2014 Fiscal Year Research-status Report
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26381035
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Research Institution | Tsuru University |
Principal Investigator |
田中 昌弥 都留文科大学, 文学部, 教授 (60261377)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 国際情報交換 カナダ / ナラティブ / Narrative Inquiry / 学力 / 教育実践 / 教師教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
第一に、本研究のベースとなるNarrative論と教育学との関係について概念的整理を行い、その研究成果を「教育人間学におけるNarrative Inquiryの可能性」(2014年6月)として総合人間学会第9回大会にて発表した。これは、多くのNarrative論の中でも、特にNarrative Inquiryが、教育現実や教育実践を外側の視点から分析する多くの外在的方法論と異なり、教育的営為を内在的に解明できるとともに、マクロの社会的視点との接続も可能にする、教育学にとって本質的な方法論であることを明らかにしたものである。 第二に、本研究の中心となる「学力」の課題に踏み込んだ概念的および学説史的検討を行い、その結果を「学力と臨床教育学-自己と世界を再構成する「ストーリーの学力」」として、田中孝彦他編『戦後日本の教育と教育学』(かもがわ出版、2014年10月)に掲載した。これは、日本の教育において常に問題となってきた「生活」と「学力」との分裂について、両者をNarrative Inquiryの中心概念である「ストーリー」によって接続できることを、2つの実践分析も示しながら明らかにしたものである。 第三に、Narrative論的な内容を含んで学力形成につながる優れた教育実践を行ってきた現職および退職教員たちに対するインタビュー調査を東京、札幌、岩見沢にて実施した。現在、それを文字化したデータを元に検討中である。Narrative Inquiryの中心地であるカナダ、アメリカでも「学力」についての適用は展開途上であるため、先進的な意義を持つ研究となることが見込まれる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
達成できた内容の一つは、本研究の理論的ベースの整備である。計画していたペースよりも早く、平成26年度中に学会発表と論文によって内容を公開することができた。もう一つは、国内調査である。日本の学校教員に対するインタビューとその検討を計画通りに進めている。 他方、平成26年度に予定していた海外調査の予算については、平成27年度に繰り越すこととした。理由の一つは、カナダ在住の研究協力者がご家族の事情で日本に長期間帰国することになり、平成26年度中の調査参加が難しくなったことである。 もう一つは、本研究にとってむしろ積極的で、より大きな理由だが、予定した海外調査を、上記の研究協力者の参加を得ずに実施する可能性を検討していたところ、2015年6月にアルバータ大学を会場に開催される Academic Homeplace Conference: An International Community in Teacher Educationへの招待を受け、国際的な研究発表の場が与えられたことである。 Narrative Inquiryの主要な研究者・実践家が国際的に集まり、10年振りに開かれるこのConferenceは、招待者のみが参加を許されるため、本研究計画に予め入れておくことはできなかったが、そこで日本の教育実践におけるナラティブと学力形成の問題について研究発表を行い、研究交流を持つことは、平成26年度に予定していた調査内容に加え、平成27年度から28年度に計画していた内容の一部までを、当初の想定以上の条件で先取りする意味をもつ。したがって、平成26年度予算の一部を平成27年度に繰り越すことでこのConferenceへの出席を可能にすることが、本研究の目的にむしろ適っていると判断した。 以上から、予算的には繰り越しが生じるものの、本研究の遂行にとっては積極的な理由によるものであるため、達成度については、おおむね順調に進展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度については、4月に、国内調査の一部と、AERA大会でのNarrative Inquiryの英語圏での研究動向調査をすでに実施した。 今後の予定としては、6月に上述のAcademic Homeplace Conference: An International Community in Teacher Educationに参加し、前年度と今年度4月の国内調査等の結果を元に、日本の学力論と教育実践に関してNarrative Inquiryの観点から分析した結果について研究発表を行う。このConferenceには、英語圏以外のNarrative Inquiry研究者も参加する予定のため、平成28年度に本研究の締めくくりとして予定していたAERAでの発表よりもこの領域における国際的な意義は高いことになる。 しかし、学力についてNarrative論的な検討は、当然ながらさらに進める必要があるため、平成27年度に予定していた、国内調査とアルバータ大学での調査、およびAERA大会での研究発表への応募は、当初計画の通りに行い、平成28年度にその内容を含んで研究総括を行う。
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Causes of Carryover |
研究協力者と共に実施することを予定していたカナダ・アルバータ大学での平成26年度の海外調査に代えて、研究代表者が研究報告者として招待を得ることができたAcademic Homeplace Conference: An International Community in Teacher Educationに参加し、そこで国際的な研究発表と、平成26年度に予定していた調査の内容にかかわる研究交流を行うこととした。それに伴い、平成27年度予算の各項目に繰り越す必要が生じた。 また、平成27年度のカナダ調査には、予算の関係上、研究協力者を伴わない予定であったが、招待を受けていない研究協力者は、Academic Homeplace Conference: An International Community in Teacher Educationに参加できないため、平成26年度調査で予定していた内容の一部は、平成27年度調査に研究協力者の参加を得て実施することにした。それに応じた研究協力者の旅費等も平成26年度から平成27年度に繰り越す必要が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は、主に平成26年度に計画していた海外調査分によるものであるから、基本的にそれに代わるものとして平成27年度に追加実施する内容に充当する。具体的には以下のとおりである。 1 上述のConferenceに出席するための旅費300,000円、資料購入等の物品費146,610円、発表原稿のネイティブチェック料金(その他)50,000円、資料整理の人件費・謝金100,000円 2 平成27年度に予定していたカナダ調査に研究協力者が参加するための旅費200,000円
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