2014 Fiscal Year Research-status Report
高エネルギー原子核衝突において生成される高温QCD物質中の相関・揺らぎ・輸送
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26400272
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
浅川 正之 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (50283453)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | クォーク・グルーオン・プラズマ / 高エネルギー原子核衝突 / 量子色力学 / 保存電荷揺らぎ / 拡散マスター方程式 / ブラストウエーブ |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は主に高エネルギー原子核衝突において生成されるハドロン相における保存電荷揺らぎの輸送と、熱的凍結時における時空間における保存電荷揺らぎと実際に実験室で観測されるある有限の運動量空間における保存電荷揺らぎの関係について研究を行った。 通常は、高エネルギー原子核衝突において観測される揺らぎは化学凍結における揺らぎあるいは熱的凍結における揺らぎであると暗黙裡に考えられているが、実際は化学凍結後のハドロン相において拡散によって保存量揺らぎは変化している。しかも、保存量であるため、拡散によってしか揺らぎは変化できないので、ハドロン相において揺らぎは熱的平衡には達することはできない。その結果、熱的凍結においてハドロンが相互作用を終了した後に系に存在している揺らぎは、化学凍結時における揺らぎとも熱的凍結時における揺らぎとも異なったものとなる。今年度はこのことを拡散マスター方程式を用いて、通常議論される2次の揺らぎだけでなく、4次の揺らぎに対しても具体的に示した。さらに有限体積効果も取り入れて考察を行い、LHCのALICE実験が発見した電磁電荷の2次揺らぎのラピディティー依存性は通常考えられる有限体積効果によるものではなく、上述の熱的非平衡性によるものであることも示した。 また、高エネルギー原子核衝突における保存電荷揺らぎに対しては、通常Bjorkenスケーリング的な描像、すなわち時空ラピディティと観測される粒子のラピディティが一対一対応していることが想定されているが、たとえ縦方向の流れがBjorken的であっても粒子が熱的内部運動をしている場合にはこの対応は破れる。本年度は、この熱運動によるにじみの効果を定量的に評価し、拡散による効果と同程度の効果を与え、実験結果の解釈において無視してはならないということを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要の項に記載した通り、高エネルギー原子核衝突における保存電荷揺らぎの時間発展と、熱的効果によるにじみ効果については当初の予定通り研究が進展しており、前者についてはすでに査読付き論文が出版されている。後者についても、論文執筆中である。また、高エネルギー原子核衝突で生成されたハドロン相における非マルコフ性を取り入れた拡散方程式の導出にも成功しており、ほぼ当初に予定した通りの研究進展状況にあるので(2)に該当する。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度以降は、以下のような内容を主に研究する。 まず、高エネルギー原子核衝突で生成されたハドロン相における保存電荷揺らぎの輸送について、非マルコフ性を取り入れた拡散方程式を用いた解析を行い、非マルコフ性の影響を研究する。さらに、QCDの相図上に臨界終点がある場合に、保存電荷揺らぎの輸送がどのような影響を受けるか、(高次)保存電荷揺らぎを観測することによって臨界終点を観測することはできるか、もしできるとしてら何をもって観測したと言えるのかについては研究を行う。 また、クォークグルーオンプラズマ中の相関の研究を、特にチャーム・反チャームクォーク対に注目して、赤外カットオフがより小さい、大きな空間体積をもった格子上で格子ゲージ理論による第一原理計算により研究する。
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Causes of Carryover |
当該年度に外国旅費が予定以上に必要となり、余裕を見て30万円前倒し請求を行った。この金額はその前倒し請求の剰余分である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
この金額は上述の通り、前倒し請求した予算の剰余分であるので、今年度の研究費の一部として使用する。前倒し請求を行った時に提出した申請書に記載の通り、今年度は国外旅費が当初の見込みより少なくなる予定であるので、前倒しを行ったことによって今年度の研究に支障をきたすことはないと考えられる。
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Research Products
(7 results)