2015 Fiscal Year Research-status Report
教師の熟達とキャリア形成に関する日独比較研究 ―教師力としての教育的タクトを軸に
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26381027
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
鈴木 晶子 京都大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (10231375)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | タクト / 教職熟達度 / 歴史人類学 / インクルージョン / 教師力 / 教師のキャリア形成 / 教育的判断力 / チーム学校 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、授業実践、学級経営、生活指導など教師の仕事を総合的に把握し、教師のキャリア形成を視野にいれ、教職熟達度を指標化し、教師力養成プログラムを構築することを目的としている。平成27年度は、前年度、京都市とドイツ・ケルン市の学校におけるフィールド調査をもとに教師力を構成する様々な要素の分析を進め、初任時、10年目、役職者(校長・教頭・学年主任・研究主任・教科主任など)のそれぞれの段階で求められる教職熟達度を抽出する作業を行った。時系列では6月には、校長経験者への聞き取り調査、7月には、ケルン大学教育学研究所から調査のため来日したドイツ人研究者とともに、京都市の小学校に4日間にわたり授業実践の参与観察およびビデオグラフィーによる調査、授業振り返りや分析についての教師に対するインタビューおよびドイツでのフィールド調査の映像分析を行った。10月には「タクトと歴史人類学」と題する国際ワークショップを開催した。12月と3月には、2つの京都市内の小学校の授業観察および校長への聞き取り調査を行い、次年度一年間にわたって継続的に教師の熟達度を参与観察・インタビューにより調査するための準備作業を行った。 以上の調査を通して、現代の学校教育に求められている課題に迅速かつ適確に対応するため、インクルージョンおよびチーム学校の発想での教師力養成が重要であるという認識に至った。前年度3月に調査に入ったドイツの学校は、インクルージョンの先駆的実践校として注目されている。クラス編成、教員配置、教材開発、カリキュラム、保護者対応、医療・社会福祉の専門家との連携など、学校が有機的なシステムとして機能するために様々な工夫が施されていた。次年度は以上の二つの現代的課題を考慮に入れた調査分析をさらに行うことにより、現代の学校のニーズに応じた教師力養成プログラムを開発することを目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度のドイツでの調査を通して次のことが明らかとなった。1)言葉によるコミュニケーションはもとより、非言語的なメッセージの重要性、板書や教室の掲示物など場の設え、指名の仕方、注意の仕方、声の抑揚、表情、褒める・叱る、評価する、指図するなど教師のパフォーマンスが教育実践にとって重要な要素となっている。2)教室という空間で、授業時間をいかに運営していくかという課題を、時間および空間を量だけではなく質の観点から捉えていく手法が重要となる。とりわけ注視や集注のさせ方、遂行すべき学習課題に向けての意識の集め方、生徒間でのやり取り、とくに言葉や態度などを通して共感的に相手を受容する雰囲気の醸成などが鍵となっている。3)映像分析から、言葉と態度の齟齬が頻繁にみられる教師が浮かび上がってきた。言行一致のパフォーマンスを安定させていくための教師力についてさらに調査する必要がある。また、今年度の京都市の小学校調査では、次のことが明らかになった。1)登下校や朝礼では、挨拶や声かけを通して、教師は生徒の健康状態や精神面での落ち着きなど様々な情報を受け取り、同時に、学校での一日を協働していくための様々な調整を行っている。挨拶など儀礼的な行動のもつ象徴的意味などを分析してきた人類学的手法の重要性を再確認した。2)日独それぞれの校長インタビューを通して、ドイツでは指揮系統が常に表立って見える形での言葉によるコミュニケーションに重きが置かれており、それに対して日本では、マネージャー型の非認知的コミュニケーションを通した、いわば「行間を読む」ような教育的判断力が重視されていた。以上、文化比較的観点も考慮に入れた、人類学的手法による本研究はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる平成28年度は、これまでの調査結果のさらなる分析に加え、2つの京都市内の小学校の協力を得てインクルージョンを視野にいれた教師力の検討と、チーム学校の観点からの教師のキャリア形成を考慮した調査とその分析を進める。そして「教師自身による教師力の自己形成」を支援する養成プログラムを開発する。 1)校長に対する聞き取り調査の実施:校長のリーダーシップの必要性が指摘されて久しい。絶妙のタイミングで適切な言葉かけをする配慮であったり、困難に直面している教師自身が困難なその経験を自らのキャリア形成の糧として捉えることを可能にするような支援であったり、校長が実際に教師を伸ばすために行っている工夫は実に様々ある。自分なりの学校づくりをビジョンとして描き、教員の賛同と支援を得るプロセスを、インタビューを通して記録する、そして、チーム学校として学校を機能させるための要素を抽出し、求められる教師力の指標化につなげる。 2)教員の授業実践をはじめとする教育実践の参与観察と聞き取り調査の実施:各校3,4名の教員の教育実践を参与観察するとともに、自らの実践についてパフォーマンス分析を行ってもらう。人類学的な観点で教室空間をみるならば、教師はクラスの生徒一人ひとりの特徴を把握し、授業展開でそれを活かしていくストーリーを思い描いている。そうした場面展開の想像力も含めて教師力を定義づけ、経験による教職の熟達を支援するような養成プログラムを現場の力を得て開発していく。成果発表の形としては、2017年2月には、従来の知とは異なる知としてタクトを捉え直す観点から、人類学的手法による研究成果を報告し議論する国際会議を京都大学で開催するとともに、年度末には、教師力養成プログラムを公表することにしている。
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Causes of Carryover |
日独の共同調査チームにより学校調査を計画し、ドイツ側研究者の招聘に関わる旅費を見込んで当初は計画していた。しかし、ベルリン自由大学から1名、ケルン大学から2名いずれも、ドイツ側からの研究助成の申請が採択され、旅費の一部(宿泊費など)のみ日本側として負担することとなった。そのため、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は最終年度であり、人類学的手法を教育関係のフィールド調査で活用する意義と、教師力養成プログラムの開発成果について、国際会議を京都で2017年2月18日と19日の両日に京都大学で開催することを計画している。この成果はドイツ人類学協会の機関誌に特集号として組まれ公刊することが決まっている。国際会議開催のための招聘旅費や会議開催に係わる謝金など諸費用が見込まれる。
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Research Products
(7 results)