2014 Fiscal Year Research-status Report
内殻励起ダイナミクス計測から探る導電性有機分子の高速電荷移動評価
Project/Area Number |
26390019
|
Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
和田 真一 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (60304391)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 非接触導電性計測 / 内殻励起反応 / サイト選択的結合切断 / 共鳴オージェ電子分光 / Core-hole clock法 / 自己組織化単分子膜(SAM) |
Outline of Annual Research Achievements |
内殻共鳴励起によって原子レベルで局所的に電荷を発生させることができる。そしてその電荷の非局在化ダイナミクスは、内殻励起特有のオージェ崩壊や選択的イオン脱離の変化として計測できると考えられる。そこで、反応性官能基をもつ自己組織化単分子膜(SAM)での共鳴オージェ電子分光とイオン脱離反応について、両現象の電荷移動との相関性を検証するため、本年度は以下の2項目を実施した。 (1) 導電性が高い芳香環を主鎖に持つメチルエステル修飾SAMを試料とし、高エネルギー加速器研究機構のPF単バンチ運転による飛行時間型イオン質量分析(TOF)測定で得られた脱離イオン種毎の収量スペクトルについて、申請者が考案した選択性の解析手法に今回新たに統計論的動力学解析を加味することで、各SAMにおけるイオン脱離の選択性を反応メカニズムと関連付けて定量的に評価・比較することができた。 (2) 芳香鎖が異なるSAM試料の炭素および酸素内殻励起領域における共鳴オージェ電子分光測定を広島大学の放射光HiSORで実施した。特にイオン化しきい値以下のπ*およびσ*共鳴励起状態でオージェ電子分光計測を行い、core-hole clock法により電子移動速度をそのオージェ遷移強度の分岐比から評価した。このことから、分子鎖の違い(芳香鎖か脂肪鎖か、および鎖長の違い)による電子導電性の変化を評価することができた。有機分子の表面単分子吸着系では、共鳴オージェ成分と励起電子の金基板への失活による正常オージェ成分とのスペクトル上のオーバーラップが大きいため、定量的な評価方法の検討が必要であった。本課題では、メチルエステル反応部位では炭素よりも酸素励起の方がそのオージェスペクトルの違いが明瞭であることを見出し、定量的な評価方法を確立することに成功した。そしてサイト選択的結合切断反応に相関した非常に速い電子移動速度を見積ることに成功した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は、芳香鎖が異なる幾つかのSAM試料を作成し、イオン脱離反応計測および電子移動計測の実施を計画していた。 イオン脱離計測については、高エネルギー加速器研究機構の放射光施設PFでの単バンチ運転によるTOF測定を必要とするが、本年度は同運転が実施されず、放射光パルスセレクターを併用したハイブリッド運転で計測実験を実施した。この場合、高強度のアンジュレーター光を用いても放射光のチョッピングにより十分な強度のパルス放射光を得ることができず、十分な信号強度のTOF測定は困難であった。一方で、今回新たに統計論的動力学解析をベースとした新しいイオン脱離の解析手法を考案し、各SAMにおけるイオン脱離の選択性を反応メカニズムと関連付けて定量的に評価・比較することに成功した。 電子移動計測については、イオン化しきい値以下のπ*,σ*共鳴励起状態で精密に行い、オージェ強度の分岐比から電子移動速度を決定することができ、導電性鎖長の違いによる電子移動速度の変化を考察することができた。 以上のことから、初年度の達成目標の大半を遂行することができたと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究の遂行に欠かすことができない脱離イオン測定には、PF単バンチ運転でのTOF計測実験を必要とするが、高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所の方針により単バンチ運転の実施が行われなくなった。一方で、並行してパルスセレクター装置が導入され、同装置を用いたハイブリッド運転の単バンチ化の整備が進展している。同施設担当者と綿密に連携をとりながら、次年度以降でのパルスセレクターを併用したハイブリッド運転によるパルス放射光の利用に備える。併せてHiSORでのオージェ電子分光計測手法およびデータ解析手法の改良を試みるとともに、PFでのイオン脱離計測と同一試料での電子計測にも取り組む予定である。
|
Causes of Carryover |
H26年度は、高エネ研のPFにおいて単バンチ運転が施設方針により実施されなかったため、イオン脱離計測研究の一部計画を変更し、イオン脱離データの新規解析手法の確立と広島大学HiSORでの共鳴オージェ電子分光計測による電子移動速度評価に専念することとした。そのために試薬購入および実験出張、成果発表等での未使用による次年度使用額が生じた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
このため次年度以降は、現在高度化が進められているパルスセレクターでPFのハイブリッド運転から単パルスを取り出す手法(施設側が整備・提供)を利用することで、内殻励起イオン脱離反応のTOF計測を実施することとし、同実験研究による研究成果のシンポジウムでの発表を行う。発生した次年度使用額はその経費に充てる。
|
Research Products
(8 results)
-
[Journal Article] Nanoplasma formation by high intensity hard X-rays2015
Author(s)
T. Tachibana, Z. Jurek, H. Fukuzawa, K. Motomura, K. Nagaya, S. Wada, P. Johnsson, M. Siano, S. Mondal, Y. Ito, M. Kimura, T. Sakai, K. Matsunami, H. Hayashita, J. Kajikawa, X.-J. Liu, E. Robert, C. Miron, R. Feifel, J.P. Marangos, K. Tono, Y. Inubushi, M. Yabashi, S.-K. Son, B. Ziaja, M. Yao, R. Santra, and K. Ueda
-
Journal Title
Scientific Reports
Volume: 5
Pages: 10977(1-7)
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
-
[Journal Article] Covariance mapping of two-photon double core hole states in C2H2 and C2H6 produced by an X-ray free electron laser2015
Author(s)
M. Mucke, V. Zhaunerchyk, L.J. Frasinski, J.H.D. Eland, M. Larsson, L. Foucar, J. Ullrich, K. Motomura, S. Mondal, K. Ueda, T. Osipov, L. Fang, B.F. Murphy, N. Berrah, C. Bostedt, J.D. Bozek, S. Schorb, M. Messerschmidt, O. Takahashi, S. Wada, M.N. Piancastelli, K.C. Prince, and R. Feifel 他10名
-
Journal Title
New Journal of Physics
Pages: 印刷中
Peer Reviewed
-
-
-
-
-
-