2015 Fiscal Year Research-status Report
行列・作用素不等式と量子情報理論・自由確率論への応用
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26400103
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
日合 文雄 東北大学, 情報科学研究科, 名誉教授 (30092571)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 関数解析学 / 作用素 / 行列解析 / 作用素環 / 量子情報 / 自由確率論 |
Outline of Annual Research Achievements |
行列・作用素の不等式の研究と量子情報への応用的研究を行い,所定の成果を得た. M.B. Ruskai(米)との共同研究により,密度行列に対する量子ダイバージェンスや単調リーマン計量に関して,量子情報路の下での縮小性を測る縮小度数について,各種の縮小度数の間の関係を考察し,キュービット情報路の場合で具体計算を行った.十分な成果が得られ,成功裡のうちに論文を出版した. J.C. Bourin(仏)との共同研究により,対称反ノルムとそのイエンゼン-ミンコフスキー型の凹性と優加法性の不等式について,行列に対する以前の議論を有限ファン・ノイマン環に付随する一般の可測作用素に拡張することに成功した.2変数の行列のトレース・ノルム関数の凹凸性についての以前からの継続研究を行い,結果を大幅に改良することができた.K.M.R. Audenaert(英)との共同研究により,量子情報で最近発展している新しいタイプの量子レニイ相対エントロピーの問題から派生したリー-トロッターの積公式を逆向きに補完する行列の極限公式について研究し,目標の結果を得た. 量子ダイバージェンスと量子情報路のリバーシビリティについて以前から共同研究していたM. Mosonyi(独)と,いくつかの異なるタイプの量子ダイバージェンスについて,量子情報路の下での単調性における等号条件からリバーシビリティが成立するかどうかという問題を系統的に研究した.期待した以上の成果が得られたので,現在論文を作成中である. 他に,行列のマジョリゼーション理論において重要な荒木の対数マジョリゼーションと安藤-日合の対数マジョリゼーションを拡張する研究を行った.また,以前に研究した作用素k-調関数と作用素の解析的関数カルキュラスとの関連について考察した論文を発表した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
量子情報路の縮小度数の研究(M.B. Ruskaiとの共同研究)は時間をかけて大変しっかりした論文に纏まり,数理物理の一流紙J. Math. Phys.に出版された.対称反ノルムの研究(J.C. Bourinとの共同研究)を有限フォン・ノイマン環に付随する可測作用素にまで拡張することは当初からの計画であったが,論文の内容は計画以上の出来であった. 行列論の専門誌Linear and Multilinear Algebraに発表したリー-トロッター積公式の逆向き極限公式の研究(K.M.R. Audenaertとの共同研究)は,行列解析の分野に新しい話題を提供するもので,今後の関連研究が期待できる.行列のトレース・ノルム関数の凹凸性の研究は2001年からの長年の研究テーマであるが,2013年に行列論の代表誌Linear Algebra Appl.発表した論文を大幅に改良した継続論文を同じ雑誌に発表した.ここで扱っているトレース関数は,量子情報の分野で最近発展が著しい新しいタイプの量子レニイ相対エントロピーを含んでいるので,量子情報への応用の面からも重要な意味がある. 当初の計画になかった研究として,行列の対数マジョリゼーションについての論文が既にLinear Algebra Appl.に掲載受理されている.さらに,量子情報の分野で,M. Mosonyiとの新しい共同研究が進み,量子ダイバージェンスと量子情報路のリバーシビリティに関するたくさんの結果が得られている.現在論文作成の最終段階である.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度が本科研費の最終年度であるので,これまでの研究項目を仕上げるとともに,今後の研究のために新しい問題の発掘にも努める. Bourinと共同研究した行列・作用素の対称反ノルムはこれまで体系的に研究されてこなかったので,対称反ノルムに対する複素補間理論などの一般論を構築することは意味がある.リー-トロッターの積公式の逆向き極限公式に関するAudenaertとの共同研究はいくつかの方向に発展する可能性が高いので,引き続き研究を継続する.対数マジョリぜーションの研究で,荒木の対数マジョリぜーションは満足できる形に拡張できたが,安藤-日合タイプの対数マジョリぜーションの拡張はまだ十分に満足できていないので,引き続き検討する.量子情報路のリバーシビリティに関するMosonyiとの共同研究は現在発展途上中であり,今後の研究の進展が期待できる.この研究テーマは外国の競争相手が多いので,研究を急ぐ必要がある. 本科研費と関連して,量子ダイバージェンスを核に量子情報のいくつかの話題を選んで,Mosonyi, 小川朋宏(電通大)と共同で,シュプリンガー社のSpringerBriefs in Mathematical Physicsのシリーズからサーベイを出版する予定で準備している. 研究の実施に当たっては,行列解析の分野,特に行列・作用素の種々の不等式について数学固有の問題として取り組むとともに,それらの量子情報の分野への応用を目指す.研究協力者とは引き続き連絡を取りながら研究を進める.また,国内外の関係する研究集会・ワークショップに参加し,成果発表と情報交換を行う.
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Causes of Carryover |
テジョン(韓国)のChungnam国立大学で開催されたコンファレンス「The 2015 Korea Operator Theory and Its Applications」への出席のため6/17-21に旅行する予定であったが,韓国で発生したMERSの影響で取り止めた.8/31-9/4にハノイのベトナム高等数学研究所で開催されたワークショップ「量子情報理論及び関連する話題」に出席したが,滞在費全額が開催機関から支給され,また格安航空券を使ったので,支出が予定の3分の1であった.以上により,旅費の支出が大幅に少なく済んだため.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度は7/10-7/17にルーベン(ベルギー)で開催される国際線形代数学会の総会「ILAS2016」と,7/27-8/5にベドレボ(ポーランド)で開催される17回ワークショップ「非可換確率」 に出席する.他に,国内の研究集会への出席も多い.そのため,前年度からの繰り越しがあるのは好都合である.
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Research Products
(8 results)