2015 Fiscal Year Research-status Report
間接遷移型半導体におけるスピン偏極キャリアの光注入
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26400317
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中 暢子 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (10292830)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
秋元 郁子 和歌山大学, システム工学部, 准教授 (00314055)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 光キャリア / 間接遷移型半導体 / スピン緩和 |
Outline of Annual Research Achievements |
シリコンやダイヤモンドなど軽元素から成るIV族半導体は、小さなスピン軌道相互作用や結晶の反転対称性に起因して長いスピンコヒーレンス時間が期待される。しかし、間接遷移型ギャップを持つために光学遷移にはフォノンが関与し、遷移確率の定量評価や伝導キャリアのスピン配向の実験的検証が困難であった。本研究では、光注入キャリアのスピン緩和時間や輸送現象の測定を行うことによって、これまで測定困難であった物質のスピン物性測定法を確立することを目指している。本年度は以下の二項目を中心に研究を進めた。 1)拡散定数の温度依存性に基づく運動量緩和機構の解明 時間分解発光イメージングの手法による励起子拡散の測定を昨年度に引き続き行った。特に、不純物濃度の異なるダイヤモンド試料を用いて、中性不純物散乱が励起子の運動量緩和に与える影響を精査した。中性不純物散乱の影響は極低温で露わになり、昨年度得た至大な励起子拡散定数(9200 cm2/s)は不純物濃度が極めて低い高純度ダイヤモンド単結晶のみで実現されることが分かった。これらの試料において、ダイヤモンドの光電デバイス応用に欠かせない物質パラメータである励起子ライフタイムと励起子拡散長の温度依存性を実験的に明らかにし、室温でのライフタイム350ナノ秒、拡散長34ミクロンを得た。 2)圧力印加による励起子移動度の測定 数ミリ角の単結晶ダイヤモンドに空間的に不均一な圧力を印加するための試料ホルダーを本研究で新たに製作し、極低温において印加圧力が調節可能であり、光キャリアの注入と空間分解検出も可能であることを確認した。さらに、圧力印加のもとでの励起子輸送を実験的に調査し、圧力勾配の大きさと励起子の移動時間から角運動量状態がJ=2 の励起子の移動度を見積もることに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成26年度に前倒しで準備を始めた圧力印加実験を本格的に始動することができた。また、励起子のスピンおよび運動量緩和機構に関連して、不純物散乱の効果を定量的に見積もることができた。学会発表では招待講演も行い、論文投稿などの成果の公表も順調に進んでいる。また、時間分解サイクロトロン共鳴実験はダイヤモンドだけでなくシリコンでも行い、光キャリアの生成・緩和過程やスピン配位の異なる状態間の緩和ダイナミクスなどについて、ダイヤモンドとの比較研究が予想以上に進んだ。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、以下の研究項目を重点的に進める予定である。 1)光励起キャリアおよびスピンの輸送 圧力印加によりポテンシャル勾配を生成し、外力によるキャリア、励起子、およびスピンの輸送を試みる。当初の予想通りのキャリア移動ができない場合は、圧力印加治具の曲率の組み合わせを複数試し、ポテンシャル勾配の大きさを最適化する。初年度に行う発光イメージング法に高エネルギー分解能を有する分光手法を組み合わせ、異なるポテンシャル勾配に対するドリフト速度を精査する。また、スピン偏極度の時空間変化を検出することを目指す。 2)非局在キャリアのスピン緩和機構の考察 これまで実験的に得た運動量緩和時間は、物質のバンドパラメータを介してスピン緩和時間に換算できる。この値を第一原理計算による理論値と比較し、非局在キャリアのスピン緩和機構を特定する。また、電子スピン共鳴を用いるスピンコヒーレンス時間の直接測定に向けて、試料形状や共振器の改良、温度範囲の検討等を含めた実験設計を行う。必要に応じて高純度シリコンの電子スピン共鳴測定を行い、ダイヤモンドのための実験条件の最適化への手掛かりとする。 3)本研究最終年度であるため、成果をまとめて投稿論文として発表するとともに、研究総括および将来展望の整理を行う。
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Research Products
(17 results)