2014 Fiscal Year Research-status Report
帰国後のお雇い教師H.ダイアー研究 -教育文化還元活動と日本支援活動を中心に-
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26381048
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Research Institution | Aichi University |
Principal Investigator |
加藤 鉦治 愛知大学, 法学部, 教授 (00109232)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ヘンリー・ダイアー / お雇い教師 / スコットランド / グラスゴウ / 日英交流 / P.A.ヒルハウス / 東京帝国大学 / 造船学 |
Outline of Annual Research Achievements |
お雇いスコットランド人教師ヘンリー・ダイアー(Henry Dyer)の帰国後の諸活動のうち,「お雇い教師の推薦と紹介を介した日本教育の支援活動」をめぐって考察した。 具体的には,(1) 日清戦争後に造船・造艦技術の自立および海運業・造船業の育成の必要性のなか,明治30年5月に始まった東京帝国大学工科大学のお雇い造船学教師の選考,(2)英国のグリニッジ海軍大学校造船学科を卒業し造船所での実地経験のある適任者の確保が難しいと判明した後, 選考基準を変更してグラスゴウ在住のH.ダイアーに候補者推薦を依頼し,ダイアーよりP.A.ヒルハウスが推薦され,選任・着任に至るまでの経緯と事情,(3) ヒルハウスの経歴(グラスゴウ大学卒業後9年間,造船会社で船舶の製図・製造に従事),ならびに東京帝国大学工科大学における教育活動(とくに「造船意匠及製図」の担当による商船設計製図教育)について,それぞれ調査・分析をした。(4)ヒルハウスの生涯, とくに明治34年7月にお雇い解除になって以降の経歴(グラスゴウ大学第4代造船学教授など),ならびに(5) 日本との関係と交流の推進(昭和4年東京で開かれた万国工業会議への出席と論文発表,グラスゴウ大学へ『日露戦争絵聚』と題する錦絵画帖の寄贈)についても,考察した。 本研究を通して,お雇い教師は母国に帰ってからも日本と関係を保ち続け日本教育へ支援をなしたという,お雇い教師のあらたな局面を解明した。お雇い教師は任務が終了すれば帰国する一時的な教育文化伝来者であるという特質に着目し,日本における期待された活動についてだけでなく帰国後における生涯と活動についても解明することは,お雇い教師の歴史像の再構成あるいは精緻化に資すると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画の初年度であるため,内外の先行研究を整理し批判的に検討するとともに,本研究第一の分析事項として予定した日本教育の振興・支援活動について分析した。 具体的には,(1) H.ダイアーによる東京帝国大学工科大学お雇い造船学教師P.A.ヒルハウスの推薦,(2) グリニッジ海軍大学校造船学科卒業生に代わりグラスゴウ大学卒業生ヒルハウスが選出され任命された事情と経緯,(3) ヒルハウスの経歴と東京帝国大学工科大学における教育活動の実際,(4) ヒルハウスの生涯, とくにお雇い解除(明治34年7月)後の経歴ならびに日本との関係と交流の諸相について,考察した。 研究成果は,日本英学史学会関西支部大会で発表するとともに,「お雇い教師P.A.ヒルハウス-帰国後のH.ダイアーによる推薦-」と題する論文にまとめ,同支部の紀要『関西英学史研究』に投稿した。査読のうえ採択され,同紀要第8号に掲載された。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は,本研究第二の分析事項であるグラスゴウの教育改革について考察する予定である。とりわけ,グラスゴウ技術教育改革の一環としてダイアーが理事の一人として先導した,(1) グラスゴウ・西部スコットランド技術カレッジの再編,(2) 工部大学校の教育・経営体験にもとづいて整備した同カレッジの教育課程・学科編成の具体相をそれぞれ分析するとともに,(3) 工部大学校の教育課程・学科編成・授業科目との比較考察を通して,日本からの「逆影響」という注目すべき側面を解明する。 次年度以降は,本研究第三・第四の分析事項である,(1) 日本事物の紹介宣伝,とくに日本から持ち帰った大量の美術工芸品を介した日本紹介, (2) 日英協力の推進活動, とくに帝国財務及工業通信員として日本の社会・財政事情を英国に紹介・宣伝する活動,について考察する。 これらの分析作業は, ストラスクライド大学,グラスゴウのミッチェル図書館,ケルヴィングローブ美術館・博物館,エディンバラ市中央図書館などに所蔵されているダイアー関連の記録史料を素材として進める予定である。いずれについても,かつて調査研究を試みたことがあるが, 帰国後のH.ダイアーによる「逆影響」というあたらしい視点から考察を深め,日英教育文化交流の歴史像を再構成ないし精緻化することを目指している。
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Causes of Carryover |
予定していた海外出張を実施しなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度は海外出張(イギリス)を予定しており、その費用に充当したい。
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Research Products
(2 results)