2015 Fiscal Year Research-status Report
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26390008
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Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
仲谷 栄伸 電気通信大学, 情報理工学(系)研究科, 教授 (20207814)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | マイクロマグネティックス / 磁壁移動 / スピンホール効果 / Dzyaloshinskii-Moriya効果 / 電流磁界効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年行われているスピン偏極電流による磁壁移動の実験結果より、スピンホール効果や、Dzyaloshinskiii-Moriya 効果(DMI効果)等の新たな効果により磁壁移動メカニズムが変化する可能性が指摘されている。これらの効果は、磁性細線だけではなく、その上下層との関係によって現れる効果であるため、磁壁移動メカニズムの調査には、磁性層単体ではなく、上下層を含めた解析が必要であることが指摘されている。今年度は、DMI効果、磁性層の上下層に流れる電流によって作られるスピンホール効果、さらに電流磁界効果による磁壁移動メカニズムへの影響をシミュレーションにより調査した。計算結果より、DMIが0.3erg/cm2程度の小さな値の場合、スピンホールの有無によって磁壁移動速度はほぼ決定されるが、DMIがこの値以上の場合、電流磁界の効果が移動速度に影響し、磁壁の高速移動が可能になることがわかった。 さらに磁界駆動におけるDMI効果による磁壁移動メカニズムの変化についても引き続き検討を行った。昨年度は、細線幅が比較的広い線幅500nmの細線を用いて計算したところ、DMIによりWalker breakdown が抑制され、強い磁界においても磁壁移動速度が減少せずに一定になることを示した。今年度は本現象の線幅効果を調べるために、線幅を50nmまで減少させて計算を行った。計算結果より、線幅が50nm程度でその磁化構造が1次元モデルと同様の場合は、DMIにより単純にWalker field とWalker velocityが増加するだけであるが、線幅が100nmの場合は移動速度のbreakdown が2回、さらに幅が200nm程度の場合は breakdown が3回現れることがわかった。しかしながらそれ以上では線幅の増加と共にbreakdown が起こる磁界の差が減少していき、幅500nmではその差がほぼなくなることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
DMI効果、磁性層の上下層に流れる電流によって作られるスピンホール効果、さらに電流磁界効果による磁壁移動メカニズムへの影響を調査では、DMIが0.3erg/cm2程度の小さな値の場合、スピンホールの有無によって磁壁移動速度はほぼ決定されるが、DMIがこの値以上の場合、電流磁界の効果が移動速度に影響することがわかった。これまでDMIとスピンホール効果により、磁壁は電子と逆向きに移動することが指摘されていた。しかしながら電流磁界はスピンホール効果と逆向きの効果であるために、DMIと電流磁界を組み合わせた効果は、磁壁を電子の方向に移動させる効果と考えられる。このため、DMIと電流磁界により磁壁は電子の方向により高速に移動することが分かった。 一方DMIによる磁界駆動メカニズムへの影響についての検討では、まず線幅が広い場合(500nm)の調査を行った。Walker field 以上の強い磁界では、磁壁中央部に多くの垂直ブロッホラインが生成と消滅を繰り返しエネルギーが散逸されるために、breakdown が抑制され移動速度が減少しないことが分かった。本現象は京都大学のグループによっても実験的に確認され、共同で論文を出版した。線幅が狭い場合については、Walker field より少し強い磁界では垂直ブロッホライン(VBL)は細線端でのみ周期的に生成され、生成されたVBLがDMI効果により細線端にとどまり、次に現れるVBLと対消滅を繰り返すことが分かった。このため磁壁の残りの領域は定常的に移動するために、一旦breakdown した後も、磁界強度の増加により移動速度が増加することが分かった。線幅が100nm程度の場合、本現象は片側の細線端で起こるが、線幅が200nm程度の場合、磁界強度に応じて細線の両端で起こり、breakdownが最大3回起こることが分かった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は、細線の膜厚が一定の条件で、DMI、スピンホール、電流磁界の効果について検討した。しかしながら、磁性層の膜厚が変化した場合、細線の上下層に流れる電流分布が変化する。例えば磁性層が薄くなることで、磁性層の電流量が相対的に減少し、上下層により多くの電流が流れ、スピンホールや電流磁界効果がより強くなることが予想される。平成28年度は、磁性層の膜厚による電流分布の変化を定量的に求め、これらの効果についての検討を行う。 一方これまで磁壁移動技法としては、磁界やスピン電流による技法が研究されてきたが、近年新たな技法として電界駆動方式が提案されている。本方式では電流を用いたないために原理的には電力消費がないことから、本方式を利用した磁気デバイスでは劇的な省電力化が期待されている。しかしながらこれまでに行われた実験報告では、電界のみでの磁壁駆動の例はなく、磁界と組み合わせて、電界によるアシスト効果についての報告のみである。このため電界による磁壁駆動現象についての調査が不十分な状況である。さらに本現象に対するDMIの効果についてもまだ調査が行われていない。電界効果の一つとして異方性定数の変化が指摘されている。異方性の変化により磁壁幅が変化するが、その効果のみでは磁壁の移動はできない。しかしながら、細線に対して一様な電界ではなく、場所により強度が異なる電界を加えた場合、場所により異方性が変化し、磁壁エネルギーが変化することから、磁壁移動が可能になることが予想される。このため、シミュレーションを用いて、非一様な電界による磁壁移動現象の調査と、本現象に対するDMIの効果についての検討も行う。
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Research Products
(8 results)