2016 Fiscal Year Research-status Report
ダウンサイジング下の新たな教育のガバナンスとコミュニティの生成に関する総合的研究
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26381072
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Research Institution | Chubu University |
Principal Investigator |
武者 一弘 中部大学, 全学共通教育部, 教授 (50319315)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 教育のガバナンス / 教育のコミュニティ / 学校統廃合 / 学校の適正規模・適正配置 / ダウンサイジング社会 / 小・中一貫校 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、初年度・第二年度をうけ引き続き、次の三点から研究を推進した。第一に、学校統廃合とコミュニティスクールの設置が(再)加速するきっかけとなった地方教育行政の組織及び運営に関する法律の改正(2015年施行)、文部科学省「公立小学校・中学校の適正規模・適正配置等に関する手引」(2015年)、中央教育審議会答申「新しい時代の教育や地方創生の実現に向けた学校と地域の連携・協働の在り方と今後の推進方策について」(2015年)、文部科学省「次世代の学校・地域」創生プラン~学校と地域の一体改革による地域創生~」(2016年)などを分析し、新たなガバナンスとコミュニティの構想を明らかにすることを試みた。二点目は、自治体調査を継続実施し、「新しい公共」と「コンパクトシティ」の政策が、学校統廃合とコミュニティスクールの推進につながっていることを確認する一方で、調査対象となる自治体と地域をさらに精選し(新たに長野県白馬村調査に着手)、調査では学校統廃合とコミュニティスクールの設置により、地域に胚胎した新たなガバナンスとコミュニティの姿とその思想を関係者への聞き取りや活動への参与観察などにより、明らかにすることを試みた。三点目は、欧米のガバナンス論とコミュニティ論の特質を考察した日本の先行研究を引き続き検討するとともに、欧米でのガバナンスとコミュニティの概念把握の妥当性を吟味した。さらに、欧米の社会的・文化的文脈において、ガバナンスとコミュニティの概念を把握・吟味するため、文献研究と情報収集・分析を踏まえて、フィンランド等の事例調査を継続して行った。 なお、研究成果がまとまったものについては、国内外の学会、研究会などでの研究報告や論文等の執筆により、研究成果の発信を積極的に図った。また、調査地域やその他の地域の住民や教職員の研究会・学習会にも積極的に出席し、研究成果の還元を図った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
概要に記載した三点からのアプローチについて、研究目的と研究計画に照らして、評価すると次のとおりである。第一の点は、長野県についてはこれまでに引き続き、90年から今日に至るまで学校の統廃合とコミュニティスクールの設置の動向を整理することができた。また、日本全国の学校の統廃合とコミュニティスクールについては、政策形成過程の解明とアクターの変容の解明をすべく、関係する審議会等の資料などを収集し分析を進めた。第二の点は、調査対象の自治体を複数選定し、長野県・岐阜県の二つの自治体への訪問調査を新たに実施した。ただ、選定した自治体のうちいくつかは、先方の事情から調査訪問が実現しなかった。第三の点は、文献収集と調査対象の選定を行った。また、前年に引き続き、フィンランド調査を行い、キルッコヌンミ市と小学校の訪問調査、文献収集等を行った。しかし、フィンランド以外の欧州の国については、様々なルートから調査を模索したものの、実現できなかった。 研究成果の発信については、海外学会1回、国内の全国学会、教育関係者や住民の研究会・集会で3回、論文は3本であった。 このように第三年次の達成度は、第一の点は極めて順調であったが、第二及び第三の点はでは順調とは言えないものであった。ただし第三の点にかかり、研究成果の発信は活発に行うことができた。こうしたことから総合的に評価して、進捗状況はやや遅れているとした。この理由は、第一に本科研の初年度に生じた遅れを引きずっていることがある。第二に、国内外の自治体や学校が調査受け入れに慎重であることがある。2014年の地教行法の改正による、新教育委員会制度と自治体教育行政の大改革は2015年4月から自治体ごとに順次進行中のため、また欧米の国民意識の保守化(移民や難民の抑制・排斥)の影響から、調査の受け入れに慎重な自治体や学校が少なくなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は本科研の最終年度となる。前年度までの到達点を踏まえて、先に挙げた三点から研究をさらに進める。まず第一の点は、学校統廃合、コミュニティスクールの設置、教職員定数の見直しなどについて、諸アクターの動きから、新たなガバナンスとコミュニティの構想を明らかにする。同時に、新たなアクターの存在の可能性とアクターの具体の動きについての分析を進める。二点目は、これまでの調査の結果を踏まえ、新しい公共とコンパクトシティの推進政策が、教育においては学校統廃合とコミュニティスクールの推進につながっていることをさらに実証・論証する一方で、学校統廃合やコミュニティスクールの設置により、地域に胚胎した新たなガバナンスとコミュニティの姿とその思想を、親や住民や専門職の位置づけ、子どもの発達保障との関わりに着目し明らかにする。これはこれまで十分に切り込むことのできなかった点である。三点目は、欧米のガバナンス論とコミュニティ論の特質を考察した日本の先行研究及び欧米でのガバナンスとコミュニティの概念と学説史に関する理論研究を分析し、欧米においてそれらの理論が台頭した背景とその特徴を解明する。さらに、文献研究と情報収集・分析を踏まえて、フィンランドとそれ以外の国における教育のガバナンスとコミュニティの改革の先進的事例を特定し調査に入る。このとき、行政職員や教職員への聞き取り調査が困難な場合は、研究者への聞き取り調査、現地で収集した教職員による実践報告や報道資料等により、研究を遂行する。 以上の三点からの研究を踏まえて、新たな教育のガバナンスとコミュニティのあり方と思想を総合的に検証する。 研究成果を、住民らの各種集会における報告、学会や研究会での報告、論文などの形で広く発信する。もって研究者に広く提供し、研究成果を学界の共有財産とすると共に、自治体や住民に提供し調査対象への成果の還元を図る。
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Causes of Carryover |
初年度に研究遂行・研究費執行が遅れたことが、三年次まで影響した。加えて遅れを取り戻すべく三年次の年初に計画を立てたが、所属部局長が病に罹り職務遂行が困難となったことから5月に急きょ職務代理を務めることになったことが、年初の計画を大きく狂わせた。そのため海外への調査出張のためのまとまった時間が確保できなかった。一方では調査候補であった国・自治体の側が、国際情勢や住民意識の変化から調査の受け入れについて慎重姿勢に転じ、こちらが願う様な調査計画の実施が難しくなった。また、国内調査については、平成27年4月から始まった新教育委員会制度への移行が平成28年度もまだ落ち着かない自治体が多く、調査の受け入れ条件が整っていないとして、受け入れてもらえないところが少なからずあった。さらに、予算の当初計画通りの硬直的な執行よりも、研究課題の着実な追究と整理のできたところからの研究発表に軸をおいて研究を遂行した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
昨年度中にほとんどの自治体が、新教育委員会制度への移行を終えたことで、平成29年度は自治体側の調査の受け入れ条件が整うものと思われる。平成29年度から所属機関が変わったため(異動)、調査に要する機器や研究発表に必要となる機器などの整備を行う必要がある(大学の教員研究費や特別研究費で購入したPCなどの機器類は、前の所属機関に備品登録されているため、新しい所属機関に移管できなかった)。こうしたことから平成29年度使用額に回した分は、同年中に執行することになる見込みである。
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