2015 Fiscal Year Research-status Report
近代日本の女性研究者の学歴・キャリアに関する歴史的研究─博士号取得の視点から─
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26381002
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
山本 美穂子 北海道大学, 大学文書館, 技術専門職員 (70455583)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 帝国大学 / 学位令 / 博士 / 女性研究者 / 女子高等師範学校 / 女子専門学校 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、「1920年勅令第二百号の学位令下における女性の学位取得の実相」を研究課題とし、資料調査をもとに、論文を発表した。 1927年保井コノが理学博士号を取得して以降、1947年までに、理学博士・医学博士・農学博士・薬学博士の理系4種別で、女性の学位取得者が誕生した。文系種別の学位は、戦前期に女性に授与されることはなった。学位取得者数をみると、理学博士(14名)、医学博士(147名)、農学博士(4名)、薬学博士(2名)であり、圧倒的に医学博士の数が多かった。他の学位種別より医学博士数が多数であるのは、男性と同様であった。これは、「医学博士」の学位が、女性にとっても、臨床医や研究者のキャリアに、有為な職業的資格であったことが要因と考えられた。 一方、理学博士・農学博士を取得した女性たちは、植物学者、生物学者のほかは、無機化学・有機化学・物理化学・食品化学・生化学・栄養化学をはじめとする化学者が大半を占めた。このような特色は、女子高等師範学校の理科(物理、化学、植物、動物)、女子専門学校の家政学部といった、出身校の教育課程が基盤となり、由来したものであった。また、帝国大学において、女性の進学をいちはやく認めた学部が、理学部・農学部であったことも背景のひとつであると推察された。そして、研究成果、すなわち学位論文の水準の高さが、女性の理学博士・農学博士を輩出する最大の源であった。 以上から、これまで個別の小伝にとどまりがちであった女性の学位取得について、1920年勅令第二百号の学位令が学校基本法により1947年3月末に廃止となるまでを主な対象として、女性の学位取得状況を一覧化し、学位の種別毎に、どのような特色が見られるのかを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は、1920年改正の「学位令」下において、学位審査を行い得た帝国大学の一校(東北帝国大学)について、学位審査関係文書の資料調査を行い、資料状況の把握及び関連資料の収集を予定通りに進めることができた。 また、国立国会図書館関西館に保管されている学位論文を、引き続き調査した。1920年改正の「学位令」下において博士号の学位を取得した女性についても、国立国会図書館東京本館、宮城県図書館、国立台湾大学図書館・校史館、国史館台湾文献館等において、回顧録・小伝等を収集して、その学歴・キャリアに関する資料調査を進めた。 以上により、おおむね目的に沿って計画通りに研究が進展しているものと評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、引き続き、「1920年勅令第二百号の学位令における女性の学位取得の実相」を研究課題とする。まず、【1】女性の学位取得者の中で最も数の多い「医学博士のキャリアの形成と研究分野の特色」について、出身校である東京女子医学専門学校・帝国女子医学専門学校と、学位授与大学である帝国大学に着目して、資料調査・分析を行う。資料調査先としては、(1)九州大学大学文書館、(2)東北大学史料館、(3)京都大学大学文書館、(4)東邦大学額田記念東邦大学資料室・メディアセンター、(5)東京女子医科大学図書館・大学史料室、(6)国立国会図書館(東京本館・関西館)等に赴き、学位審査関係文書・学位論文・回想録等の資料調査を行うと共に、出身校の同窓会誌を調査する。 同時に、【2】「女子高等教育機関(女子高等師範学校・女子専門学校)への学位の影響」について、資料調査・分析を行う。女子高等教育機関を卒業後、女性の職業は主に教職・医業に限られていた当時の状況下で、女性が学位を取得するということが、各自のキャリアに対してどのような効果・作用をもたらしたのか、そして、出身校である女子高等師範学校や女子専門学校にとって、大学昇格運動や新制大学での大学院設置運動へと連なって、その後、どのような作用・影響をもたらすのかを解明する。資料調査先としては、上記の機関のほかに、(7)お茶の水女子大学附属図書館、(8)日本女子大学図書館、(9)奈良女子大学附属図書館に赴くこととする。特に、母校の大学昇格運動や新制大学での大学院設置運動に際して、学位を取得した女性たちの発言や行動に関する記事を、女子高等教育機関の同窓会誌・沿革記念誌を中心に調査する。 当該年度内には、全調査の総括として、論文をまとめる。
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