2016 Fiscal Year Research-status Report
教育困難高校における包摂のためのキャリア教育実践に関するエスノグラフィー研究
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26381148
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
古賀 正義 中央大学, 文学部, 教授 (90178244)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 若者支援 / キャリア教育実践 / ケアリング / 質的調査法 / 臨床社会学 / 進路指導 / NPOの実践 / スクールソーシャルワーカー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、教育困難高校でのキャリア教育等に関わる実践とその効用について調査分析を行うものである。これまで卒業後の社会的リテラシー形成の実践は、高校のランキングによる生徒の文化・社会関係資源の差異あるいは卒業後の労働実態の差異などに対応して構成されてはこなかった。だが近年、NPO等との連携やSSWerの活動などによって、生徒の実態に応じた広範なキャリア教育支援における新たな方法の検討が必要とされている。 そこで、本調査の3年目では、昨年度から継続している東京・普通科高校(進路多様校と特色校)4校で実施したデータを整理することに加えて、東京・定時制高校の存在にも目を向け、また高知での3校(職業高校も含む)も対象とし、生徒へのアンケート調査および一部生徒からの聞き取り、さらに教師からの聞き取りを実施した。 結果の一部は、データ入力やトランスクリプトを進めつつ、いくつかの論文としてまとめ公表するとともに、各種学会でも発表を行った。その結果の概要は以下のとおり。①教育困難高校には、定時制をはじめとした中退・不登校経験者などを多数含む「受け皿」としての学校群が成立し始めており、厳しい家庭環境に抗いながら、継続的に通学するという習慣行動自体が生徒のスキル課題となっている。②定時制でも、昼夜間・3部制と夜間・学年制では入学者層が異なり、前者では不登校などの非学校文化の度合いが強く、後者では怠学など反学校文化を抱える度合いが強くなり、補償的な教育のあり方が異なってくる。③習慣形成の未成立から、キャリア教育をはじめとした「個をケアする指導」の実践・効用がみえにくく、他方で大学等進学者の増加に対応した指導も十分実践されていない。このように、高校での居場所的な価値と社会的な進路意識育成の実践との関連づけを考慮し、在学中のケイパビリティ(生活の質の選択可能性)を高める工夫が求められていると論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
対象校=困難高校へのアクセスを具体的に展開し、東京=大都市だけでなく高知=地方都市(さらに海外=スペイン等)での調査が、教育委員会や現場の協力の下で比較的順調に進んでいる。幸い、高校管理職や教委幹部職員の異動も少なく、継続的調査への支障はあまりなかった。アンケート調査については、従来東京で実施してきた実績もあり、その1次的分析も調査の実施や調査内容の精選に活用することができている。また、教師および生徒への聞き取り調査も、個人情報の関連もあって、学校側の選抜した生徒に限定されあるいは教委関係者同席などにはなってきたが、各高校で実施することができた。 しかしながら、こうした収集データの入力作業を調査者が一時的な整理をした上で行おうとしてきたものの、その作業が遅延し、業者への入力作業の依頼が遅れてきた。このため、確保してきた予算が活用しきれておらず、平成29年度の延長期間早々に実施することになっている。 他方、キャリア教育等に関連する社会性・スキル形成の実践活動の観察・聞き取りは、高校のスケジュールや内部情報守秘との関係もあり、依然不十分である。高知ではすでに部分的な観察が実施できた高校もあり、分析を始めているが、今後分析可能となるべくデータの整理加工を進めたい。また、現在調査アポイントメントのとれた東京の高校・特色校もあるので、早急に調査を実施したい。院生をはじめとした調査スタッフは確保してある。 同時に、行政側や学校側のご協力ならびに調査処理経費の圧縮などから、研究経費の支出は予想より少なくなっている。例えば、調査にかかわる印刷や封筒を提供してくれた学校等も少なくない。また、スタッフを配置せず、担任教師が肩代わりして実施してくれた事例も多かった。そこで、余禄の経費を、今後HP構築などによる情報提供あるいは報告書の作成・配布などのよる調査成果PRにも活かすべく検討している。
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Strategy for Future Research Activity |
対象校へのアクセスは進み、東京だけでなく高知での調査(一部、海外都市=スペイン等での調査)は順調に進んでおり、継続的な調査実施自体への支障はない。むしろ、収集したデータの入力作業を程なく進められるよう調査チームが早急に整理に取り組む必要があり、確保してきた予算の活用は平成29年度の延長期間の初めから段階的に進められる目算である。他方で、キャリア教育に関連する実践活動に関しても、高知ではすでに実施できた高校があり、アポイントメントのとれた東京の高校もあるため、調査の実施とデータの整理を順次進めたい。 同時に、すでに収集してきた聞き取り等のデータのトランスクリプトについては、予算の総枠との関連で分析の進行を目算してきたが、海外でのデータも含めて、順次業者・受託者への発注を進めていく予定である。1時間当たり2万円程度が一般的なので、残額の執行が決まれば順次進められる。 データ分析の成果についても今後さらに公表していく予定である。従来の中退者調査の結果を踏まえて、困難高校の在校生に対する実践の効用の分析は、すでに3年次までデータセットが整っており、さらに細部に関する分析への取りかかりが可能である。国内だけでなく海外でも発表可能なように、データの整理を進めていきたい。具体的には、教育社会学会をはじめとした場でのプレゼンを予定するとともに、国際法社会学会などでも問題性を抱える生徒の事例を中心に発表することを予定している。 また、出版についても、すでにいくつかの出版社への打診を終え、具体的な取り組みに入っている。もちろん、今後ホームページ構築などによる情報提供あるいは報告書の作成・配布などのよる調査成果PRにも活かすべく検討しており、すでにこうした作業が可能な体制を整ええている。なお、放送大学で制作した番組にもすでに調査結果の一部を活用している。
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Causes of Carryover |
調査の進行が思うより遅れたため、採集したデータの入力作業が十分に進まなかった。業者への委託等が延長した次年度になったため、予算を繰り越して確保しておかざるをえなかった。また、調査の計画があるものについても、データ整理のための予算を確保している。こうしたことから、次年度使用額が生じてしまった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
すでに調査自体は進行しているので、順次、予算を使用して入力等の作業に取り組んでいる。今後、夏前には観察等を含む調査が終わるので、作業経費は円滑に使用される手筈となっている。 また、調査結果の公表にかかわる予算も、HPの構築や報告書の作成等に順次取りかかれる予定となっている。
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Research Products
(10 results)