2016 Fiscal Year Research-status Report
内殻励起ダイナミクス計測から探る導電性有機分子の高速電荷移動評価
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26390019
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
和田 真一 広島大学, 理学研究科, 助教 (60304391)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 非接触導電性計測 / 内殻励起反応 / サイト選択的結合切断 / 共鳴オージェ電子分光 / Core-hole clock法 / 自己組織化単分子膜(SAM) |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究で着目している軟X線を用いた内殻電子励起の最大の特徴は、価電子励起とは異なる局所的な電子遷移であり、分子内の特定の原子を選択的に励起することができる点にある。したがって内殻共鳴励起によって原子レベルで局所的に電荷を発生させることができる。そしてその電荷の非局在化ダイナミクスは、内殻励起特有のオージェ崩壊や選択的イオン脱離の変化として計測できると考えられる。そこで、反応性官能基をもつ自己組織化単分子膜(SAM)での共鳴オージェ電子分光とイオン脱離反応について、これらと電荷移動との相関性を検証するため、本年度は以下の2項目を実施した。 (1) 高エネルギー加速器研究機構の放射光施設PFにおけるハイブリッドバンチ運転において、パルスセレクターを用いた放射光の単パルス化による飛行時間型イオン質量分析(TOF)測定によって従来と同様に脱離イオン種の検出が可能であるかを評価するため、メチルエステル修飾SAMを試料とした評価実験を実施した。上記装置システムの高感度化を目指した調整の継続が確認された。 (2) 芳香鎖が異なるSAM試料の酸素内殻励起領域における共鳴オージェ電子分光測定をPFで実施した。イオン化しきい値前後での共鳴励起状態でオージェ電子分光計測を行い、core-hole clock法により電子移動速度をそのオージェ遷移強度の分岐比から評価した。新たに分子鎖が異なるSAM試料でも測定することに成功し、分子鎖の違いによる電子移動速度の違いを分子導電性の傾向に依存して計測することができた。本課題で検討したスペクテーター型オージェ強度の評価手法が、測定スペクトルの精度(シグナル・ノイズ比)の良し悪しに依らず定量的に評価することが可能であることを確認した。そしてサイト選択的結合切断反応と電子移動速度の相関性についても確認することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
これまでの3年間では、芳香鎖が異なる幾つかのSAM試料を作成し、イオン脱離反応計測および電子移動計測の実施を計画していた。 イオン脱離計測については、高エネルギー加速器研究機構の放射光施設PFでの単バンチ運転によるTOF測定を必要とするが、同運転が実施されなかったことから、放射光パルスセレクターを併用したハイブリッド運転で計測実験を実施した。この場合、高強度のアンジュレーター光を用いても放射光のチョッピングによってパルス放射光の強度は激減するため、十分な信号強度のTOF測定は困難であった。一方で、今回新たに統計論的動力学解析をベースとした新しいイオン脱離の解析手法を考案し、各SAMにおけるイオン脱離の選択性を反応メカニズムと関連付けて定量的に評価・比較することに成功し、分子導電性を間接的に評価する手法を見出すことができた。 電子移動計測については、イオン化しきい値前後でのπ*およびσ*内殻共鳴励起状態でオージェ電子分光計測を精密に行った。共鳴オージェ強度と正常オージェ強度の分岐比から電子移動速度を決定することができ、分子鎖の導電性の違いによる電子移動速度を系統的に考察することができた。また、実際の電極間架橋による分子接合条件を模倣した試料系の作成にあたり、被覆されていない裸の金ナノ粒子の作成にも成功した。 以上のことから、これまでの3年間での達成目標の多くは遂行することができたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の遂行に欠かすことができない脱離イオン測定には、高エネルギー加速器研究機構の放射光PFでの単バンチ運転によるTOF計測実験を必要とするが、同施設の運営方針により単バンチ運転の実施が行われない予定である。一方で、PFでのハイブリッド運転にパルスセレクター装置を組み合わせることで可能となるパルス放射光利用実験の整備が進められており、同装置を利用した内殻励起イオン脱離反応のTOF質量分析計測を進め、その有効性を評価しているところである。今後も同施設担当者と綿密に連携をとりながら継続的な装置調整によって高感度化を目指し、次年度でのパルスセレクターを併用したハイブリッド運転によるパルス放射光の利用に備える。併せてHiSORでのオージェ電子分光計測手法およびデータ解析手法の改良を試みるとともに、PFでのイオン脱離計測と同一試料での電子計測にも取り組む予定である。
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Causes of Carryover |
H28年度は、高エネルギー加速器研究機構のPFにおいて単バンチ運転が施設方針により実施されなかった。また同施設のハイブリッド運転にパルスセレクターを併用することで可能となる放射光の単バンチ化の整備状況もまだ調整を必要とするため、イオン脱離計測研究の一部計画を変更し、イオン脱離データの新規解析手法の確立および共鳴オージェ電子分光計測による電子移動速度評価に専念することとした。そのために実験出張費やそれに伴う消耗品費で未使用による次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
このため次年度は、現在高度化が進められているパルスセレクターでPFのハイブリッド運転から単パルスを取り出す手法(施設側が整備・提供)を利用することで、内殻励起イオン脱離反応のTOF計測を実施することとし、発生した次年度使用額は、同実験研究に必要な実験出張費及び装置の改良の経費に充てる。
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Research Products
(6 results)
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[Journal Article] Ultrafast dynamics of a nucleobase analogue illuminated by a short intense x-ray free electron laser pulse2016
Author(s)
K. Nagaya, K. Motomura, E. Kukk, H. Fukuzawa, S. Wada, T. Tachibana, Y. Ito, S. Mondal, T. Sakai, K. Matsunami, R. Koga, S. Ohmura, Y. Takahashi, M. Kanno, A. Rudenko, C. Nicolas, X.-J. Liu, Y. Zhang, J. Chen, M. Anand, Y. H. Jiang, D.-E. Kim, K. Tono, M. Yabashi, H. Kono, C. Miron, M. Yao, and K. Ueda
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Journal Title
Physical Review X
Volume: 6
Pages: 021035(1-9)
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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[Journal Article] Femtosecond charge and molecular dynamics of I-containing organic molecules induced by intense x-ray free-electron laser pulses2016
Author(s)
K. Nagaya, K. Motomura, E. Kukk, Y. Takahashi, K. Yamazaki, S. Ohmura, H. Fukuzawa, S. Wada, M. Kanno, A. Rudenko, C. Nicolas, X.-J. Liu, C. Miron, Y. Zhang, Y. Jiang, J. Chen, M. Anand, D.-E. Kim, K. Tono, M. Yabashi, M. Yao, H. Kono, and K. Ueda, 他7名
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Journal Title
Faraday Discussions
Volume: 194
Pages: 537-562
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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[Journal Article] Interatomic Coulombic decay cascades in multiply excited neon clusters2016
Author(s)
K. Nagaya, D. Iablonskyi, N.V. Golubev, K. Matsunami, H. Fukuzawa, K. Motomura, T. Nishiyama, T. Sakai, T. Tachibana, S. Mondal, S. Wada, K.C. Prince, C. Callegari, C. Miron, N. Saito, M. Yabashi, Ph.V. Demekhin, L.S. Cederbaum, A.I. Kuleff, M. Yao, and K. Ueda
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Journal Title
Nature Communications
Volume: 7
Pages: 13477(1-6)
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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