2016 Fiscal Year Research-status Report
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26400115
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
稲生 啓行 京都大学, 理学研究科, 講師 (00362434)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 反正則力学系 / 複素力学系 / 放物型分岐 / 没入型仮想現実 |
Outline of Annual Research Achievements |
反正則2次多項式族の双曲成分の境界の到達可能性について研究し、境界のパラメータにおける充填Julia集合を反発的Fatou座標で見た時の性質によって、到達可能性を特徴付けられることを示した。またJulia集合のある種の幾何極限として得られるJulia-Lavaurs集合を考え、Julia-Lavaurs集合のパラメータ空間においては到達不可能性はほぼ自明に成り立っていることに着目し、そのような幾何極限に十分近いところでは、双曲成分が到達不可能であると予想し、到達不可能性に関する部分的な結果を得た。一方で、到達可能な双曲成分の存在については、Chebyshev多項式に収束する双曲成分の列で、そのスケール極限が元の2次多項式族に収束するものを考えると、双曲成分のまわりについている個々の「装飾」たちは2次多項式族の外射線を適当な長さで切ったものに近くなっていることが数値実験によって観察できる。このことは、これらの無限個の双曲成分たちは全て到達可能であることを示唆しており、それを示すべく現在研究を進めている。 また2016年は「VR元年」とも呼ばれ、ヘッドマウントディプレイ型の没入型VR装置が複数リリースされた。その1つであるOculus Riftを用いて、複素力学系に現れる複素2次元(実4次元)の空間内のフラクタル集合を3次元にリアルタイムに投影して可視化するアプリケーションを作成し、あたかも目の前に対象があるかのように観察でき、手で掴んで動かしたり拡大・縮小もできるようにした。現在も機能拡張を続けており、「4次元の視差」を表現したり、滑らかなものでフラクタル集合を近似し、連続的に変化させることなど、構造をより深く理解する為に数学的な背景からインターフェイスに至るまで多角的に改良・実験を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
複素力学系において放物型分岐はもっとも重要な分岐現象であり、数多くの複雑な現象が放物型分岐によって説明され理解されている。本研究の主な対象の1つである反正則力学系は、2回合成が正則であることから複素力学系の特別な族と考えることができる。Mukherjee氏と進めてきたこの研究は、反正則2次多項式族の外射線や「へその緒」が自明な場合以外は収束しない、という重要な結果を生み出してきたが、それどころかTricorn(Mandelbrot集合の類似)の外から双曲成分に到達できない、という現象が数値的に観察されている。当該年度の研究ではそのような複雑な状況を理解する重要な一歩を踏みだすことができた。またGauthierとVignyによって分岐測度についての研究も始められており、Misiurewiczなパラメータの閉包が分岐測度の台に一致することがわかっている。TricornにおいてはMisiurewiczなもので近似できない放物型のパラメータが存在することはほぼ自明だが、反正則2次多項式族は自然に(正則)双2次多項式族に含まれており、そこでMisiurewiczによる近似ができるかどうかについては未解決である。これについても新しいアイディアを用いて現在研究を進めており、うまく行けば反正則力学系での議論を用いて正則力学系の族に関する新たな性質を示すことができるはずである。 また複素2次元のパラメータ空間の可視化についても、没入型仮想現実装置の発展により、いままでよりずっと実感のある表示や操作ができるようになった。九州大学の石井豊氏を中心とした可視化プロジェクトでも刺激的な議論が行われており、そこでの議論を踏まえて、ある種の「4次元の視差」を実装し、通常目に見えない4次元目の方向を、ある種の運動視差のように見られるようになった。これは単純だが全く新しい、非常に面白い視点であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
双曲成分の境界の到達可能/不可能な例の存在については、証明の概略まではできているので、細部を詰めて完全な証明を与える。到達可能な場合はかなり特殊であると考えているが、今の議論では到達不可能であることはかなり特別な場合にしか適用できないので、より広い場合に到達不可能であると言える手法を開発する。 また、放物型反正則2次多項式(の2回合成)でMisiurewiczな双2次多項式で近似できない例は放物-吸引的な場合は知られているが、それ以外にも存在することを、Ecalleの高さと放物周期点の正則指数を用いて示す。 複素2次元の可視化については、運動視差やアニメーションなどを用いたより良い4次元可視化の方法やインターフェイスを探る。また現状では基本的に大域的な粗いデータしか得られておらず、細部に宿っている複雑な構造を観察するには至っていない。そのためより高解像度のデータを得る方法や、局所的な分岐現象を可視化する方法についても研究する。また、3次元以上の対象は空間を埋め尽してしまって観察不可能な為に描けるものに大きな制限がかかっており、大域的な構造すら十分に観察できているとはいい難い。ある程度構造が理解・計算できるものについては、グラフ等に単純化したものを表示することによって、大域的な構造を表現したい。
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Causes of Carryover |
2017年度に複数の海外出張の予定があり、またノートPCも購入する予定のため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
6月にノルウェーのオスロで、7月にカナダのトロントでそれぞれ開かれる複素力学系の研究集会に出席する。また秋にもフランスで開かれる予定の研究集会に出席したいと考えている。 またMacBook Proを購入して可視化ソフトウェアの開発や数値計算、研究発表などに利用する予定である。
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Research Products
(5 results)