2014 Fiscal Year Research-status Report
階層的構造形成論に基づく銀河の化学進化より探るrプロセスの起源
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26400232
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Research Institution | International Christian University |
Principal Investigator |
石丸 友里 国際基督教大学, 教養学部, 准教授 (90397068)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
青木 和光 国立天文台, 大学共同利用機関等の部局等, 准教授 (20321581)
和南城 伸也 独立行政法人理化学研究所, その他部局等, 研究員 (30327879)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 宇宙物理 / 理論天文学 / 光学赤外線天文学 / 重元素 / 銀河形成 / 中性子星合体 / 金属欠乏星 |
Outline of Annual Research Achievements |
鉄より重い元素は,主にrプロセス(速い中性子捕獲過程)で作られるが,rプロセスがどのような天体で起こるかは,まだ特定されていない.最新の元素合成論では,連星中性子星の合体が最有力と言われているが,中性子星合体には1億年以上要するため,rプロセス元素が過剰な金属欠乏星の存在を説明できないという困難が指摘されていた. しかし本研究では,階層的構造形成論に従って,銀河系ハローがサブハローの衝突・合体から形成されたならば,この矛盾は解決できると考えた.そこでこの考えに基づき,研究代表者(石丸)による(A)階層的構造形成論に従う銀河の化学進化モデル計算,研究分担者(和南城)による(B)rプロセスの元素合成モデル計算,さらに研究分担者(青木)による(C)VLT望遠鏡とすばる望遠鏡を用いた銀河系及び矮小銀河の金属欠乏星のrプロセス元素組成の測定を行い,これらの研究を有機的に連携させ,rプロセスの起源天体の解明を目指している. 平成26年度は,基盤となる(A)化学進化モデルの構築に着手した.初年度は,サブハローに一様な星間ガスを仮定し,単純化したモデルを用いて,階層的構造形成論に基づく銀河系ハローの化学進化モデルを構築した.異なる質量のサブハローの化学進化を,質量関数にしたがって積算し,銀河系ハローの化学組成分布を予測した.その結果,小質量のサブハローほど星形成効率が低ければ,中性子星合体に1億年程度を要しても,金属欠乏星のrプロセス元素の組成比を説明できることが示された.このモデルには,(B)中性子星の合体における流体力学と元素合成理論による組成量を組み込んだ.特に研究代表者は,平成26年9月より1年間の特別研究期間として,パリ天体物理学研究所において,研究協力者 N. Prantzos博士と上記の研究を進めた.また,(C) 研究代表者がPIとなり,研究分担者・協力者と共にすばる望遠鏡による金属欠乏星の観測計画も2回採択され,観測を実施した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,研究代表者(石丸)を中心に開発している (A) 階層的構造形成論に基づく銀河の化学進化モデルを主軸とし,研究分担者(和南城)を中心に推進している (B) rプロセスの元素合成モデル計算と,研究分担者(青木)を中心とした (C) すばる望遠鏡・VLT望遠鏡による金属欠乏星および矮小銀河の星の化学組成の測定を連携させることによって進めている. 平成26年度は,本研究の根幹となる (A) 銀河進化モデルの開発に着手した.当初の計画通り,第1段階として,単純化したサブハローの化学進化モデルを用いて,階層的に形成される銀河系ハローにおける化学組成分布の時間変化を予測するモデルを構築することができた.そして,小質量のサブハローほど星形成効率が低ければ,中性子星合体がrプロセスの起源天体であったとしても,矛盾なく銀河系ハローの金属欠乏星の観測値を説明できることが示された.この結果は,The Astrophysica Journal Letters に掲載された.また,3つの国際学会(うち2回は招待講演), および国内学会(招待講演)にて発表を行った. 研究分担者・研究協力者との連携も計画通りに行われた.(B) では,中性子星合体によるrプロセス元素の元素合成モデルで,太陽系の化学組成を説明できることが示され,その結果は上記の化学進化モデルに反映された.(C) に関連して,すばる望遠鏡を用いた観測計画が採択され(PI: 石丸,Co-I: 和南城,青木,P. Francois),2014年4月,および2015年3月に2回の観測が実施された.これらの観測結果は現在解析中である. また,2014年9月より研究代表者は特別研究期間としてパリ天文台に第2の研究拠点を置き,銀河の化学進化モデルの開発について,研究協力者(N. Prantzos)との共同研究を軌道に乗せることができた.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究ではこれまでに,単純化したサブハローの化学進化モデルを用いて,これらの衝突・合体から銀河系ハローが形成されたのならば,金属欠乏星のrプロセス元素組成比を中性子星合体で説明できる可能性を示した.この仮説の正当性を評価するためには,統一的なモデルを用いて,(1) rプロセス元素が極めて過剰な金属欠乏星の存在,(2) 金属欠乏星の鉄族元素(Zn, Cr等)や軽いrプロセス元素(Sr,Y,Zr等)と,重いrプロセス元素(Ba, Eu等)との化学組成比の傾向の違いを説明し,さらに (3) 矮小銀河の規模による化学組成比の違いが示せるかを検討する必要がある. そこでまず, (A) 銀河の化学進化モデルを拡張する.中性子星合体は頻度が極めて低いため,特に小規模のサブハローでは,発生回数のわずかな差が化学組成に強く反映されるであろう.この効果を考慮するため,モンテカルロシミュレーションによって,多数のサブハローでランダムに中性子星合体を発生させる.これらを宇宙論的マージャーツリーに従って積算し,銀河の成長に伴う化学組成比分布の変化を予測し,(1)(2について検討する. また,重いrプロセス元素とは異なり,軽いrプロセス元素と鉄族元素は,電子捕獲超新星爆発で合成される可能性が指摘されている.(B)では,電子捕獲超新星爆発,及び中性子星合体における元素合成の数値計算を行い,その結果を(A)のモデルに組み込む.これより(2)の事項について検討できる.さらに,高分散分光器による矮小銀河の観測によって,(3)の事項について検討する.本研究では,すでにすばる望遠鏡を用いた観測提案の準備を進めているので,今年度中にも実行できる可能性がある. 特に,今年度前半まで,研究代表者は引き続きパリ天体物理学研究所に拠点を置くため,これらの研究は,研究分担者のみならず,研究協力者N. Prantzos博士,P. Francois博士とも緊密に連携することが期待される.
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Causes of Carryover |
平成26年度は,研究代表者がパリ天体物理学研究所に長期滞在することとなったため,当初予定していた計算機の購入は次年度に繰り越すこととした.フランスの長期滞在は平成26年度4月の段階では,まだ先方からは内諾を受けていたにすぎず,受け入れ先の研究所から正式な許可がおりたのが平成26年6月であったため,研究費の使用計画をその段階で変更せざるをえなかった. また研究分担者(和南城)は,国際学会において本研究と関連した発表を行うための旅費として分担金を使用する計画であったが,平成26年度はそれに適した学会が開催されなかったため,次年度以降に繰り越すこととした.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究代表者は引き続き平成27年8月末までフランスに滞在するが,9月に帰国する.繰越金を今年度の研究費と合算した上で,帰国後に計算機を購入する計画である. 研究分担者(和南城)は,平成27年度にむしろ本研究との関連性の強い国際学会が開催予定のため,こちらの旅費として使用する計画である.
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