2016 Fiscal Year Research-status Report
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26400020
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
中島 匠一 学習院大学, 理学部, 教授 (90172311)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 円分体 / 類数 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度も、本研究の目的である素数ベキ分体の類数のマイナスパートの計算を継続した。この計算の困難さは、素数ベキが少し大きな数になるだけで、その素数ベキ分体の類数が(10進法表示で)何億桁にもなる巨大な整数となる点にある。前年度までに一応の計算プログラムは出来ていたが、今年度はプログラムで採用したアルゴリズムを見直して、計算のスピードの向上と計算に当たって必要となるメモリーの節約を計った。この新しいプログラムで計算を実行した結果、現在の手持ちの計算機の性能を限界まで活用できて、十分多くのデータを集めることが出来た。 我々の研究では、上記のように構築した類数のデータベースの活用として、2つの方向を想定している。1つ目は、「これらの類数はすべて互いに素である」という仮説の考察である。実は、この仮説には(初期の段階で)例外が1組見つかっていた(したがって、仮説はそのままでは成立していない)。しかし、我々の計算が進展してデータの数が増大しても、仮説への例外は最初の1組以外は見つかっていない。この状態、つまり、仮説が完全には成立しないが”ほとんど”成立している、という状態の解釈がなかなか難しく、現在、この課題に取り組んでいるところである。 我々の2つ目の課題は、求めた類数の数論的性質の探求である。「数論的性質」の典型としては、類数のパリティー、つまり、類数が 2 で割り切れるかどうか、という性質がある。我々はパリティーより少し進めて、類数が 2 の何乗で割り切れるか、という性質に注目し、扱っている素数ベキと、その素数ベキ分体の類数のマイナスパートを割り切る 2 のべきとの相関を調べている。この作業にはまだ明確な結果が出ておらず、今後の課題となっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の研究対象である類数は巨大な整数であり、類数を求める計算にも大きな整数を係数とする高次の多項式の計算が必要である。この計算を、限られたパワーの計算機で実行するにはたくさんの工夫が必要であったが、今年度までの研究で、計算アルゴリズムを確定し、それを計算機に実装して、データを集めることが出来た。この意味で、現時点において、本研究は順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
これから研究を進めるに当たっては、2つの課題がある。1つは、データを集める範囲を拡大できるかどうか、であり、もう1つは、データからどんな法則が導き出せるかの考察(データの処理)、である。「素数ベキ分体の類数」は無限個存在するので、もちろん、それらをすべて求めるのは不可能である。しかし、数学的法則を推測するにはデータが多いほうが確実であるのは事実なので、データ数の増加も研究の重要な手段である。ただ、計算機パワーの限界があるので、現在の方法ではデータの拡充は無理であり、何らかの新しいアルゴリズムの発見を目指している。 もちろん、「法則の探求」という2つ目の方向が本研究の主眼であり、「データの収集」はそのための手段である。しかし、類数は巨大な数なので、人間が類数を”睨む”ことで何らかの法則を発見するのはほぼ不可能である。したがって、法則の発見には、何らかの機械的処理を行う必要がある。この方向での今後の研究課題として、統計理論の活用を目論んでいる。つまり、類数のデータから得られるいくつかのパラメーターに対して統計的処理を施して、パラメーターの間に何か特別な関係がないかどうかを明らかにしていくのである。これは今後の研究課題であり、現在、統計理論の学習と、データ処理に適したソフトウエアの選定を行っているところである。
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Causes of Carryover |
我々の研究での類数の計算には高性能の計算機を活用している。その計算機の費用は本研究費から支出する予定であったが、実際には、必要な計算機(のうちの1台)が他の予算で購入可能となった。こうして浮いた費用は、プログラムを作成する上でのアルゴリズムに関する情報収集に活用したが、使い切ることはなかったので、次年度の研究費に回すことにさせて頂いた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
類数のデータベースの拡充のために、新たな計算機の購入を計画している。いくら高性能の計算機でも無限個のデータの計算は出来ない。とはいえ、データの数が増えることは、研究の進展には大きなプラスをもたらしてくれる。計算機の性能の向上は目覚ましいので、現在利用している3年前に購入した計算機を次年度に更新することで、更なるデータの拡充を計画している。
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