文投稿し成果を公表するために、事前の英文校閲費及び投稿後に必要なページチャージ等に充当したい。特にオープンアクセスの為の費用は比較的高額であるが、成果の公表伝達には有用であるため、次年度使用額を用いて行いたい。
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