2015 Fiscal Year Research-status Report
発達障害の子どもを包括する通常学級の指導法に関する質的研究―現象学アプローチ―
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26381061
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Research Institution | Miyagi University of Education |
Principal Investigator |
田端 健人 宮城教育大学, 教育学部, 教授 (50344742)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 子どもの哲学 / p4c / 知的に安心安全な空間 / ファシリテーション / コミュニティ / 対等 / 多様性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、当該研究テーマにおいて有効な指導法として浮上した、「子どもの哲学(philosophy for children)」、通称「p4c」の研究と実践と観察記録と分析を、主として行った。p4cは、子どもたちが問いを出し、それを対話によって探究する学習方法であり、教師は、ファシリテーターとして、指導や教示をできるだけ控え、「ツールキット」と呼ばれる思考を深める観点を適宜提案することで、対話を掘り下げる手助けをすることになっている。p4cの最も重要なコンセントは、相手を傷つけたり否定したりせず、その限りで何でも言える「知的な安心安全(intellectual safty)」をつくりあげ維持することである。また、p4cでは、子どもたちは円座になるため、お互いを見ながら、話したり、話を聞くことができる。また、コミュニティ・ボールという独自の毛糸玉を、学級全員で制作し、このボールをもっている者だけが発言できるというルールがある。 この指導法を導入することで、学級の人間関係や子どもの個性が、教師や観察者によく見えるようになり、また、それらが顕著に変容する事例が多く観察された。例えば、通常の授業や話し合いでは、他者が話している時に、思いついたことを場をわきまえずに大声で口にするような、発達障害の疑いのある子どもが、p4cでは、コミュニティー・ボールをもったときにだけ話し、もっていない時には、他の子どもの話を聞く、というルールが守れるようになったという事例がみられた。 しかし、教師のファシリテーションによっては、発達障害の子どもの非社会性をかえって助長させる事例もみられた。それゆえ、ファシリテーションの質をさらに明らかにすることが、今後の研究課題である。 筆者は、p4cに関して、今年度10校以上の小中学校の教員と関与し、国際フォーラムや月1回の研修にも協力・参与した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
評価点としては、予想以上に多くの現場教師と連携できていること、教育実践現場の参与観察と記録を継続していること、本研究を実践現場にフィードバックし、実践現場の知見とスキルの向上を促していること、ハワイの研究者や実践者と連携し、国際的な協力関係を築くことができていること、研究成果を教育現場向けに研修会等で発表できていることをあげることができる。 課題点としては、特定の学級を継続的に十分な回数にわたって観察記録するとという当初の計画が実行できていないこと、研究者向けの発表物が少ないことである。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である次年度は、研究成果の発表に、これまで以上に力を入れる計画である。p4cに関しては、国内では近年、発表物が多くなっているが、基礎的な文献の翻訳紹介もまだ十分ではなく、p4cについての基礎的で本質的な理解を実践者が効率的に得ることが難しい状況である。そのため、基礎的で重要な文献の翻訳執筆も計画している。また、この手法は、実践者も研究者も、理論上も実践上もまだ手探りの部分が少なくないため、次のことを継続発展させる計画である。①この手法を独自に発展させているハワイの実践者や研究者と、筆者自身だけでなく、現場教員の交流を継続発展させる、②筆者自身の理解を深めるため、大学での筆者の講義や演習でこの手法を積極的に活用し、指導法の深化につとめる、③知見を現場にフィードバックしつつ、さらなる事例の観察・記録に努める。
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Causes of Carryover |
国際的な研究協力関係が強くなり、海外の実践現場の視察や実践者の派遣、また海外での成果発表が、次年度見込まれたから。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年5月にハワイ大で開催される東西哲学者会議に出張し、研究成果を発表する。 同年8月には、発達障害の子どもを包括する学級と授業づくりに実績をもつ教員を1名、研究協力者として派遣し、子どもの哲学の先進地であり、発達障害の子どもへのケアに対話型学習を応用しているハワイの教育現場を視察派遣する。
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