2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26400151
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
小森 洋平 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (70264794)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 複素解析幾何 |
Outline of Annual Research Achievements |
タイヒミュラー空間 T (S) は曲面 S 上の複素構造の変型空間である。複素構造の変型の方法として擬等角写像による変型がこれまで深く研究されてきた。例えばタイヒミュラー空間 T (S) 上のタイヒミュラー距離やT (S) 自身の複素構造は、擬等角写像を用いて定義される。擬等角写像を用いた複素構造の変型のうち、特によく研究されている方法が平坦構造による変型である。J を S の複素構造とし、q をリーマン面 (S,J) 上の2次微分とする。q の平方根を S 上で複素積分することにより、S 上の複素座標 ζ が得られる(自然座標)。この ζ に SL(2, R) の元を合成することでリーマン面 S の複素構造が変型できる。これが平坦構造 (J, q) によるリーマン面の変型である。これにより SL(2, R) から T (S) への写像が定まり、上半平面 H2 = SL(2, R)/SO(2) から T (S) への正 則写像 f : H2 → T(S) を誘導する。この像 f(H2) をタイヒミュラー円板と呼ぶ。このときタイヒミュラー・モジュラー群のうちこのタイヒミュラー円板を保つタイヒミュラー・モジュラー部分群 Stab(f(H2)) から PSL(2,R) へ自然な準同型 DAf : Stab(f(H2)) → PSL(2,R) が定まり、特に擬アノソフ写像の拡大率は、対応する双曲型のメビウス変換の拡大率に一致する。逆に任意の擬アノソフ写像に対し、それが保つタイヒミュラー円板 がただ1つ存在することもベアスにより示されている。このようにタイヒミュ ラー・モジュラー変換のうち擬アノソフ写像の研究には、タイヒミュラー円板つまり平坦構造が不可欠な道具になっている。今年度はタイヒミュラー円板を保つタイヒミュラー・モジュラー部分群と幾何学的コクセター群との類似の観点から、双曲コクセター群の増大度の数論的性質、特に3次元理想双曲コクセター群の増大度について考察した。次年度以降これらの問題についてさらに考察を続けて行きたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
申請時の研究目標の3本柱として、「幾何学的コクセター群との類似」、「擬アノソフ写像の拡大率の数論的性質」、「Eh10 に関するタイヒミュラー円板、および擬アノソフ写像の性質」の3つを掲げていた。 今年度はタイヒミュラー円板を保つタイヒミュラー・モジュラー部分群と幾何学的コクセター群との類似の観点から、双曲コクセター群の増大度の数論的性質、特に3次元理想双曲コクセター群の増大度がペロン数になることを証明した。この結果は大学院生の雪田友成君により、一般の3次元理想双曲コクセター群まで拡張された。今後はこれら幾何学的コクセター群の結果の類似をタイヒミュラーモジュラー群で考察することが問題となる。 「Eh10 に関するタイヒミュラー円板、および擬アノソフ写像の性質」については、Brouwer and Neumaier による最大固有値が 2.05817 以下のグラフの分類と同様の考察をコクセター系で行った。次年度以降では、平坦曲面の周期点の個数評価の研究を活発に行っている四ノ宮佳彦准教授(静岡大)と議論を重ねることで、Eh10 に関するタイヒミュラー円板から定まるヴィーチ群の研究や擬アノソフ写像の歪曲度の評価の研究を行いたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究で進展のあった「幾何学的コクセター群との類似」については、双曲コクセター群の増大度の数論的性質、具体的には3次元理想双曲コクセター群の増大度がペロン数になることを証明したので、同様の問題を高次元の理想双曲コクセター群で考察する、「Eh10 に関するタイヒミュラー円板、および擬アノソフ写像の性質」については、今年度から開始したBrouwer and Neumaier による最大固有値が 2.05817 以下のグラフの分類と同様の考察を、コクセター系で証明することを目標とする。平坦曲面の周期点の個数評価の研究を活発に行っている四ノ宮佳彦准教授(静岡大)と議論を重ねることで、Eh10 に関するタイヒミュラー円板から定まるヴィーチ群の研究や擬アノソフ写像の歪曲度の評価の研究を行いたい。
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