2015 Fiscal Year Research-status Report
帰国後のお雇い教師H.ダイアー研究 -教育文化還元活動と日本支援活動を中心に-
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26381048
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Research Institution | Aichi University |
Principal Investigator |
加藤 鉦治 愛知大学, 法学部, 教授 (00109232)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ヘンリー・ダイアー / お雇い教師 / スコットランド / 日英交流 / グラスゴウ大学 / 明治日本 / 帝国財務及工業通信員 |
Outline of Annual Research Achievements |
お雇いスコットランド人教師ヘンリー・ダイアー(Henry Dyer)の帰国後の諸活動のうち,主に「お雇い教師としての日本体験・日本観察をもとにした日本研究」をめぐって考察を深め,その内容,特色,背景について明らかにした。 具体的には,1, 日本研究の内容は,日本の経済社会,工業教育,商業教育,修身教育という個別主題についての研究だけでなく,『大日本』『世界政治のなかの日本』という総合的な日本研究もまとめあげた。とくに後者は「日本の歴史や現状や課題を実証性の高い研究として集大成した」と評されている。 2,日本研究は,日英関係の進展,国際情勢の変化のなか進められた。20世紀の初頭,日本は世界が驚くほどの成長をとげ国際社会の一員として台頭したのに対して,かつて繁栄していた英国は陰りがみえ内政改革が求められていた。しかも「ロシアの膨張政策」という国際情勢の変化により,英国における日本への関心は一段と高まった。そのようななか,ダイアーは,明治35(1902)年3月に明治政府の帝国財務及工業通信員に推挙されたことで明治政府が提供する日本関係資料を自在に活用し,日本研究を精力的に推し進めた。 3,その日本研究では, 母国英国との比較という方法が駆使された。当時内政改革が求められていた英国において,ダイアーは日本をモデルとして位置づけ,日本興隆の原動力の分析などをとおして低迷する英国社会への教訓を指し示そうとした。「彼の日本研究は,世界に日本の存在を知らせただけでなく,日本からの教訓という形で低迷するイギリスに対して刺激剤となった」。 本研究を通して, お雇い教師は任務を終了して帰国してからも日本と関係を保ち続け, 日本への支援を成したことを解明した。 帰国後の生涯や活動の諸相を解明することは,お雇い教師の歴史像の再構成あるいは精緻化に資するであろうと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第二年度にあたる本年度は,第二の分析事項である「グラスゴウにおける教育改革」をめぐって考察する予定であった。しかし,分析素材等の都合から計画を修正し,第三の分析事項「お雇い教師としての日本体験・日本観察をもとにした日本研究」について考察した。本主題はかつて『英学史研究』第41号(2018)等に発表したことがあるが, 「Meiji-era Educational Advisor Henry Dyer's Studies of Japan: His Work and its Special Characteristics」としてまとめ直し,『愛知大学教職課程研究年報』第5号(愛知大学教職課程センター)に投稿し掲載された。 ほかに,帰国後のH.ダイアーの活動いかんという本研究課題にかかわる近年の研究動向を調べ,あらたな研究項目と研究視点を探求するため,「英国におけるヘンリー・ダイアー研究」と題する研究を企画し関西教育学会で発表した。同発表は『関西教育学会紀要』第40号(2016)に投稿中である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は,本研究最後の分析事項である「グラスゴウにおける教育改革」について考察する予定である。とりわけ,グラスゴウ技術教育改革の一環としてダイアーが理事の一人として先導した,(1) グラスゴウ・西部スコットランド技術カレッジの再編,(2) 工部大学校の教育・経営体験にもとづいて整備した同カレッジの教育課程・学科編成の具体相をそれぞれ分析するとともに,(3) 工部大学校の教育課程・学科編成・授業科目との比較考察を通して,日本からの「逆影響」という注目すべき側面を具体的に解明する。 本年度は,本研究計画の最後の年度にあたることから,これまで発表してきた成果をまとめて,年度末に『研究成果報告書』を編集し刊行する予定である。帰国後のお雇い教師H.ダイアーによる日本から英国への「逆影響」というあたらしい視点からまとめ直し,お雇い教師の歴史像を再構成ないし精緻化することを目指している。
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Causes of Carryover |
予定していた海外出張を実施しなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度は海外出張を予定しており、『研究成果報告書』を編集し刊行する予定もあり、それらに使用する計画である。
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Research Products
(5 results)