2015 Fiscal Year Research-status Report
生体分子間相互作用を網羅する新型1分子蛍光イメージング法の開発
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26390035
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
谷井 孝至 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (20339708)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山本 英明 東北大学, 学内共同利用施設等, 助教 (10552036)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 1分子イメージング / 蛍光観察 / FRET / ZMW |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒトの体内で重要な働きをするタンパク質の多くは、濃度を~μMにまで高めないと、効果的にリガンドと結合して特異的な機能を発現することができない。しかしながら、従来の1分子蛍光イメージング法では、このような高濃度条件下で目的の1分子だけを可視化することは不可能であった。そこで、改良型ゼロモード導波路(ZMW)と蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)とを融合した新しいリアルタイム1分子蛍光イメージングを開発することを目的として以下の実験に取り組んだ。 (1)DNAアプタマを用いたセンサ応用: 光をZMW内部に閉じ込め、さらにFRETを活用することにより、高濃度条件下でZMWに固定したDNAアプタマが標的分子と結合(または解離)することを可視化できる。今回、グアニンカルテットと呼ばれる配列を含むDNAアプタマを設計した。このDNAアプタマは、Caイオンと結合すると折りたたまれる性質を有する。これを活用して、Ca濃度依存的にDNAアプタマが折りたたまれる様子を観察すること試みた。2015年度の設計と実験を通して、ZMW内に固定したDNAアプタマからの1分子蛍光は観察できているものの、設計に問題があることが判明したので、再設計を試みている。 (2)インフルエンザ由来のエンドヌクレアーゼのDNA切断過程のリアルタイム1分子蛍光イメージング: インフルエンザ由来のエンドヌクレアーゼがDNAに結合する過程、DNAを切断する過程、およびDNAから解離する過程を1分子でリアルタイムに蛍光観察する系の構築に着手した。PANにはGFP蛍光タンパク質が修飾され、PANがZMWに固定されたDNAに結合・解離する瞬間も同時に捕捉することができる。2015年度には、静的な実験ではあるものの、濃度1μMのPAN-GFPがZMWに固定したDNAを切断することが確認でき、リアルタイム観察に向けた前準備が整いつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当研究グループは、半導体微細加工を活用してZMWを自作し、その構造を自在に改良することができる。ZMWを活用した1分子蛍光イメージングを研究している他の研究グループからの報告では、ZMWを用いると、ZMW内部に固定した分子のFRET効率が低下することが問題となっていた。FRETは近距離相互作用であるので、ZMWとFRETのとが融合できるようになれば、より高濃度で1分子蛍光イメージングを実行でき、観察できるタンパク質の種類や観察できる機能を拡張できる。 2014年度に行った、モレキュラービーコンを用いたデモンストレーションでは、ZMWの構造を改良することによって、ZMW内でも十分なFRET効率を確保できることを見出した。これにより、2015年度には、DNAアプタマ(グアニンカルテット)を用いたCaイオンセンサへの応用やインフルエンザ由来のエンドヌクレアーゼ(PAN)のDNA切断素過程の1分子イメージングといった新しい実験へと展開することが可能となった。エンドヌクレアーゼの活性を高めるために、当初計画になかったサンプルステージの温度調整が必要となったが、これを自作することで完成し、なおかつ70℃まで高温にしても1分子FRETが計測できることを確認した。 一方、DNAアプタマの設計に問題があることが判明したが、この取り組みは当初の計画で最終段階に位置付けられているので、当初予想していなかった問題が早い段階で明らかとなり、設計変更によって回避できると考えられるので、おおむね順調に進展している、と考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)DNAアプタマを用いたセンサ応用: 課題は、DNAアプタマをZMWに固定する化学官能基と、FRETを生じさせるためのドナー/アクセプタ蛍光分子とを、グアニンカルテットによるDNAアプタマの折りたたみを阻害しないように、DNA配列に組み込むことである。 設計した上記2種類のDNAアプタマを用いた実験では、Ca依存的な折りたたみ、すなわちCa濃度に依存したFRET効率の変化は観測されなかった。現在、この原因について継続的に調査中であるが、おそらくFRET効率を調節するためにDNA配列設計時に挿入したアデニンとチミンからなるスペーサが、グアニンカルテットの形成を阻害し、Caイオンとの結合力を低下させてしまったと考えている。2016年度にはDNA配列を再設計して実験を進める。 (2)インフルエンザ由来のエンドヌクレアーゼのDNA切断過程のリアルタイム1分子蛍光イメージング: 2015年度には、静的な実験ではあるものの、濃度1μMのPAN-GFPがZMWに固定したDNAを切断することが確認できた。現在、①PANとDNAとの結合、②DNAの切断、および③PANの解離を時間軸上で同時に捕捉できるよう光学系を改良している。①から③の観測を成功させ、DNA切断過程の解析を実行する。 (1)および(2)の成功をもって、2016年度(最終年度)に、改良型ゼロモード導波路(ZMW)と蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)とを融合した新しいリアルタイム1分子蛍光イメージングの開発を完遂したい。
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