2014 Fiscal Year Research-status Report
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26400175
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
楳田 登美男 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 教授 (20160319)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山岸 弘幸 東京都立産業技術高等専門学校, その他部局等, 准教授 (10448053)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 関数方程式 / スペクトル理論 / 国際研究者交流 / 国際情報交換 |
Outline of Annual Research Achievements |
電磁場のポテンシャル (q, A) を持つディラック作用素の質量パラメータがゼロであって、しかも A=0 の場合には、ディラック作用素はスペクトル・ギャップを持たないことを示した。すなわち、上記の場合には、ディラック作用素のスペクトルは常に実軸全体に一致することを示した。さらに、スペクトルの中に埋め込まれた固有値が現れるとすれば、それらはスカラー・ポテンシャル q が空間の無限遠方での値(正確には極限値)によって特徴づけられることを示した。 スカラー・ポテンシャル q が空間の原点からの距離 r=|x| のみに依存する場合、q(r) が r の関数として無限遠方で極端に過激な振る舞いをしないならば、埋め込まれた固有値と q の無限遠方での挙動はすでに解明したが、これを一般のスカラー・ポテンシャル q(x) に拡張することに一定程度成功した。すなわち、埋め込まれた固有値が q(x) の無限遠方での振る舞いから定まる区間の中にのみ、埋め込まれた固有値が現れることを示すのに成功した。この成果はヴィリアル定理をディラック作用素の対して確立することによって可能となった。 上記の成果を得るにあたっては、山岸弘幸准教授(東京都立産業技術高専)にソボレフ不等式に関わる事項について分担して頂いた。また、昨年8月末にはロシア(サンクトペテルブルグ)における国際会議に参加し、成果発表ならびに、研究打合せを各国の研究者を交えて行った。今年3月にはイェンセン教授(デンマーク・オールボー大学)、亀高名誉教授(大阪大学)を姫路研究集会に招聘して、研究打合せを行った。研究遂行上必要になる専門書(洋書、和書)を購入した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
相対論的作用素(ディラック作用素、相対論的シュレディンガー作用素を合わせて、本研究ではこのように呼称する)の固有値の性質、より一般にスペクトルの性質を解明するのが、期間全体を通じての本研究の目的であるが、平成26年度はスカラー・ポテンシャルを持つディラック作用素が、質量パラメータがゼロの場合に、スペクトル・ギャップが現れないことを示すのが大きな目標であった。この点に関しては、ほぼ所期の目標を果たした。実際、スカラー・ポテンシャルに対する条件はおおむね必要最小限でよく、この条件下でディラック作用素のスペクトルが実軸全体に一致することを示した。この結果には、若干の改善余地が残るものの、満足できる成果であると考えている。 埋め込まれた固有値が実際に現れるようなスカラー・ポテンシャルの例も構成できた。この例では、空間の無限遠方でのスカラー・ポテンシャルの極限値と、埋め込まれた固有値とが一致している。このことは、本年度に得られた成果「埋め込まれた固有値が現れるとすれば、スカラー・ポテンシャルの空間の無限遠方での極限値によって特徴づけられる」を補強するものである。実際、埋め込まれた固有値が現れるようなディラック作用素が存在しないならば、本成果に意味がなくなるから。 スカラー・ポテンシャルを持つディラック作用素に応用する目的で Schnol' の定理を証明した。しかし、ポテンシャルに対する条件が十分に一般なものではないので、この点にも改善の余地があると考えている。 多くの研究者と交流し、有意義な研究打合せが出来たことが、本成果を得る上で非常に役立った。このことに関しては合格点がつけられると考えている。また、ロシア(サンクトペテルブルグ)における国際会議で成果発表が出来たことも評価してよいと考える。 以上の理由で、平成26年度に関しては「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
【現在までの達成度】の項で述べたように、これまでに証明できた Schnol' の定理の条件には改善余地があり、今後はまず Schnol' の定理を、より一般な条件の下で証明したいと考えている。これに成功すれば、次には、スカラー・ポテンシャルとベクトル・ポテンシャルの両方を持つディラック作用素について調べたいと考えている。特に、質量パラメータがゼロでない場合に研究を進展させたいと考えている。この場合には、スペクトル・ギャップが現れるが、スペクトルの端点(いわゆる閾値)を詳しく調査すべきと思われる。というのは、閾値がベクトル・ポテンシャルを持つディラック作用素の固有値になる場合は、物質の安定性の数学的理論において非常に重要な役割を果たすことが20年以上前から知られているものの、閾値エネルギーそのものの研究にはまだ未解明な点があるように思われるからである。 上に述べたことを実行する上では、スカラー・ポテンシャル、ベクトル・ポテンシャルのどちらも持たないディラック作用素を考え、そのレゾルベントの積分核を計算することが欠かせない。さまざまな公式をすでに得られている知見を組み合わせて、この積分核を計算する予定である。 今後の本研究を効果的に進める上で、国内外の多くの研究者と交流して、アイディアを交換することは非常に重要である。平成27年度はチリでの国際数理物理学会(7月27日~8月1日)に参加を検討している。9月には本研究に密接に関連する分野の研究者が集っての研究会が福井県で開催予定であり、これには参加したいと考えている。平成28年3月には「偏微分方程式姫路研究集会」を開催して、国内外の研究者を招聘する予定である。
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Causes of Carryover |
3月に主催者の一人として開催した「偏微分方程式姫路研究集会」に招聘したイェンセン教授(デンマーク)の招聘費用が予想より少なかった(同教授の購入された航空券が廉価であった)ことと、同研究集会に招聘を予定していた国内研究者が参加できなくなったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
来年3月に開催予定の「偏微分方程式姫路研究集会」に招聘する国内研究者2、3名に使用するつもりである。外国からの講演者招聘費用の一部に割り当てる可能性も考えている。
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Research Products
(2 results)