2014 Fiscal Year Research-status Report
2体相関分布関数法を用いた強誘電体の中距離レンジ構造の可視化
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26400326
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
米田 安宏 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 量子ビーム応用研究センター, 研究主幹 (30343924)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 強誘電体 / 放射光 / 高エネルギーX線 / PDF / BaTiO3 / 相転移 / ナノ結晶 / 混晶 |
Outline of Annual Research Achievements |
大型放射光施設SPring-8において、偏光電磁石ビームラインより取り出すことの可能な高エネルギーX線を利用して、2体相関分布関数(atomic pair-distribution function, 略称PDF)法を使ったペロブスカイト酸化物強誘電体の構造解析を行った。PDF解析は従来的な結晶構造解析(平均構造)から埋もれた局所構造を見出すことがその主な目的であった。本研究課題においては、PDF解析を局所構造領域から中距離レンジ領域にまで広げ、強誘電体の短配位構造からナノスケールオーダーの構造をシームレスに解き明かすことを目的とした。 強誘電体の相転移的機構を明らかにするにあたって、中距離レンジの構造を20nm(200オングストローム)に設定した。実空間情報が広ければ広いほど、より詳細なデータコレクションが必要になる。原子力機構ビームラインのBL14B1では既に前年度にPDFのデータコレクションに必要な精度を有する回折計を導入している。さらに今年度では回折計の制御パラメータを見直し、中距離レンジ構造の解析に十分必要なレベルまで検出器の位置分解能を高めることに成功した。さらに実験に必要な高エネルギーX線の安定性や強度、エネルギー分解能を高めるために光学素子の再調整を行った結果、サンプル位置で0.2mmの集光ビームを安定的に利用することができるようになった。 本年度においては、この実験環境を利用してチタン酸バリウム(BaTiO3)の研究を行った。相転移、ナノ結晶、混晶という異なるイベントに対して、どのように局所構造や中距離レンジ構造が変化していくかを調べていった。その結果、BaTiO3は局所構造と中距離レンジ構造のコヒーレンスの逆転が晶系の変化に伴い常に生じていることがわかった。これは同一のサンプルで同時に幅広いレンジの構造を得る本研究でのみ明らかにすることにできる成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度に導入した回折計は既に100オングストローム程度の中距離レンジ構造の解明は可能なレベルではあったが、今後の研究の進展を考えて、あえて200オングストロームの実空間レンジにこだわった。そのため、本年度前半は光学系と回折計の再調整が必要であった。これらの調整は当初の目的を達成し、本年度実験を行ったBaTiO3の構造解析には十分な実験環境を構築することができた。結晶PDF解析に関わる光学系の変更およびその調整結果から得られる新しいデータに関しては、放射光学会誌の解説記事として依頼されており、近いうちに発表する予定である。 新しい光学系は、中距離レンジ構造だけでなく、短配位構造の実空間分解能も向上しているため、BaTiO3, SrTiO3, PbTiO3などのペロブスカイト系誘電体の構造解析を手始めに行った。チタン系のペロブスカイト化合物はチタン以外の金属イオンによって局所構造、平均構造、相転移などが変化することがわかった。特にBaTiO3に関しては、中距離レンジ構造まで拡張したデータが取得できたため、相転移前後の変化やナノ粒子化によるサイズ効果を中距離レンジ構造に見出すことができた。さらにBaTiO3とKNbO3で作製した混晶においては顕著な中距離レンジ相関の変化が観測できたため、論文発表することができた。 これまで、局所構造領域にのみ注目されてきた2体相関分布関数法を中距離レンジまで拡張し、相関を抽出する技術的な要素はほぼ確立された。また、予想されていた誘電体、強誘電体の構造の変化が中距離レンジに現れることも確認することができたため、研究計画は順調に進んでいる。 なお、本年度に納入された高電圧アンプは強誘電体テスターに付加され、バルクセラミックス結晶の強誘電性の評価に利用されている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は強誘電体材料であるBaTiO3を重点的に行った。チタン系ペロブスカイト材料で特に非鉛圧電体としての応用が期待されているBi0.5Na0.5TiO3(BNT)の2体相関分布関数(PDF)法を用いた構造解析を準備中である。BNTはX線回折には敏感なビスマスを含んでいるため、放射光X線を利用したX線PDFから得られる情報に期待している。特に、添加物や混晶化によってBNTの特性が大きく変化するため、その変化がミクロ的な構造変化によってもたらされるものか、あるいは添加物や不純物によるドメインコンフィグレーションの変化によるものなのか、短配位構造と中距離レンジ構造を同時に求めることが可能なPDFを用いた構造解析に期待している。 また、チタン系のペロブスカイト酸化物のデータコレクションが進んでいるため、次に、ニオブ系ペロブスカイト酸化物への展開を計画している。チタン系と異なり、ニオブ系の種々のペロブスカイト酸化物強誘電体では相転移温度が近く、相転移系列にも類似性がある。またKNbO3はBaTiO3とほぼ同じ格子定数を持ち、ほぼ同じ相転移系列を持った逐次相転移を起こす。この2つの物質の間にどのような違いがあるか、BaTiO3と同様にKNbO3においてもナノ結晶や混晶の局所構造から中距離レンジの原子相関をPDF解析を用いて明らかにしていく予定である。
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