2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26390008
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Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
仲谷 栄伸 電気通信大学, 情報理工学(系)研究科, 教授 (20207814)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | マイクロマグネティックス / 磁壁移動 / スピンホール効果 / Dzyaloshinskii-Moriya 効果 / Fuchs-Sondheimerモデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、Fuchs-Sondheimer モデルを用いた電流分布計算モデルの作成と、Dzyaloshinskiii-Moriya 効果(DMI効果)による磁壁移動メカニズムの変化について研究を行った。 近年行われているスピン偏極電流による磁壁移動の実験より、スピンホール効果、DMI効果等の新たな効果の可能性が指摘されている。ここでスピンホール効果は、磁性細線の上下層に流れる電流による効果である。この効果を精度よくシミュレーションに取り込むために、Fuchs-Sondheimer モデル(FSモデル)を用いて電流分布計算を行うプログラムを作成した。FSモデルは、電子の平均自由行程と同程度の厚さの金属薄膜において、膜表面での電子の散乱による電導率の変化を表すモデルである。磁壁移動の実験で用いられている磁性多層膜の場合、各層表面での電子散乱は、各層の接合面における電子の反射と伝導で表すことができると考えられるため、各層での電導率を同時に計算することにより、多層磁性膜での電流分布を計算することができるようになった。 また、磁界駆動におけるDMI効果による磁壁移動メカニズムの調査も行った。これまでDMI効果による磁壁移動は、1次元の解析モデルや、小規模な2次元シミュレーションによる検討が行われており、DMIによってWalker field が増加することが指摘されていた。しかしながら、Walker field より強い磁界での移動速度や、外的ピニング効果による影響についてはこれまで議論されてこなかった。このため、シミュレーションを用いて幅500nmの細線でのDMIによる磁壁移動メカニズムの変化を調べた。シミュレーションは外的ピニング効果を持たないパーフェクトワイヤ及び異方性磁界を変化させることにより外的ピニング効果を表した二つのモデルを用いて行った。いずれの場合もDMI が大きい場合、Walker field 以上では磁壁移動速度が減少せずに一定の値になることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
前述のように、本年度は、Fuchs-Sondheimer モデルを用いた電流分布計算モデルの作成と、Dzyaloshinskiii-Moriya 効果による磁壁移動メカニズムの変化について研究をおこなった。 電流分布計算モデルについては、FSモデルを拡張することで、多層磁性膜における電流分布を計算するプログラムを作成することができた。但し、各層の接合面における電子の反射と伝導の割合は成膜方法に強く依存するために、一般的に求めることはできない。このため、これまで論文として公表されている膜厚による電導率の変化に関する実験結果のなかから、最も適当である実験結果からこれらの割合を求める必要がある。この計算及び得られた結果を用いた磁壁移動のシミュレーションは、平成27年度に行う予定である。 一方Dzyaloshinskiii-Moriya 効果による磁壁移動メカニズムの変化については、幅500nmの磁性細線で、DMI効果によって移動メカニズムが大きく変化することがわかった。しかしながら、そのメカニズムについてはまだ十分な解析を行えていない。また今回得られた移動メカニズムは、これまでに議論されてきた1次元モデルでのメカニズムと異なるために、より線幅が狭い細線についてもDMIによるメカニズムの変化の調査と解析が必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度に作成した電流分布計算プログラムを用い、これまで論文として公表されている膜厚による電導率の変化に関する実験結果のなかから、最も適当である実験結果から各層の接合面における電子の反射と伝導の割合を求め、各層での電流分布を求める。得られた電流分布を用いてスピン電流による磁壁移動に対するスピンホール効果や、さらに電流磁界効果との組み合わせを調べる。シミュレーションはラフワイヤモデルだけではなくパーフェクトワイヤモデルを用いて行い、両者の結果を比較することで既存の結果の問題点を調べる。次にDMI 効果を組み込み、その影響について調べる。上下層でこの効果が逆方向に働き相殺される為に、対称構造を持つ細線では理想的にはこの効果は現れない。このことから、現実の細線ではたとえば加工の問題による膜の非対称性からこの効果が現れている可能性が考えられる。このためDMI 項を変化させてシミュレーションを繰り返し、既存の実験結果との比較よりその効果の妥当性を検討する。特に実験では膜厚の変化により磁壁移動方向が変化することが報告されている為に、この実験との比較を行う為に膜厚を変化させてシミュレーションを繰り返す。これらのシミュレーションでは電流の非対称性を見積もり、スピンホール効果や電流磁界効果も変化させながらシミュレーションを繰り返し、実験を再現出来る条件を探索し、これらの効果の妥当性について検討する。 さらに磁界駆動におけるDMI 効果による磁壁移動メカニズムの変化については、平成26年度に得られた幅500nmの磁性細線でのDMI効果による移動メカニズムの変化の原因を調査する。さらにより線幅が狭い細線についてもDMIによるメカニズムの変化の調査と解析を行う。
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