2015 Fiscal Year Research-status Report
19世紀後半イギリスにおける「浮浪児」の処遇と教育
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26381031
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
三時 眞貴子 広島大学, 教育学研究科(研究院), 准教授 (90335711)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | イギリス / 浮浪児 / 教育史 / 児童福祉 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、19 世紀後半のイギリスにおける「浮浪児」の教育実態を、浮浪児を収容した寄宿制イ ンダストリアル・スクールに残された入学記録、退校記録、各種委員会の議事録等、これまで使われたことのない一次史料を用いて明らかにするものである。 アードウィック・グリーン校の入学者名簿とアードウィック・グリーン校の退校記録をもとに、入学時と退校時の教育レベルの比較を行い、浮浪児の入学時の識字レベルが、一般の基礎学校在籍児童と比較してもほぼ変わりなかったこと、また12歳頃に離学して徒弟修行へと入っていた一般の労働者階級児童と比較して、16歳まで寄宿制の学校で識字教育と職業訓練を受けるインダストリアル・スクール入所児童の識字レベルがかなり高かったことを明らかにした。 さらに、治安維持のため、あるいは地域社会の発展のために喫緊の課題とされた浮浪児の処遇や教育をマンチェスタの教育委員会(学務委員会)がどのように対処したのかを、当時の学務委員会の議事録をもとに明らかにした。その結果、巡視員(Beadle)という職を学務委員会が設置し、地域の浮浪児の調査と処遇に当たらせていたことを明らかにした。巡視員の具体的な活動についてはこれまで明らかにされてこなかった点であり、これを論文にしてThe East Asian Journal of British Historyに投稿した。(査読結果により掲載が決定した)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の計画はアルドウィック・グリーン校の運営委員会の議事録や年次報告書から教育問題とその対応について検討することであった。具体的には1 最終決定を行っていた運営委員会の議事録を読み、どのようなことが課題となっていたの か、そしてそれに対しどのような対応をしていたかをまとめる。2 寄宿舎の運営を担ったハウス委員会の議事録を読み、子どもたちの日常生活がどのように 営まれていたのか、また何が問題となっていたのか、その対応についてまとめる。3 年次報告書から教育局と科学技芸局が行っていた国庫補助金受給のための生徒の個別試験の結果を年次ごとに調査し、データベース化して整理する。4 内務省や教育局から送付された通達や文書や年次報告書から同校に対する行政側の政策や評価を整理し、それに学校側がどのように対応したかを検討する。
2のハウス委員会の議事録の調査が遅れているが、その他は概ね計画通りに終わった。とりわけ4の部分で中央の内務省や教育局よりも地方の学務委員会との連携が強かったことを突き止め、関連して学務委員会の議事録を読むことで、具体的に地域行政の中でインダストリアル・スクールがどのような位置付けだったのか、インダストリアル・スクールへの送致だけではなく浮浪児処遇全体がどのように行われていたのかを明らかにできた点は、非常に有意義であった。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度に予定していて終了できなかった、上記2の寄宿舎の運営を担ったハウス委員会の議事録を読み、子どもたちの日常生活がどのように 営まれていたのか、また何が問題となっていたのか、その対応についてまとめる。 今後は計画通り、浮浪していた女子の問題について取り組む。 浮浪児に関して男女の区別が明確に意識されるのは、1880年代であり、それは少女売春への懸念から生まれてきた。そのため、当時新設の女子校であるセイル校に入学した女子がどのような理由で入所したのかを明らかにし、少女売春と浮浪児処遇の問題を検討する。具体的には入学記録と退校記録をもとに、入学時の状況、収容期間、年齢、出身地、保護者の有無、保護者の職業、委託理由等の基本データに、識字レベルを加えたデータベースを作成する。
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Causes of Carryover |
本科研の成果物である、英語論文の印刷が遅れたため、抜刷り代として確保しておいた分が次年度に繰り越しになった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
残金は当初の予定通り、抜刷り代とその郵送料に使用する。
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Research Products
(2 results)