2015 Fiscal Year Research-status Report
米国における大学と博物館の連携による学芸員養成教育プログラムの検証
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26381114
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Research Institution | Fukuoka Women's Junior College |
Principal Investigator |
梶原 健二 福岡女子短期大学, その他部局等, 講師 (90726481)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 博物館教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の実績としては、米国の事例調査として、アメリカンインディアン美術大学(Institute of American Indian Arts:以下IAIA)の実地調査を行った。博物館教育の現場として、IAIAは現代ネイティブアメリカン美術館(IAIA Museum of Contemporary Native Arts)をオフキャンパスに所有している。場所は、ニューメキシコ州サンタフェのダウンタウンに位置しており、観光地活性化の一役を担う。IAIAにおいて学芸員養成に携わるクロフォード教授(Crawford, Jessie Ryker)より当該美術館の設立目的や歴史的背景についてレクチャーを頂いた結果、その要点の一つに、ネイティブアメリカンの人口減少による民族文化の衰退への文化再生という目的を抱える一方、経済的社会的状況からは、アメリカ文化への融合を無視することはできず、全く新しいネイティブアメリカン文化への受容という、背反した課題を抱えているという。IAIAが「現代美術」を冠する事由は、ネイティブアメリカン文化を現代アメリカ社会の中で、どのように解釈(interpret)していくのかということが、重要なコンセプトとなるからである。聞き取り調査からは、教授自身の体験談として、1980年代当初は博物館教育においてネイティブアメリカン文化の迫害についての講義への反発が根強くあったことなど、教育学芸員(エデュケーター)という専門職の社会的認知は確立していなかった事実を知ることができた。しかしながら2000年代以降は、IAIAの学芸員養成教育プログラムの系統的な拡充を図るに至り、現在は、全米のネイティブアメリカンとのネットワークを図ることで、全米的なネイティブアメリカン文化の帰還(repatriation)を目指している。上記の現地調査から得た知見は、学会発表を行い、さらに大学紀要への論文掲載の機会を得ることができた。事例調査の分析として、クロフォード教授の意見を引用している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
3年間の研究計画の核となる実地調査を行うことができ、学芸員養成大学の教育プログラムや博物館教育の検証を行うことができた。具体的に明らかになったことは、現況の学芸員養成には、従来からある学術調査を役割とするキュレーター(文芸調査官)養成と文化復興の社会教育活動を担うエデュケーター(教育担当学芸員)の明確なカリキュラムの違いは存在していないということであった。この点は、IAIAに見られる特徴的なことかもしれないが、日本の学芸員養成制度のカリキュラム構成と類似していると考えられよう。つまり、養成段階では、はっきりと専門職別に教育コースが分けられてはいないのである(「保存・修復」といった専門職プログラムは別として)。しかしながら、アメリカの場合は、学芸員の専門職化が社会的認知をうけているため、養成教育の最終段階において、学生自身による専門職の選択を行う。そして、その選択材料として、博物館でのインターンシップや地域部族との「アウトリーチ」活動がベースとなるのである。 次年度は、養成教育プログラムにおいて、学生側の意識調査を行い、学芸員として身に付けるべき資質能力について聞き取り調査を行う。また、アメリカ教育省の民族政策の課題や大学教育との連携についても、引き続き調査を行う。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終年度となる28年度は、その研究成果の取りまとめを行い、研究論文への投稿および博士論文執筆に係る研究の独自性の核となるよう、以下の取組を行う。 ①アメリカンインディアン美術研究所(Institute of American Indian Art)への現地調査 学生側の養成教育プログラムの意識調査を行い、学芸員の専門職性の実態を明らかにする。専門職種の決定はどのように選択するのか、またその役割にとってどのような力量が必要だと考えるのか等、日本の学芸員養成制度との比較材料となるデータを収集する。 ②初回の現地調査からは、ネイティブアメリカン以外の学生が教育プログラムを履修している実状があった。全米的なネイティブアメリカン文化の帰還(repatriation)のネットワークづくりにもつながるが、民族以外の外部者とのつながりが、養成教育段階においてどのような効果・作用をもたらしているのか調査する。 ③クロフォード教授(Crawford, Jessie Ryker)は、本年度に日本の博物館関係のシンポジウムに参加する予定である。スケジュール調整ができれば、勤務大学にて公開講座の特別講師として招聘することを検討している。
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Causes of Carryover |
本年度の研究費の大部分の用途先は「旅費」となる。1回目の実施調査においては、現地の悪天候の関係から、現地大学内における実地調査がキャンセルになってしまった。当初の計画であった学生の実態調査を実現できていないことから、再度現地調査か必要である。その他の予算計画(消耗品代・書籍購入代等)より「旅費」への支出にあてがう。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度は研究最終年度となることから、現地調査および国内での発表のための旅費について使用が見込まれる。また、特別講師の招聘への謝金や研究協力者への物品費・謝品についても、広範に使用用途が見込まれる可能性がある。以上の事由から、当初予定の3年間研究実施計画を着実に達成する上で、次年度繰越金と翌年度分として請求した助成金を履行することとする。
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