2014 Fiscal Year Research-status Report
多重極限環境下で発現するクォーク・グルオン多粒子系の相構造並びに諸物性の研究
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26400277
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Research Institution | Kochi University |
Principal Investigator |
津江 保彦 高知大学, 自然科学系, 教授 (10253337)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | QCD物性 / ハドロン物理 / QCD相構造 / 高密度クォーク物質 |
Outline of Annual Research Achievements |
強い相互作用により支配されるクォーク・グルオン、及びハドロン多体系が、高温、高密度、強磁場など、多重にわたる極限環境下におかれた際に実現される真空構造、その上での粒子励起モードや相構造・相転移、及びこれらの多粒子系が各相で示す物性を解明することを本研究課題の主目的としている。平成26年度の実績の概要は以下の通りである。1.低温・高密度ではアップ・ダウン・ストレンジクォークが関与する3フレーバーの場合に、カラー・フレーバー・ロックされたカラー超伝導状態が実現されることが理論的に予想されているが、強い相互作用で重要となるカイラル対称性に着目した南部・Jona-Lasinioモデルを用いて、カイラル対称性で許されるクォーク間4点相互作用を考えると、3フレーバーの場合にも高密度ではテンソル型のクォーク凝縮が起き、スピン偏極相が現れることを示した。その際、クォーク数密度を上げていくと、カラー超伝導相からクォークスピン偏極相に相転移することを示した。また、摂動論の範囲内であるが相転移は1次相転移であることを示した。フェルミ面がフェルミ球からトーラス状に移行することで、高密度では南部・Jona-Lasinioモデルの範囲内では必ずスピン偏極相が実現することを指摘した。この結果は学術論文として公表した。2.非一様カイラル凝縮相の研究を行い、カイラル対称性、並進・回転対称性が破れる際の基底状態を求め、その上の励起モードを考察した。励起モードの分散関係、揺らぎの相関を調べ、非一様カイラル凝縮相の上の励起モードの安定性を調べた。この結果は物理学会において報告された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アップ・ダウン・ストレンジクォークが関与する3フレーバーの場合には、低温・高密度領域でクォーク物質はカラー・フレーバーがロックしたカラー超伝導相、いわゆるカラー・フレーバー・ロック(CFL)相が実現することが理論的に期待されているが、基礎理論であるQCDが持つカイラル対称性に着目した南部・Jona-Lasinio模型において、テンソル型4点相互作用が存在すれば、CFL相に引き続き、さらに高密度ではクォーク・スピンが偏極した相が実現することを初めて示した。また、相転移の次数が1次であることも併せて示した。当初の研究計画通り、順調に高密度クォーク物質の相構造を明らかにしつつある。 さらに、非一様カイラル凝縮の研究では、カイラル対称性、並進・回転対称性が破れる際の基底状態を求め、その上の励起モードを考察し、励起モードの分散関係を明らかにするとともに、揺らぎの相関、非一様カイラル凝縮相の上の励起モードの安定性を明らかにすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度において用いた南部・Jona-Lasinio模型にはクォーク質量項のないカイラル極限を用いていた。3フレーバーの場合にはストレンジクォークはu、dクォークに比べて質量が重いので、今後はクォーク質量項を入れてスピン偏極は起こりやすくなるのか否かの検討を行う。また、スピン偏極は自発磁化に導くと考えられるので、高密度クォーク物質が自発磁化を持ち強磁性を示すかを検討する。もし強磁性相が実現するのであれば、コンパクト星、特にマグネターと呼ばれる強い磁場を持つ中性子星の理解につながると期待される。すなわち、コンパクト星の内部にクォーク物質相が存在し、スピン偏極が実現すれば磁場を生み出せる可能性がある。今後はクォーク物質の磁性について検討を行っていく。他方、クォーク間に擬ベクトル型の相互作用が働く場合についても同様に、スピン偏極・自発磁化の可能性を追求し、南部・Jona-Lasinio模型の範囲内でクォーク物質の強磁性相の存在可能性を尽くす。
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Causes of Carryover |
計画当初は10月にハワイで行われる日米合同物理学会に参加・出席し発表を行う予定で予算案を組んでいたが、ほぼ同時期に中国・北京で行われるQuark and Compact Stars という日中合同開催の研究集会に招待講演者として講演依頼されたため、一般講演のハワイ学会参加を断念し、招待講演である中国での研究集会に赴いた。招待講演者ということで宿泊費等中国側負担となったために、ハワイ学会に参加する場合に比べて費用がかなり少なくて済み、結果的に余剰分が生じ、次年度に有効に使用することとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度同様、研究発表および海外の研究協力者との議論を行うための海外渡航費用として使用する計画である。海外渡航は航空運賃が安くなる2月を予定していたが、研究が順調に進み、予定より早い進展が見られるので、本務の大学の会議日程等を調整して、夏から秋にかけて研究協力者と議論を行うために渡航する計画を持っている。そのための航空運賃、宿泊等の差額に充てることを計画している。
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Research Products
(5 results)