2014 Fiscal Year Research-status Report
平和教育の現代化に向けたカリキュラム開発についての比較社会学的研究
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26381126
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Research Institution | Kyoto University of Education |
Principal Investigator |
村上 登司文 京都教育大学, 教育学部, 教授 (50166253)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 平和教育の現代化 / 広島と沖縄 / カリキュラム開発 / 戦争体験の伝承 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は以下の研究を行った。 広島と沖縄における平和教育カリキュラムの比較分析のため、平成26年度に沖縄で平和教育の実地調査を行った。平和教育の現代化に向けて、方法論的な知見を得るために、面接調査および訪問調査を実施した。平成24年度と25年度に沖縄県の平和教育研究指定校であった小学校で、当時の研究主任に対して面接調査を行い、当該小学校において平和教育実践(教科や活動)を関連づけて開発した平和教育プログラムについて説明を受けた。他方、独自の平和事業推進アクションプランを策定している沖縄市役所を訪問し、事業担当者より平成26年度から平成35年度までの事業計画について内容を聞いた。さらに、戦争体験の新たな伝承方法を探るため、ガマ(避難壕)のガイドや、平和ボランティアガイドに対して面接調査を行った。 平和教育のカリキュラムの国際比較分析のため、アメリカのサンフランシスコ大学の教育研究科長と同研究科の教授に面接調査を行い、グローバル化に対応した平和教育の在り方について意見を聞いた。特にアメリカの平和教育の動向について情報を交流した。アメリカにおいて、ユダヤ人差別や日系人排斥運動は平和教育の重要な題材なので、ロサンゼルスにある寛容の博物館と全米日系人博物館、サンフランシスコにある移民収容施設を訪問し、多文化共生や戦争についての学び方を明らかにする視点から研究資料を収集した。 京都教育大学附属高等学校で平和教育の授業とシンポジウムを行った。附属高校で平成24年度実施の調査により、小中高時代での国際交流体験と海外渡航体験が、高校2年生の平和や外国に対する態度形成に影響を及ぼすことが明らかになっている。平成26年度に、沖縄の高校生に平和構築の視点から授業を行い、附属高校の生徒に平和的課題の解決への当事者性に関連して、傍観者から協力者への移行について説明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
①広島と沖縄における平和教育カリキュラムの比較分析を行う。研究の第一段階として、沖縄への訪問調査を行うことができた。戦争体験の伝承の視点から、戦後生まれの平和ボランティアから話を聴取して、伝承方法について検討した。平和教育研究指定校において取り組みを聞き、沖縄市では平和啓発行政の事業担当者から話を聞くことができた。沖縄の平和教育の状況について調査を行うことはできたが、他方で広島市での平和教育のフォローアップ調査はあまり進まなかった。 ②平和教育のカリキュラムの国際比較分析を行う。当初の計画は、ドイツに歴史教育施設として保存されているナチス時代の強制収容所や戦争遺跡を訪問し、どのように市民の平和啓発と児童生徒の校外学習に利用されているかの利用形態を調べる予定であった。本年度はアメリカを訪問し、アメリカでの平和教育の動向について情報を収集した。平和教育を排外主義の克服の視点から捉え、ユダヤ人差別や日系人排斥運動をテーマとする資料館で訪問調査を行った。ロサンゼルスにある寛容の博物館と全米日系人博物館、サンフランシスコにある移民収容施設の展示資料などから、平和教育の資料を収集した。 ③平和教育のカリキュラム開発を実施する。平成24年の調査結果により、小中高時代での国際交流体験や海外渡航体験が、高校生の平和や外国に対する態度へ影響していることが明らかになった。それを基礎資料として、学校段階に応じた平和教育カリキュラムを構想した。附属学校における平和・国際教育実践の評価に関する学校段階を見通した研究を引き継いで、平成26年度は、小中高等学校の学校段階別に、平和構築のテーマで学習目標を立てることができた。それに対応して、附属高校において平和教育の授業とシンポジウムを試行した。 こうした理由により、昨年度の達成度については上記の評価結果とした。
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Strategy for Future Research Activity |
以下の研究推進方策を有する。 ①広島と沖縄における平和教育カリキュラムの比較分析を行う。広島市の「平和教育プログラム」の観察調査(フォローアップ調査)を推進する。平和教育プログラムを参照して、各学校や教育委員会に対して、プログラム実施に関して聞き取り調査を行う。広島市の教員に対して「平和教育の現代化」の方法について面接調査を行う。現代化に向けた平和教育カリキュラムの改善方法を検討し、プログラム実施の方法について考察する。 ②平和教育のカリキュラムの国際比較分析を行う。ドイツのチュービンゲンにある平和教育研究所は、平和教育に関する資料を多く発行し、現代的な平和教育につながるホームページを運営しているので、それを参考にしてホームページを立ち上げる。カナダのオタワ大学の「教師のためのグローバル的視野の発達」のホームページを作成モデルとして、平和教育教材を整理し、新たな教材を載せるプラットフォームをホームページ上に作る。 ③平和教育のカリキュラム開発を実施する。京都教育大学の教育研究交流会議における平和・国際教育分科会のネットワークを利用して、教育学部と附属学校が連携してカリキュラム開発を進める。京都教育大学の附属学校における平和教育・国際教育の授業づくりや、広島と沖縄への修学旅行について、教員に聞き取り調査を行う。その聞き取り調査を基に児童生徒に対する平和教育実践の教育効果について、評価項目を整理して教育効果評価表を案出する。京都教育大学の「教育課程」や「国際理解・多文化共生」を専門とする教員と共同して、カリキュラム開発について検討し、教育効果評価表を作成する。 ④ネットワークのハブとして平和教育のカリキュラム開発の情報交流を行う。カリキュラム開発の研究者が集まって研究会を開き、研究情報を交流して研究を深める。
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Causes of Carryover |
平成26年度に計画していたホームページ作成と依頼が次年度に持ち越し、業者へのホームページ作成依頼ができなかった。その点において、ネットワークのハブとして平和教育のカリキュラム開発の情報交流があまり進まなかった。他方で、平成26年度には平和教育研究のネットワーク化を計画していたが、研究会を開催しなかったので、研究成果を充分に蓄積できなかった。平成27年度は、ネットワーク活動を積極的に進展させる必要がある。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度は、ホームページ作成を通じて、ネットワークのハブとして平和教育のカリキュラム開発の情報交流を進展させる。ネットワーク活動を通じて、研究交流を増やしたり、研究会を開催したりして、平和教育のカリキュラム開発研究を進める。日本で広く行われている戦争体験を継承する平和教育カリキュラムの改善方法として、過去についての平和題材と現在・未来についての平和題材を融合させて、現代的課題に対応したカリキュラムの開発(平和教育カリキュラムの現代化)を考察する。さらに、研究会を開催し、平和教育カリキュラムの開発研究について報告し、カリキュラム開発方法の研究について交流する。現代的課題に対応した平和教育のカリキュラムの開発方法を明示することにより、平和教育が今後も発展する実践的基盤を構築する。
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Research Products
(2 results)