2015 Fiscal Year Research-status Report
側面X線照射方式を用いた低被曝線量X線CT用高感度X線センサの研究開発
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26390104
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Research Institution | Kyushu Institute of Technology |
Principal Investigator |
有吉 哲也 九州工業大学, マイクロ化総合技術センター, 助教 (60432738)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
有馬 裕 九州工業大学, マイクロ化総合技術センター, 教授 (10325582)
馬場 昭好 九州工業大学, マイクロ化総合技術センター, 准教授 (80304872)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | X線CT / 低被曝線量 / トレンチ構造型フォトダイオード / 直接変換型X線センサ |
Outline of Annual Research Achievements |
医療用X線画像診断は被曝線量の問題が付きまとい、この被曝線量を抑えるためにX線検出器の高感度化が望まれている。 X線検出器には間接変換方式と直接変換方式がある。間接変換方式ではシンチレータなどを用いて一旦計測対象のX線を可視光に変換し、通常のイメージセンサでこの可視光を撮像する。しかし、シンチレータのX線‐可視光変換効率は10%程度である。一方、直接変換方式ではX線を可視光に変換することなく計測するので、X線の検知効率は高い。但し、X線は透過性が高いので、検出器の構造を工夫する必要がある。高感度で、デバイス寿命、信頼性、耐ノイズ、低消費電力に有利な低バイアス電圧で稼働する直接変換型シリコン半導体X線センサを考案している。本研究ではトレンチ型フォトダイオードを採用したX線センサを設計・試作し、X線に対する感度特性を評価した。 2014年度ではデバイスシミュレーションによって、低バイアス電圧でも大半のセンサ領域を空乏化できる画素構造を決めた。この条件を基にトレンチ構造型フォトダイオードを採用したX線センサの設計・試作を行った。 2015年度は試作したX線センサの評価を行った。センサ厚さは550μm、画素は1mm角であった。SEMを使った断面観察によると、トレンチの深さは約170μm、幅は17μm、間隔は120μmであった。このセンサチップの側面からX線を検出するか、チップを複数枚重ねることでセンサの実効長さを稼ぐことができ、高い光電変換効率を有するX線センサを実現できる。センサ画素に吸収されるX線のうち、どの割合が電気信号に変換されるのかを評価した。吸収X線-電流信号変換効率を求めたところ、バイアス電圧が20Vでは84.7~91.0%であった。トレンチを深くし、裏面バイアス電極を設けることで吸収X線-電流信号変換効率の理論限界96.7%に迫ることができると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
トレンチ型フォトダイオード単体のダイオード特性を測定した。逆バイアス電圧印加時の漏れ電流が少ないセンサチップを選定し、吸収X線-電流信号変換効率を導出した。 X線のエネルギー測定には本研究費で購入済のCdTe放射線測定器(以下、単に放射線測定器という)を用いた。センサを配置せずにX線を放射線測定器で計測し、引き続きセンサチップをX線発生装置と放射線測定器の間に配置し、センサを透過したX線を計測した。この二つの量を差し引いて画素へ吸収されるX線のエネルギーを求め、シリコンのε値やX線照射時間から発生電流換算値を求めた。この電流換算値が、センサ画素が検知できる上限の電流信号値となる。次にX線照射時におけるトレンチ型フォトダイオードの電流信号を計測し、あらかじめ計測したダイオード特性(X線無照射時のオフセット)を差し引くことで、X線照射による電流信号の増加量であるX線検知電流を求めた。この発生電流換算値とX線検知電流を比較し、吸収X線-電流信号変換効率を導出した。その結果、ダイオードに印加する逆バイアス電圧が20Vで吸収X線-電流信号変換効率が84.7~91.0%であった。理論限界は96.7%(トレンチ空洞部の体積が画素部の3.3%であるため)であり、改善の余地は残っている。逆バイアス電圧が20V以上ではX線検知電流に大きな変化は確認されず、形成される空乏層がトレンチ間隔に達した為だと考えられる。 以上より、試作したトレンチ型フォトダイオードを有するX線センサの吸収X線-電流信号変換効率は理論限界には達していないものの、高い値が示された。また、他のX線検出器ではバイアス電圧が100~1000Vである中、トレンチ型フォトダイオードによって20Vという低い逆バイアス電圧で稼働できる傾向を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
今回試作したX線センサにおいて、トレンチダイオードを深くすることや裏面バイアス電極を設けることで理論限界に迫る吸収X線-電流信号変換効率を得ることができると考えられる。 粒子・重イオン輸送計算コード(PHITS)を用いて、試作X線センサの形状・材質中における照射X線の挙動を詳細に解析する。また、センサ内で生成する二次電子の熱平衡状態以降の挙動をデバイスシミュレータで解析する。これらの解析結果をもとに、最適なセンサ形状・構造・チャネル部不純物濃度などを決めていく。 画素回路内のMOSFET歩留まりが改善されつつあり、トレンチ型フォトダイオードと画素回路が共に正常に動作している画素が作製されている。この画素にまずは検知しやすい放射線であるα線を照射して単一放射線検知パルス波形の観測実験を行い、シングルパーティクルカウント(単一粒子計数)が可能であることを実証していく。また、α線のエネルギースペクトルを取得してエネルギー分解能を評価していく。その後は実際に医療用画像診断で使われるX線を画素に照射して、次世代のX線CTの要となるシングルフォトンカウント(単一光子計数)実験およびエネルギースペクトルを取得してエネルギー分解能を評価していく。 トレンチ型フォトダイオードと画素回路が共に正常に動作している3×3の二次元9画素を用いてコンプトン散乱および隣接画素への生成電荷の漏れによる画素信号のにじみを調査し、時間分解能や位置分解能を評価していく。さらに、センサチップを複数枚積層することによるX線の検知効率や積層方向へのコンプトン散乱および積層方向画素への生成電荷の漏れを評価していく。 以上の課題の解決・不明点の調査を遂行し、第二回目のX線センサLSIを設計・試作し、各種性能を評価していく。
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Causes of Carryover |
購入物品が安価で購入できたこと、および、現有装置類で各種実験が行えたことにより、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
X線センサ評価用冶具、専用のシミュレーション用・データ解析用コンピュータ、放射性同位元素線源の購入、国際学会発表経費(参加費、要旨校正費、交通費、宿泊費)、学術論文投稿経費(論文校正費、論文掲載費)、装置業者との打ち合わせ費用(交通費、宿泊費、材料輸送費)として使用予定。
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