2014 Fiscal Year Research-status Report
中国の近代化過程における美と美育に果たしたメディアの位置づけに関する実証的研究
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26381049
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
楊 奕 同志社大学, 社会学部, 准教授 (60580751)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 美 / 美育 / 中国近代化 / 中国近代知識人 / メディア / 道徳教育 / 蔡元培 / 中国人留学生 |
Outline of Annual Research Achievements |
中国社会の急速な近代化によって、国民の心を豊かにする役割をもつ道徳の問題が浮上してきている。これまで行われてきた道徳教育はもはやグローパル社会に対応できなくなっている。こうした状況下で、道徳の再建が喫緊の重要課題として新たに注目されるようになった。中国は清末以後の近代化に伴い、美および美育におる国民教育を形成する思想とその実践があった。美を重んじる中国史を踏まえて、本研究の目的は美による国民形成と道徳再建の可能性を改めて追究するところにある。 美は抽象的な概念であり、ある種の主観性をもって語られ定義され、判断されることが多いため、美の語り方/伝え方こそが、美の本質を示すことになる。ここで美を語る/伝える手段とされるメディアの問題が現れる。美はそれを語る/伝えるメディアに依存し、また、メディアはその美の語り方/伝え方を規定する。この意味では美を醸し出すメディアこそが、実は美を作り出し、さらには国家と国民を作り出す大きな原動力を持っている。ここにメディアの視点から思想史や教育史の研究にとって不可避とする理由がある。 メディアという視点から近代中国の美と美育の実態を解明するため、初年度では、20世紀初頭において、初めて「美育をもって国を救う」という教育方針を打ち出した民国初代教育総長・北京大学総長蔡元培の言説とその実践を取り上げ、彼の説いた美の理念がいかに当時の社会に浸透していたのかを資料に基づいて実証的研究を行った。 先行研究に依拠しながら膨大な資料を整理することを通して、美育推進の輪郭をある程度把握することができた。要するに、校内新聞紙や教育雑誌、芸術活動の開催などメディアを活用し、知識人によるトップダウン式の推進であった。メディアと取り入れたことで、美育をよりダイナミック的に捉えることができた。この点において大きな意義と重要性があると認識している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究期間は3年間を予定している。初年度では、「美」の言説の誕生とその発信者としての位置づけを中心に(1910年代から1930年代まで)、「美育救国」の教育方針を提出した北京大学元総長蔡元培の言説と実践にあてて、美の理念とその教育のあり方をいかに社会全体に浸透させたのかを明らかにした。 一年目では、主に資料の収集・整理・分類と翻訳といった基礎作業を行った。現在まですでに以下の作業を完成した。 1、『蔡元培全集』、『蔡元培美育論集』、『学風』、または、当時影響力のある教育雑誌(例えば、『教育世界』)における蔡の言説を収集・整理した。美の言説が生まれるまでの経緯を探った。2、当時、重要な校内新聞紙である『北京大学日刊』(北京大学出版)を利用し、中には、主に美と美育に関するエッセー、論説、美術展示会・音楽会の情報、演目などを表にまとめた。3、今まで光が当てられてこなかった日本との関係についての資料の収集を行った。まずは、日本における蔡元培研究の論文・著書(竹内好、中目威博、佐藤隆、蔡建国)の整理、蔡との親交のある日本人研究者のエッセー(蔡元培との三十日、上原専禄)の翻訳。次に、『蔡元培長編年譜』に書かれた日本に関する蔡自らの言説を整理した。日本との繋がりを論じるものから、蔡の教育思想を形成する上で、日本は欠かせない役割を果たしたことが明らかになった。4、蔡元培の「美育救国」という方針の下で、多くの留学生が芸術を学びに日本に来た。基礎データとして、東京美術学校へ留学した留学生の在学状況、入学年限、卒業制作、自画像の一覧表を東京藝術大学の資料に従って作成した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の初年度で収集したデータをもとに、日本、中国、ヨーロッパの学会での発表し、そして論文にすることを今後の目標としたい。 また、初年度にできなかった蔡元培の二つの実践、つまり、国立芸術院と国立音楽院の設立についての基本情報データを収集し、美および美育に関する蔡元培の考え方と当時の他の知識人たちとの共通点と相違点を明らかにし、両高等学院の設立は中国近代化にどういう役割を果たしたのかを検証する。 中国国内において、美育が蔡らによって進められてきた。一方、20世紀初頭、西洋音楽や美術を学ぶために多くの留学生が日本にやってきた。日本で学んだ留学生の実態、そして、彼らが帰国後の状況を、所属していた大学の資料、または、家族へのインタビューを通して、芸術によって近代化を進めていく留学生の特質を明らかにしたい。こうした考察を通じて、従来の経済、政治、科学を重んじる側面に芸術という分野を加えることによって、近代留学生研究に新たな視点を得ることができると思われる。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由としては、二つの招待講演が京都で行われたため、旅費が発生しなかったことがあげられる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
これらの金額と次年度以後に請求する研究費を合わせた使用計画としては、国内外の学会への参加のための旅費に使用することを計画している。
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