2015 Fiscal Year Research-status Report
日本型インクルーシブ教育システムの融合的創成とその国際的意義に関する総合的研究
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26381063
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
岡 典子 筑波大学, 人間系, 教授 (20315021)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中村 満紀男 福山市立大学, 教育学部, 教授 (80000280)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | インクルーシブ教育 / カリキュラム / 合理的配慮 / 社会的基盤 / 当事者の権利 / ドイツ / アメリカ合衆国 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、過去四半世紀にわたって展開されてきたインクルーシブ教育の本質、成果、限界を検証するとともに、新たなインクルーシブ教育のシステムを日本の主導において提起することにある。平成27年度は、申請時に設定した研究1から研究3までの計画に基づき、研究1および2の一部について、それぞれ以下の内容で研究を実施した。 研究1については、カナダを含む北米とドイツを主たる対象として検討を行った。ドイツについては、前年度の研究成果を踏まえ、同国のインクルーシブ教育について、法律、制度ならびに具体的な教育政策を詳細に把握した。とくに27年度は、インクルーシブ教育推進を支える必要条件として、教員養成および現職教員の再教育に着目し、同国の政策について州教育省の担当職員を対象に聞き取り調査を実施した。 北米については、米国の社会的特質と教育政策との関係性に着目し、同国がインクルーシブ教育を構想・受容していく過程について、社会的課題の解決手段としての教育改革実施というアメリカ教育改革史の典型例にこれを位置づけるという仮説を設定し、そのために必要となる資料の一部を収集した。さらに、現在の日本で、インクルーシブ教育システム構築の重要な鍵となる用語として注目の集まるreasonable accommodation(日本での定訳は合理的配慮)について、この概念が障害者教育・福祉の分野で適用されるようになった歴史的経緯を明らかにするとともに、そもそもの適用範囲であった宗教上の差異に対する配慮から、対象を障害へと拡大した過程において、何がどのように変容したのかを検討した。 研究2については、日本の特別支援教育の特質を明らかにするための作業課題として、障害のある子どもに対する教育カリキュラムの考え方に着目し、とくに知的障害のある子どものカリキュラムに関する議論の展開過程を歴史的な立場から分析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は、前年度の成果を踏まえながら、研究1および研究2について、おおよその方向性を見通すことができたと考えている。とくにドイツについては、本研究申請時の想定を超えて、同国の本質と実態に肉迫する詳細な情報を得る機会に恵まれ、このことが、結果として本研究の方向づけにも重要な示唆を与えるものとなっている。アメリカを対象とする分析および日本の特別支援教育に関する検討も、概ね順調に進展しており、とくに当初設定した研究対象国のうち、アメリカ、ドイツ、日本の3カ国について考えるならば、当初の計画以上の進展であると考えている。韓国については、研究協力者の本国での職務上の事情等もあり、前述の3カ国に比較すると、現時点では基礎的なデータ分析の段階にとどまっているものの、全体としては当初の計画以上の進捗状況にあると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画について、研究の方向性ならびに手法について大幅な変更は必要ないものと考えている。ただし、これまでの研究成果に照らして、申請の時点で設定した日本以外の3つの対象国(アメリカ、ドイツ、韓国)については、すべての国を一律に同じ観点から検討するのではなく、各国における昨今の教育動向や社会事情、日本のインクルーシブ教育との類似性あるいは異質性等に着眼したうえで、国ごとに検討項目を絞り込むことが望ましいと思われる。 今後の推進方策としては、①国内外の新たな研究協力者を獲得すること。とりわけ、特別支援教育以外の領域における専門家からの知見を得ることにより、本研究の意義と今後の検討課題について、必要修正を加えること、②これまでの研究経過について、幅広い立場から意見交換の機会を設定すること、③最新の情報にアクセスするため、未公刊・非公表の資料、データ等を含む情報の入手にいっそう努力すること、等を前提としながら進めていくものとする。
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Causes of Carryover |
平成27年度においては、研究の進め方の手順および海外研究協力者の職務上の事情等を勘案し、海外での調査は1回のみ実施した。また、2016年4月の障害者差別禁止法施行や、2015年のドイツ・バーデン=ヴュルテンベルク州における教育法改正等、国内外においてインクルーシブ教育に関連する法律の改正や施行が行われたことから、次年度以降、新たな政策をふまえた最新の資料の文献の刊行も予想された。こうしたことから、次年度の配分額の不足分を調整するため、平成27年度分の一部を次年度の配分額と合わせて使用することを計画した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記の理由に基づき、平成28年度においては複数回の海外調査を予定している。また、上述の法律改正や施行等に伴い、新たに刊行された書籍や資料を入手する必要も生じている。こうしたことから、次年度使用額については、主に調査のための海外旅費、調査に伴う謝金ならびに物品費の一部として充当する予定である。
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Research Products
(4 results)