2016 Fiscal Year Research-status Report
星周ダストをプローブとした大質量星の質量放出史と重力崩壊型超新星の多様性の解明
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26400223
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Research Institution | National Astronomical Observatory of Japan |
Principal Investigator |
野沢 貴也 国立天文台, 理論研究部, 特任助教 (90435975)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ダスト(星間塵) / 超新星爆発 / 減光曲線 / プレソーラー粒子 |
Outline of Annual Research Achievements |
Ia 型超新星で測定される減光曲線は、我々の銀河系内のものよりもずっと急であることが知られている。本研究では、この急な減光曲線を引き起こす星間ダストの性質を調べるため、様々なダストサイズ分布を考えて減光曲線の再現計算をした。その結果、ダストのサイズ分布が-3.5乗の冪分布に従い、ダスト半径の上限値を銀河系ダストの値0.25 ミクロンから数倍ほど小さくするだけで、観測された急な減光曲線を再現できることを示した。このような急な減光曲線を担うダストのサイズ分布を定量的に明らかにしたのは本研究が初めてであり、この結果からIa型超新星母銀河の星間ダストは銀河系のものよりも小さいことがわかった。
北海道大学低温科学研究所、宇宙航空研究開発機構との共同で、観測ロケットS-520-28号機を用いた微小重力環境下での金属鉄微粒子の凝縮実験を行い、鉄原子が凝縮する際の固体上での原子の付着確率を調べた。その結果、地上実験では100%と見積もられていた付着確率は、熱対流が抑制された微小重力下では0.002%程度と非常に小さいことがわかった。これは、金属鉄粒子の生成は宇宙環境において非常に限定的なことを意味し、鉄は化合物または不純物という形態で宇宙に存在していることを示唆する。
隕石母天体である微惑星中での同位体拡散により、プレソーラーシリケイト粒子の同位体組成がどの程度影響されるかを調べた。その結果、同位体拡散は微惑星の熱進化に大きく依存し、750℃以上を経験した微惑星では酸素原子の拡散距離が1ミクロンを超えプレソーラー粒子の同位体情報はほとんど失われること、最高到達温度が600℃以下の微惑星中では拡散距離は0.03ミクロン以下で測定されている粒子サイズの下限値0.07 ミクロンを下回ることがわかった。本研究は、同位体拡散がプレソーラー粒子の存在量やサイズ分布を決定する重要な過程であることを提唱する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成28年度の当初の目標の一つである「大質量星星風中でのダスト形成過程と星周ダストによる減光量の評価」の研究は遂行することができなかった。この主な理由は、二年前より着手した新たな研究で重要な成果が得られ、それらの研究を発展させ早急に遂行することが必須と判断したためである。
前年度までの本研究において、Ia型超新星で測定される急な減光曲線は、星周ダストによる多重散乱の結果ではなく、その視線方向上にある超新星母銀河中の星間ダストの性質に起因すべきであることを示した。そこで平成28年度では、Ia型超新星の急な減光則と星間ダストの性質の関係性を調べ上げ、Ia型超新星の母銀河ダストの定型的なサイズは銀河系のものと比べて小さいこと明らかにした。その一方で、太陽系外固体物質であるプレソーラー粒子の形成過程とその星間空間での破壊過程をここ数年に渡って調べており、これらの素過程が隕石中で発見される際のプレソーラー粒子の組成やサイズ分布に大きく影響することを明らかにした。それゆえ、その形成から発見までに至るプレソーラー粒子の進化の全ストーリーを明らかにするため、平成28年度においては、原始惑星系円盤における微惑星中でのプレソーラーシリケイト粒子の酸素同位体拡散過程を調査し、微惑星の最高到達温度の関数としてその同位体組成の情報が完全に消失される粒子サイズを予測した。
以上をまとめると、平成28年度の当該の研究目標は達成できなかったが、これまで本研究で進めてきた内容さらに発展させ、Ia型超新星の母銀河の星間ダストの性質や隕石中で発見されるプレソーラー粒子のサイズ分布や存在量に制限を与えることができた。これらの研究は、星間ダストの起源と進化および超新星起源のプレソーラー粒子の性質についての理解を深めるものであり、本研究課題に大きく関連している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度においては、前年度にほとんど着手できなかった「大質量星星風中でのダスト形成過程と星周ダストによる減光量の評価」の研究を遂行する。特に、近年勢力的に行われている超新星爆発の初期観測によれば、星直近の星周密度は非常に高いことが示唆されており、星は爆発する直前に大量の物質を放出すると考えられるようになってきている。しかし、もし実際に爆発直前に質量放出率が高くなれば、その星風中でダストが形成され、星周密度構造に影響を与えるとともに星そのものを星周ダストで覆ってしまう可能性がある。そこで本研究では、様々な質量放出率・中心星の光度に対してダスト形成計算を実行し、どのような条件でダストが形成されるのか、ダストの形成により星周構造はどのように変えられるのか、形成されたダストによって中心星はどれほど暗くなり得るのか、を明らかにする。
一方、プレソーラー粒子に関するこれまでの研究に引き続き、超新星起源のプレソーラー粒子の形成過程の解明を目指す。隕石中には、その同位体組成から超新星起源と考えられている1-10 ミクロンのサイズをもつプレソーラーSiC粒子が多数発見されている。しかし、典型的な超新星爆発のモデルに対するダスト形成の理論計算では、このような大きいSiC粒子の形成は実現されておらず、それゆえその形成条件はほとんど理解されていない。そこで本研究では、爆発のエネルギーが小さく、その結果爆発時に放出されるガスの密度が比較的高い「暗い超新星」でのダスト形成計算を行い、実際にプレソーラー粒子として観測されているほど大きいSiC粒子が形成され得るかどうかを調べる。暗い超新星におけるダスト形成の研究はこれまでほとんどなされていないため、本研究は暗い超新星が星間ダストの供給源としてどのような役割を果たすかを明らかにする上でも重要な結果を与える。
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Causes of Carryover |
2017年3月27日から3月31日までの間、ローマで開催される国際会議「The AGB-Supernovae Mass Transition」に参加し、この会議で得られた知見を受けて研究成果を取りまとめる必要があるため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記のローマで開催される国際会議「The AGB-Supernovae Mass Transition」に、2017年3月27日より3月31日まで全日程参加し、その復路旅費に使用する。
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Research Products
(15 results)