2015 Fiscal Year Research-status Report
結晶粒界運動に関連する自由境界問題の数学解析と発展
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26400179
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
山崎 教昭 神奈川大学, 工学部, 教授 (90333658)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 関数方程式 / 実函数論 / 力学系 / 最適制御 / 自由境界 |
Outline of Annual Research Achievements |
結晶粒界運動を数学的に捉える方法が幾つかあるが、本年度は特異極限法による解析を試みた。実際、純粋な液体・固体の変化を考察するため、閉区間[-1,1]上の指示関数の劣微分項を含む Allen-Cahn方程式の特異極限問題を考察した。その問題は、既に、X. Chen と C. M. Elliott (Proc. Roy. Soc. London Ser. A, 444(1994))により理論解析されているが、指示関数の劣微分項の元に関する特異極限の解析は行われていなかった。そこで、指示関数の劣微分項を他の項と分離して解析し、特に、H^1 の dual space の位相で解析することにより、指示関数の劣微分項の元の特異極限を明らかにすることができた。また、その特異極限と解の特異極限関数との関連も明らかにすることができた。これらの点が本年度の研究成果である。 また、特異極限問題の理論解析結果を利用することによって、指示関数の劣微分項を吉田近似しない数値解析方法を構築することができた。つまり、指示関数の劣微分項を近似することなく Allen-Cahn 方程式の数値実験を行うアルゴリズムの構築に成功した。この点も、本年度の重要な研究成果である。 更に、構築したアルゴリズムを用いて、指示関数の劣微分項を含む Allen-Cahn 方程式の数値実験を行った。得られた数値実験結果により、物質の状態を表す関数の値が [-1,1] の間をとることが確認でき、構築したアルゴリズムの有効性を示すことができた。この点も本年度の重要な研究成果である。今年度構築したアルゴリズムは、結晶粒界と純粋な液体・固体を表現する数理モデルの数値実験にも適用可能であると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
指示関数の劣微分項を他の項と分離して解析し、特に、H^1 の dual space の位相で解析することにより、指示関数の劣微分項の元の特異極限を明らかにすることができた。特に、その特異極限と解の特異極限関数との関連も明らかにすることができた点は、当初の計画では予想していなかった研究成果である。 また、特異極限問題の理論解析結果を利用することにより、指示関数の劣微分項を吉田近似しない数値解析方法を構築することができた。指示関数の劣微分項を近似することなく Allen-Cahn 方程式の数値実験を行うアルゴリズムを構築できた点は,今後,コンピュータを用いて結晶粒界数理モデルの解や最適制御問題の解を数値実験的に求めるうえで非常に意義のある研究成果である。 以上のことから,総合的に考えると、交付申請書に記載した「研究の目的」の達成度については、『おおむね順調に進展している。』と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
Kobayashi 達により提唱された空間2次元の数理モデルは、完全に結晶化された後の運動方程式であり、体積が保存されている現象である。体積保存された物質の界面を記述する近似方程式としては、Cahn-Hilliard 方程式が代表的である。近年、力学境界条件を課した Allen-Cahn方程式が盛んに研究されているが、それを用いても体積保存された物質の界面を考察することができるのではないかと考えている。そこで、本研究で構築した解析手法を用いて、今後は力学境界条件を課した Allen-Cahn方程式の特異極限問題を考察し、界面運動の挙動の解析を行う。 また、本研究で指示関数の劣微分項を吉田近似しない数値解析アルゴリズムを構築した。一方、指示関数の劣微分項を吉田近似してもAllen-Cahn方程式の数値実験を行うことができるが、吉田近似パラメータの取り方によっては、数値計算結果が時間とともに振動して安定にならなかった。そこで、指示関数の劣微分項を吉田近似した数値解析アルゴリズムにおいて安定した数値実験結果を得るための条件を理論的に明らかにする。
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Causes of Carryover |
ドイツ・ベルリン、WIAS研究所の M. Hassan Farshbaf-Shaker 氏と研究打ち合わせするための日本招聘旅費(1ヶ月)を計上していたが、Farshbaf-Shaker 氏が日本滞在中、東京大学や愛媛大学にも招聘された。その費用は滞在先で支給されたため、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
ドイツ・ベルリン、WIAS研究所の M. Hassan Farshbaf-Shaker 氏と研究打ち合わせをするための海外旅費(2017年2月、1ヶ月を予定)として使用する。
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