2015 Fiscal Year Research-status Report
有機半導体マイクロリング結晶における高Q値リング共振器の研究
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26400314
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
阪東 一毅 静岡大学, 理学部, 准教授 (50344867)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | (チオフェン/フェニレン)コオリゴマー / リング共振器 / ウィスパリングギャラリーモード |
Outline of Annual Research Achievements |
(チオフェン/フェニレン)コオリゴマー(TPCO)結晶は光励起レーザー発振や発光トランジスタなどの有機光デバイスへの応用が期待されている有望な有機半導体である。これまでTPCOをKCl基板上に気相成長するとニードル状構造の結晶が自己組織形成しファブリーペロー共振器として機能することを明らかにした。最近になりKCl基板上にマイクロリング状結晶が同時に形成していることを見出した。この結晶はリング共振器として機能し、極めて高いQ値とフィネスを示すウィスパリングギャラリーモード(WGM)を形成することを発光スペクトルから確認した。本研究では特にTPCOの一種であるBP1Tを用いて研究を行った。BP1Tを気相成長することにより直径数ミクロン程度のマイクロリング結晶がKCl結晶上に作製できる。これらはKCl結晶表面上に存在する円盤状の原子ステップ構造の周囲に分子が整列してエピタキシャルに付着し形成されたものと考えられる。この単一のマイクロリング構造について顕微発光分光を行いその発光スペクトルを調べた結果、WGMによる複数の極めて鋭い発光ピークのシリーズが観測された。その発光線幅より共振器Q値が最大2000程度、フィネスは最大30程度となることが判明し、有機材料を用いたWGMが現れる構造としては報告されている中では最大の値を示すことがわかった。これにより自己組織形成されるリング状結晶が極めて優れたリング共振器を構成することが明らかとなった。さらに個々のリング結晶において複数の系統だったモードが観測され、これらはそれぞれが異なるQ値依存性を持つことがわかってきた。このような振る舞いはリングの断面サイズ及び形状に依存して現れる横モードの違いで説明できる可能性があると考えられる。詳細なサイズ及び形状の情報を得ることで詳細な共振器特性についての知見が得られることが期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで気相成長によりKCl結晶基板表面上にBP1Tを成長させ、KCl基板上に1個/cm^2以上の割合でリング結晶の自己組織化成長を行ってきた。まだ具体的な成長メカニズムは明らかにできていないが、基板となるKCl結晶表面の状態に依存する可能性が示唆され、結晶成長メカニズムの解明に向けて取り組むべき方向性が見えてきた。 また多数のリング状構造について、これまで顕微発光分光測定を行うことにより様々なサイズ・状態のリング状構造の共振器特性について調べてきた。リングのサイズによる共振器特性の依存性の詳細について多数の情報が得られ、特にリング共振器の性能として共振器Q値とフィネスがこれまで観測された中でも最大の値(Q値:2000程度、フィネス:30程度)を示すリング結晶を見出すことができており、他グループによる有機材料系のリング共振器に比べ極めて高い性能をもつ自己組織形成リング共振器として機能することを示してきたが、新たに各リング結晶において複数の系統だったモードが現れること、単一のリング結晶にもかかわらずそれら異なるシリーズのモードではわずかに異なる有効半径を持つこと、さらにそれぞれが異なるQ値依存性を持つことが詳細な解析により明らかとなってきた。またこれらはリングの断面サイズ及び形状に依存する横モードの違いで説明できる可能性があることがわかってきた。本研究で得られる自己組織形成リング結晶が極めて優れたリング共振器として機能することだけでなく、個々のリング共振器のモード形成についても明らかにすることができた。以上のことから本研究がおおむね順調に進展していると結論することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
自己組織化リング結晶はKCl結晶表面上に存在する円盤状の原子ステップ構造の周囲に結晶が成長することによって生じると考えられ、事前の表面処理によりある程度効率的にリング作製が可能であることがわかってきたため、この作製手法の改善について研究を進めていく。 リング結晶から生じるWGM発光のピークシリーズについてQ値依存性や発光強度が複数の系統だったモードとして解釈できるが、これらはリングの断面サイズおよび形状に依存する横モードの違いで説明できる可能性がある。これについて詳細に議論するために構造評価によるサイズ形状の把握と、現れるモードを精密に再現するFDTD等によるシミュレーションとが極めて有効であり、今後これらを推進していく必要がある。 さらにこれらの横モードはリング結晶の外側にエバネッセント光として漏れ出す成分についても定量的な理解を与えてくれる。特に結晶基板へのエバネッセント光のリークは共振器Q値に影響を与える可能性が高く本質的に重要になってくるパラメータであるため、各シリーズにおけるWGMの横モードの様子を明らかにしていくことは極めて重要であると考えられる。 一方で高エネルギー側のWGMについては励起子分散の影響でモード間隔が狭く、リング結晶によっては個々のピークをスペクトル上で分解できないことが多い。特にポラリトンの性質をより強く帯びる高エネルギー側のWGMについては詳細を調べる必要があるため、今後スペクトル分解能をあげて研究を推進していく必要がある。
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