2015 Fiscal Year Research-status Report
有機薄膜太陽電池の動作環境下における電子構造と動作特性との相関
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26390048
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Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
田中 仙君 近畿大学, 理工学部, 講師 (20397855)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 有機薄膜太陽電池 / 光電子分光 / 電場変調分光 / 有機半導体 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、光電子分光法と電場変調分光法による動作環境下における電子構造測定についての研究と有機薄膜太陽電池の作製についての研究を並行して進めた。 1.光電子分光法と電場変調分光法の測定について 学外の光電子分光測定装置を利用した光照射下における電子構造測定は、装置トラブルなどにより効率的な利用が難しくなったため、計画を修正し、学内施設における光電子測定に重点を置くこととした。イオンスパッタリング法によって徐々に試料表面を削りとりながら測定することで、素子表面と素子内部の電子構造の違いや金属電極と有機薄膜との界面における電子構造などについてデータを蓄積した。また、後述する鉛ペロブスカイト型太陽電池の光電変換層となるペロブスカイト層についても電子状態測定を行った。鉛ペロブスカイト薄膜は、大気中での劣化や加熱による構造変化などが生じることが知られているが、これらが電子構造に及ぼす影響についても観測できた。電場変調分光法については、測定中の素子の変質抑制と光透過率の高い素子の作製が課題であったが、実験装置の改良と後述する半透明太陽電池の作製に成功したことで、状況が打開されつつある。 2.有機太陽電池の作製について 従来から研究されている高分子系太陽電池に加え、近年大変注目されている鉛ペロブスカイト型太陽電池の作製方法についても研究を進めた。高分子系太陽電池においては、シート状のカーボンナノチューブ(CNT)を上部電極として用いた半透明太陽電池の作製手法を確立した。この電極と、透明電極として広く用いられているITO電極との組み合わせにより、半透明な太陽電池を作製しその特性を評価したところ、光照射方向による光電変換特性の違いについて興味深い結果が得られた。また、鉛ペロブスカイト型太陽電池の作製では、溶液法と比較すると検討が進んでいない真空蒸着法について新たな知見が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
実績の概要でも記載したように、光電子分光法を用いた動作環境下における電子状態測定の実施が困難な状況となっており、この点は計画からやや遅れを生じてしまっている。特に光照射下での光電子分光法は、学外実験施設の利用を柱として計画していたため、今後の計画の見直しが必要となっている。しかし、電場変調分光法については着実にデータが蓄積されつつある。さらに、27年度に導入した透明電極表面の処理装置の効果によって、太陽電池素子の再現性や安定性が大幅に向上し、時間がかかる測定についても信頼性が向上してきた。また、電場変調分光法のうち、吸収分光法を実施するためには上部と下部の両方の電極の光透過率を向上させる必要があるが、このための方策として、可視光領域において50%程度の透過率を持つカーボンナノチューブ電極を上部電極として用いる手法が確立できた。このカーボンナノチューブ電極と、従来から用いられている透明電極であるITO電極とを組み合わせることで、半透明な有機薄膜太陽電池を作製することに成功した。この半透明太陽電池を測定試料として用いることで、電場変調分光法においてより効果的な測定が行えると期待している。また、鉛ペロブスカイト型太陽電池についても真空蒸着法による作製手法を確立しつつあり、注目度の高い情報が得られることが期待される。 以上のように、本年度に関しては光電子分光法の実験遅れを考慮してやや遅れていると評価したが、電場変調分光法による測定や鉛ペロブスカイトに関する研究でこの遅れを挽回できるだけの状況が整いつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
光電子分光法については、光照射下における測定が困難となっているため、従来の光電子分光法によるデータの蓄積を主に実施していくが、実験装置の改良などで光照射下における測定を実施する方法についても検討を継続する。 電場変調分光法については、半透明太陽電池との相性が良いと考えられるので、本年度はこの測定を積極的に推進していく。 鉛ロブスカイト型太陽電池についても当初の計画では測定試料としていなかったが、薄膜作製方法の確立にめどが付いたため、電子構造測定に組み入れていきたい。特に、CNT電極との組み合わせが可能であるかを検討する予定である。 また、本年度は最終年度に当たるため、これまでに得られたデータから考察される有機薄膜太陽電池の動作と電子構造との相関について総括し、学会発表、論文化などによるアウトプットをより積極的に進めていく。
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Causes of Carryover |
学外施設を利用した光電子分光実験を実施するために旅費を確保していたが、装置トラブルのため実験が延期となり未使用のまま繰越すことになった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度に実験を延期したため、これに使用する予定である。
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