2016 Fiscal Year Research-status Report
公共政策大学院の学修成果を指標とする質保証システムの各国間比較に関する実証研究
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26381127
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
早田 幸政 中央大学, 理工学部, 教授 (30360738)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
杉岡 秀紀 福知山公立大学, 地域経営学部, 准教授 (10631442)
姜 達雄 (渡辺達雄) 金沢大学, 国際基幹教育院, 准教授 (20397920)
堀井 祐介 金沢大学, 国際基幹教育院, 教授 (30304041)
前田 早苗 千葉大学, 国際教養学部, 教授 (40360739)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ラーニング・アウトカム / 内部質保証 / アクレディテーション / 公共政策大学院 / MPAプログラム |
Outline of Annual Research Achievements |
本調査研究は、ラーニング・アウトカムの測定・評価(アウトカム評価)を軸に、「内部質保証」「外部質保証」の組み合わせにより、大学と学位プログラムの質保証を行うという手法が、我が国内外でどう実践されているのかを考究することを目的としていた。教育プログラムの質保証については、とりわけ公共政策大学院学位プログラムを射程において、そうした営みの展開状況の把握に意を注いだ。 上記目的に即し、本年度は、英国高等教育の質保証システムの運用実態を把握するために同国の訪問調査を敢行するとともに、公共政策大学院のアクレディテーションをグローバルに行っている米国NASPAAが公にする書面の調査を通してその実態の解明に努めた。そして本年度が本調査の最終年度であることを踏まえ、3年間の活動実績を報告書にとりまとめるとともに、高等教育質保証の有効性を高めることに資すると考えられる若干の提言も提起した。 英国訪問調査における対象訪問機関は、「高等教育質保証機構(QAA)」、「ユニバーシティ・カレッジロンドン(UCL)高等教育推進センター」、「バーミンガム大学政治社会学院MPAプログラム」であった。同訪問調査を通じ、ラーニング・アウトカムを基礎とした質保証が、大学とそこに置かれた教育プログラムの相互連携の中でどう効果的に展開されているかが明らかとなったほか、公共政策修士(MPA)プログラムの領域で質保証の営みが如何に実践されているか、という点の考究に資することができた。また、米国NASPAAの公文書の書面調査によって、ラーニング・アウトカム重視に転換したNASPAAのアクレディテーション・システムの実相のアウトラインを把握することができた。 最後に調査最終年度の節目として作成した最終報告書において、その成果を総括した上で、PDCAを内包させた内部質保証を軸とした質保証システムの充実・発展方向を提示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初計画においては、アウトカム評価にシフトした英国の質保証の仕組みを、公共政策大学院プログラムの質保証を軸に据えて調査研究することとしていた。その計画は概ね達成された。このことに加え、英国の代表的な高等教育質保証機関であるQAAの組織及び質保証の仕組みが大きな転換点を迎えた時期に訪問調査が敢行されたことが幸いして、同国の今後のアウトカム評価ベースの内部質保証と質保証機関による外部質保証の動向についての貴重な情報にアクセスできる機会に恵まれ、その最新情報を論稿として刊行し広く周知することができた。 また、当初計画として米国NASPAAの書面調査についても、計画通りのこれを完遂した。しかし、書面調査の対象としたNASPAAの公文書の種類は当初見通しを上回る5点にも及び、試訳とは言えその翻訳文書を全て下記の最終報告書に掲記できたことは大きな成果であった。 最後に3年間の調査研究成果は、当初の計画通りこれらを余すことなく全て最終報告書に掲載するとともに、将来に亘る高等教育質保証政策の在り方について具体的な提言を示すことができたことも特記すべき事項として挙げることができる。
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Strategy for Future Research Activity |
今日、アウトカム評価を軸とする「内部質保証」と高等教育質保証機関による「外部評価」を通じて、学位等の国際的透過性を高めることを内容とする高等教育質保証の手法が国際的な潮流となっている。そうした先端的な手法を導入している国々では「高等教育資格枠組(Higher Education Qualification Framework)」を作成・公表した上で、これを当該国の「外部質保証」のシステムの中で稼働させている。 すなわち、同資格枠組みは、国境を越えた透過的で良質の高等教育交流の進展を視野に入れ、学位等の授与に際し、各学位等毎に、どのような知識・能力、志向性を身につけておくことを学生に求めているかを、国が一覧として国内外に提示するものである。併せて、高等教育質保証機関が同枠組みをそのシステム中に取り込むことにより、大学等がアウトカム評価を軸に営む「内部質保証」を対象に、その有効性評価を中心に据えたアクレディテーション活動が展開されることになる。 そこで、当面の高等教育の質保証の在り方を考究するに当っては、ラーニング・アウトカムの公定版とも言える「高等教育資格枠組」に依拠して国別及び国家間の連携の基にそうしたシステムを運用している事象を系統的に把握することが重要であると考える。 そうしたシステムの運用は、アジア圏ではASEANによってその試行実施が既に進められている。将来的には、ASEANに日・中・韓を加えた緩やかな連携体制の基でそうしたシステムの協働運用を模索する動きも顕在化しつつある。こうした基本的認識を基礎に、今後において、ASEANにおけるアウトカム評価を軸とした高等教育質保証の実相を明らかにした上で、それが我が国高等教育政策に及ぼす波及効果について検証していくこととしたい。
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Causes of Carryover |
「ラーニング・アウトカム」の測定・評価を軸とする「内部質保証」に係る質保証の手法を積極的に展開してきたのは、主に欧米諸国の高等教育評価機関や高等教育機関であった。そこで、本調査研究では英国の実態把握を訪問調査を通じて行うとともに、米国については公共政策大学院の質保証を掌るNASPAAの公文書を手掛かりに書面調査を行ってきた。さらに、中国、韓国といった我が国との高等教育交流が比較的活発な東アジア諸国の高等教育質保証の発展段階の調査も訪問調査を通じてこれを行った。 ところが、アウトカム評価を軸に高等教育の質保証を行うという方式は、今日、急速な経済発展を遂げてきたASEAN諸国に及びつつある。そこで、国境横断的な「高等教育圏」の確立を目指す同地域における公共政策大学院の質保証の新たな展開に着目する必要があると考え、次年度調査が必要との結論に至った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
高等教育交流を効果的に促進するための緩やかな高等教育圏としてその構築が目指されているASEAN高等教育圏の実態把握を行う。そこではとりわけ、学位につながる教育プログラムの質保証をアウトカム評価を基本に据えて行う「内部質保証」とアクレディテーション方式による「外部質保証」の組み合わせで機能的に実施しているタイとマレーシアの高等教育質保証システムの調査を行う。いずれの国もASEANにおける高等教育先進国であるとともに、学位等の授与に必要な資質・能力のカタログを国家レベルで示した「高等教育資格枠組」がアクレディテーション・システムの中で効果的に機能し得ているため、今回の調査対象に選んだ。タイの学位プログラムの質保証の仕掛けについては書面調査の方法で行うとともに、今回新たに高等教育質保証の本格調査を行うマレーシアの質保証システムの検証は訪問調査によってこれを行う。
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