2014 Fiscal Year Research-status Report
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26400001
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Research Institution | Muroran Institute of Technology |
Principal Investigator |
森田 英章 室蘭工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90435412)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 代数学 / 表現論 / 組合せ論 / 対称関数論 / ゼータ関数 |
Outline of Annual Research Achievements |
対称関数(対称多項式)は現代代数学の大きな源泉の一つである。この研究の主題はその「非可換化」、特に「非可換マクドナルド多項式」を具体的な主題として取り上げる。マクドナルド多項式は、2つの助変数をもつ対称多項式である。それら助変数を特殊化することにより様々な古典的な対称関数が生じることから、ある意味多くの対称関数の母体とも言えるものである。 この研究では、マクドナルド多項式の助変数を1の冪根に特殊化することを考える。可換なマクドナルド多項式の場合は、助変数を適切な1の冪根に特殊化すると「分解公式」とよばれる表現論的な背景をもつ性質を満たすことが、報告者らの研究によって明らかにされている。この分解公式の非可換化を具体的な問題としている。 その予備的考察として、マクドナルド多項式の特殊な場合である、助変数付き完全対称関数の場合を考察している。完全対称式の母関数はある種のゼータ関数を与えており、ゼータ関数の非可換化という観点から捉えることも興味がもたれる問題となる。特に、ここに現れるゼータ関数は、グラフ・ゼータなどの組合せ論的ゼータ関数とよぶカテゴリーに属する形をしている。一方、グラフ・ゼータ関数は伊原ゼータを原点として、現在では様々な派生形態をもつが、対称関数的な観点から眺めると、それらを力学系的観点から統一的に扱うことができれば、その非可換化に向けて有効なプラットフォームが得られることが期待される。 そして現在までに、伊原ゼータをはじめ、第一種重み付きゼータ、第二種重み付きゼータ、さらには有向グラフのゼータ、重み付きゼータ、あるいはそれらの被約型などは、すべて等しく準有限な離散力学系のルエル・ゼータとして統一的に記述されることが解明された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
分解公式が成立するようにマクドナルド対称関数の非可換化に相当する対象を、非可換対象関数環の元として設定する問題を扱うにあたり、完全対称関数に相当する場合に状況を限定して考察を進めていく過程で、議論は組合せ論的ゼータ関数の非可換化との密接な関連が認識された。完全対称式の母関数をグラフ・ゼータ関数として見ることにより、その非可換化の自然なあり方を探求することは、研究遂行に対して重要な観点を与えることが期待される。グラフ・ゼータ関数にかぎらず、組合せ論的な設定上定義される「ゼータ的なるもの」、これをここでは「組合せ論的ゼータ関数」とよぶことにすると、組合せ論的ゼータ関数は、ゼータ関数としてひとしく完全対称式の母関数と同じ形をしている。 伊原ゼータ関数に始まるグラフ・ゼータ関数は、その後多様な展開をみせており、現在では多くの派生形態を有する豊かな研究対象である。近年、グラフ・ゼータ関数の非可換化の嚆矢とも言える結果が、いくつかのグラフ・ゼータ関数に対して定義されたが、より統一的な観点から議論することがより望ましいありかたであると報告者は考える。その枠組の構築を試みたところ、これまでに知られている各々のグラフ・ゼータ関数が、重み付きのものや、被約であるか否かにかかわらず、準有限な離散力学系上のルエル・ゼータ関数として統一的に構成されることが判明した。この事態は、今後グラフ・ゼータ関数の非可換化を考察する上で、基本的なプラットフォームを与えることになり、議論を行う基盤が整備されたという点で、大きな意義をもつ。
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Strategy for Future Research Activity |
準有限な離散力学系のルエル・ゼータの非可換化を対象とする。ルエル・ゼータは力学系の周期点に対してウェイトをかけることにより、アルチン=メーザー・ゼータ関数を一般化したものである。非可換化の意味するところは、周期点に対してかけられるウェイトを一般に非可換環の元とし、可換な場合のようにオイラー積表示や行列式表示、あるいは関数等式などの「ゼータ的」な性質の成立を問うことである。 そこでウェイトとしてはまず四元数体の元をとることを考えるのが適切である。一般に、力学系上でゼータ関数を定義する場合は、指数型母関数表示を用いて定義することが自然である。その後、オイラー積表示そして行列式表示を導出することが自然な流れである。ここでもこの流れに従い、指数型母関数表示による定義を確立した後、オイラー積表示や行列式表示を導出することを予定している。ただし、ウェイトが四元数という斜体の元なので、行列式表示を考察する場合、通常の行列式は使用できない。非可換成分をもつ行列の行列式に該当する概念としては、非可換対称関数を定義する際に用いる準行列式を始めとして、ディユドネ行列式やスタディ行列式などが知られているが、ここではまずスタディ行列式を用いた行列式表示を目標とする。
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Causes of Carryover |
教育業務との関連により、計画していた出張が一回キャンセルを余儀なくされた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前年度にキャンセルされた出張を今年度行う。
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