2015 Fiscal Year Research-status Report
光機能性バイオナノマテリアルの2光子吸収過程―機構解明とデバイス開発に向けて―
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26390046
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
横山 泰範 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (80402486)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ナノバイオ / 先端機能デバイス / 光物性 / 蛋白質 / 生物物理 |
Outline of Annual Research Achievements |
光機能性の生体物質・バクテリオロドプシン(bR)を用いた光記録デバイス開発を目的として、書込み原理となる2光子吸収現象を制御可能にするとともに、デバイス化のために必要不可欠な固体試料の作製を目的として研究を進めている。平成27年度は、前年度までに作製したポリビニルアルコール(PVA)ハイドロゲル中にbRの超分子複合体である紫膜を固定した固体試料に対し、bRの構造・機能の観点に焦点を当てて研究を進めた。同時に、光書込みしたbR色素に対する書込み情報の消去(bR色素の再生)に関する研究を行い、メモリのランダムアクセス化の実現を目指した。 PVAゲル中でのbRの機能に関しては、群馬大学の園山正史教授の協力の下、bRが光駆動プロトンポンプとして機能する際に経る”光サイクル”と呼ばれる一連のbRの構造変化を時間分解吸収分光測定により直接観測し、光サイクル中の光中間体の生成・減衰の時定数を懸濁液系のbRと比較することで評価した。PVAゲル中の紫膜bRは、懸濁液系の紫膜bRとほぼ同一な光サイクルを示した。 PVAゲルで固定化された紫膜bRの2次元結晶を確認するために、群馬大学の高橋浩教授の協力の下、放射光施設においてX線回折実験を行った。凍結前のゾル状の紫膜PVA溶液ならびに凍結・融解サイクルを5回繰り返したゲル状bRに対する測定から、bRの2次元結晶構造はPVAゲル中においても保持されていることが分かった。さらに、紫膜とPVAゲル構造が織りなす様々な周期構造についての知見が得られた。 光退色した(書込まれた)bR色素に対する青色光照射による色素再生と、bRの2次元結晶との関係を明らかにするために、人工リン脂質膜にbRを再構成した試料を用いて懸濁液中での実験を行った。これまで青色光照射により退色したbR色素は70%程度回復することが知られていたが、リン脂質膜が液晶相をとりbR結晶性が崩れたときに青色光照射すると、ほぼ100%の割合で色素回復が起こることを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
PVAゲル中で固定化した紫膜bRに対する時間分解測定の結果、bRの光化学的応答はPVA固体試料中でも観測され、驚くべきことに水溶媒中とほぼ変わらないキネティクスであった。この結果は、水分を多く含むハイドロゲル中においてもbRは水中と変わらず機能できることを示しており、デバイス応用のため固定媒体としてPVAを選択したことの妥当性を示すものである。今後の研究推進にとって非常に意義深い結果であると言える。また、凍結・融解サイクルによりPVAゲル化が進んだ試料では、M中間体生成効率の上昇を示唆する結果を得た。これは、これまでのPVAゲル中での紫膜の配向化と矛盾しない結果であり、bRの光書込みを制御する上で重要な要素となる。 PVAゲル化進行に伴うbRの2次元結晶構造への影響を検討するために、放射光施設においてX線回折実験を行った。凍結前のゾル状の紫膜PVA溶液ならびに凍結・融解サイクルを5回繰り返したゲル状試料に対する測定から、bRの2次元結晶構造はPVAゲル構造形成の有無にかかわらず保持されることが分かった。さらに、これまでに示唆されていたPVAゲル中での紫膜の配向について、配向を直接示す異方的な回折ピークを観測した。ゲル中で紫膜が配向することは、今後高密度書込みを行う上で非常に大きなメリットとなり、大変意義深い結果である。また、凍結前のゾル状試料において、紫膜間の20 nm程度の周期構造が確認された。このことは、ゲル化が進む前から紫膜同士がPVA中で規則構造を形成していることを示し、ゲル化に伴う紫膜配向機構を考える上で重要な結果である。 メモリのランダムアクセス化を実現するために、計画外ではあったが退色したbR色素の再生とbR結晶性の関係について実験を行った。結果として、bR結晶性が悪い時の方が青色光による色素再生効率が飛躍的に上昇し、100%に近い再生割合であった。この結果はメモリの再書込みのために必須の技術の実現可能性を示すものである。
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Strategy for Future Research Activity |
試料作製については、bRを人工リン脂質膜に再構成したプロテオリポソームをPVAと混合した試料を作製し、bRの2次元結晶が温度で制御可能であるかを検証する。また、紫膜の配向に関して高分子鎖の結晶化度との関係を検討するために、PVAとは別種の親水性高分子を用いた試料作製を試みる。特に、PVAゲルは物理的架橋によりゲル構造が形成されているので、化学架橋剤により形成されるゲルについても検討する。作製した全ての固体試料について1光子でのbR光化学反応を時間分解測定により測定し、反応サイクル時間や反応効率について検討する。本年度同様、放射光施設においてX線回折実験を行い、ゲル中での規則構造形成についても検討を行う。 bRの2光子励起による光書込み方法の確立については、波長可変フェムト秒レーザーによるポンプ・プローブ測定を行い、広い波長範囲に渡り励起波長・励起エネルギー依存性について検討を行う。2光子励起の確認は、励起光強度の2乗に比例した応答の観測を持って行うが、純粋な2光子過程の他にも励起教強度の2乗に比例する応答が存在しうるので、1光子励起の結果と比較しながら注意深く行う。さらに、固体試料作製の進展と連動して、2光子書込み効率とbR結晶性との関係を検討する。 本年度の成果として、退色したbR色素に青色光を照射することによってほぼ完全に色素再生が起こることを確認したが、この現象についても固体試料で起こるか、また2光子過程での色素再生が可能であるかについても研究を進める。
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Causes of Carryover |
波長可変フェムト秒レーザーに問題が生じたため、bRの2光子励起過程に関する研究を十分進めることができず、研究進行に一部変更を行った。平成27年度では当初の計画にはなかった青色光によるbR色素再生の研究を行い、メモリのランダムアクセス化のために必須な結果を得ることができた。このことに伴い、次年度使用額が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究計画の変更により、当初の予定で計画していたbRの2光子励起に関する研究が滞った状態にある。これについては次年度使用額を活用して研究を推進する。
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Research Products
(1 results)