2015 Fiscal Year Research-status Report
ニューカマー青少年の学び直しを支える教育環境設計に関する研究
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26381131
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
児島 明 鳥取大学, 地域学部, 准教授 (90366956)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ニューカマー / 青年 / 学び直し / ブラジル / 通信教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
ブラジル人青年の学び直しをめぐる課題と可能性を探るために継続して調査を実施した。具体的には、日本の学校に通った経験を有する6名のブラジル人青年を対象に学校経験および離学後の経歴についてライフストーリー・インタビューを行い、学びの継続を支える条件について検討した。 小学校から高校まで日本の公立学校に通ったあるブラジル人青年の学校段階間移行の経験からは、中学校における「息苦しさ」が顕著に浮かび上がった。小学校では文化的差異が表立って強調されはしなかったが、個人的差異の称揚が文化的差異に対する肯定感を下支えするという回路が存在した。他方、高校では文化的差異は学校環境の構成要素であり、それといかに向きあうかをめぐって特別の緊張を強いられることはなかった。ここでは、文化的差異の肯定が個人的差異の肯定をもたらすという回路が存在していたといえる。いずれにせよ、文化的差異に対する肯定感がなんらかのかたちで確保されていたのである。だが、このような肯定感の確保が困難になったのが中学校であった。中学校ではなによりも学校的差異が優先され、個人的差異は学校の共同性を攪乱する要因として統制の対象とされた。そのため、個人的差異の称揚を文化的差異に対する肯定感につなげるという小学校ではありえた回路もほぼ断たれてしまった。このことは、概して文化的差異の承認に対するハードルの高い日本の学校において、文化的差異への肯定感を感じられる契機がほとんど失われてしまうことを意味している。対象者の場合は学校外に存在するエスニックな共同性を学校文化を相対化するための拠り所とできたが、それがなければ対象者とて学校を離脱していた可能性は十分にありうる。 このように学校段階間の移行という観点をとりいれることで、学びの継続可能性について「場」の特性をふまえたより動態的な把握が可能になることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
在日ブラジル人青年の学び直しを支える教育環境のありようを構想するためには、少なくとも以下の3つの視点からのアプローチが必要となる。すなわち、1)学びの継続を困難にする環境的要因、2)学び(直し)を可能にする環境的要因、3)学び直しを通じたキャリア形成、である。昨年度の研究では、1)~3)についてある程度俯瞰的な把握をめざしてインタビュー調査を実施し、分析・考察を行ったが、今回はむしろ特定の視点に焦点化し、課題をより掘り下げるかたちで研究を実施した。今回はとくに1)について子細に検討することで、2)についての理解を深めることをめざした。 日本の公立学校に通った経験を有するブラジル人青年のライフストーリー分析を通じて、個人的差異と文化的差異の関係、学校的差異という独自のコードの存在とそれが個人的差異や文化的差異に与える影響、より広い言説空間のありようと子どもが生きる学校の現実との関係、学校外に形成される共同性の意味や機能など、さらに検討を要する論点が多く浮かびあがった。また、これら論点について学校段階間の移行という観点をとりいれることで、「場」の特性をふまえたより動態的な把握が可能になるとの示唆を得ることもできた。とりわけ、学校外に形成される共同性は、それがエスニックなものであるか否かを問わず、学びの継続を支える重要な機能を果たしているという知見は、2)について考察を深めるうえで大きなポイントといえる。 残された課題は、さらなる事例分析を通じて2)に関する理解を深めると同時に、3)に関してできる限りの実態把握を行うことである。いずれもさらなるインタビューを重ねたうえで全体を統合的に分析・考察することが求められるが、とりわけ3)については学び直し後のキャリア形成がトランスナショナルなかたちで模索されるケースが少なくないため、ブラジルにおける現地調査を実施する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の進め方については、国内調査、国外調査及び統合的考察それぞれの観点から、以下のように考えている。 第一に国内調査については、ブラジル人青年の学び(直し)に関するライフストーリー・インタビューを継続する。その際、通信教育受講経験のある青年に限定せず、英会話学校やエステティシャン養成学校などでの教育機会にも目を向け、学び(直し)の意義と可能性について多角的な視点に立った検討を心がける。 第二に国外調査については、通信教育その他による学び直し経験者に帰国後のキャリア形成に関するインタビューを実施する。さらに、帰国後の学び直しの機会がどのようなかたちで存在しているのかについて、補習課程を有する教育機関等を訪問し、インタビューをおこなう。 第三に、国内外での調査を踏まえ、これまでの知見を統合しうるような考察を行い、報告書を作成する。ニューカマー青少年の学び直しを支える教育環境をかれらのトランスナショナルな実践を考慮に入れて構想することの重要性を、明確な根拠に基づいて示すことになるはずである。
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