2014 Fiscal Year Research-status Report
サイクロトロン共鳴によるトポロジカル絶縁体のディラック錐の電子状態の解明
Project/Area Number |
26400335
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
大久保 晋 神戸大学, 学内共同利用施設等, 助教 (80283901)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | トポロジカル絶縁体 / サイクロトロン共鳴 / 高周波数 / 強磁場 / フェルミ面 / ディラック電子状態 |
Outline of Annual Research Achievements |
トポロジカル絶縁体は、バルクではエネルギーギャップが開いている絶縁体であるが、表面ではギャップが閉じて金属状態が現れるという新しい量子状態として理論的に提唱され近年盛んに研究が行われている物質である。トポロジカル絶縁体の表面におけるエネルギー分散はグラフェンと同様に線形分散を持つとされているが、グラフェンと異なりアップスピンとダウンスピンは縮退していないと理論的に考えられている。現在、研究が進んでいる3次元系のトポロジカル絶縁体は時間反転対称でスピン軌道相互作用が強い系で実現するため、Bi化合物がトポロジカル絶縁体の候補物質として有力である。その中でBi2Se3はAPESやSTMでフェルミ面の分散の形状について報告がされるなど最も精力的に研究が進められている系であるが、APESやSTMよりもフェルミ面の形状について直接的な測定法であるサイクロトロン共鳴によるフェルミ面の形状についての報告は未だに無い。本研究では、サイクロトロン共鳴によってBi2Se3のフェルミ面近傍の線形分散を検証することを目指して幅広い周波数範囲の多周波数サイクロトロン共鳴による測定を行い、APESでは不可能な磁場依存から、表面のエネルギー分散が線形であることの直接的証拠を得ることを目的としている。今年度は、純良単結晶試料のサイクロトロン共鳴測定を通して、表面による寄与とバルクによる寄与を見積もり、バルク内にある残留キャリアの影響を明らかにする。さらには薄膜試料を作成することにより最適な薄膜の厚みを見積もることを目指した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Bi2Se3の問題点は結晶中に欠損ができやすく、欠損によってバルク内に伝導キャリアが生成し、状態が大きく変化する点にある。研究協力者の笹川崇男氏はコンビナート合成法より、欠損のコントロールを行った試料育成と微小領域の物性評価を行っている。これによって本測定に最適な低キャリア濃度でかつ均一なBi2Se3単結晶試料を提供をしてもらうことができる。本年度の測定で、純良な単結晶試料を用いて測定を行った。今年度は、バルク試料のサイクロトロン共鳴測定によって、バルク中に残留しているキャリアによる影響を見積もった。4.2Kにおける80GHzから420GHzにわたる広い周波数範囲の測定の結果、伝導キャリアによるサイクロトロン共鳴に特有なブロードな共鳴吸収がm*/me~1に観測された。これによりバルク試料ではバルクによる寄与が大きく、トポロジカル絶縁体特有な表面による寄与が小さく、バルク試料のままでは特異な表面状態であるトポロジカル絶縁体のサイクロトロン共鳴を検出することは困難と考えた。そこで、バルクの寄与を減らし、表面による寄与を増大させるため薄膜試料を作成し、それらの積層した試料のサイクロトロン共鳴測定を行った。薄膜試料として厚さ10μmの試料を10層積層し測定を行った結果、バルクの伝導キャリアによるものと考えられるブロードな吸収を消すことに成功した。しかしながら、表面のディラック電子によるサイクロトロン共鳴は観測されず、さらなる感度向上が必要であるとの結論に達した。
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Strategy for Future Research Activity |
トポロジカル絶縁体Bi2Se3のバルク試料と薄膜試料のサイクロトロン共鳴を試み、バルク試料からは伝導キャリアによるブロードな吸収が観測されたが、薄膜化試料からは伝導キャリアによる吸収は観測されなかった。このことよりバルクの影響を軽減化する試料厚みが明らかになった。現時点では薄膜試料の厚さは10μmであるが、今後はこれをより薄膜化し、5μm厚さの薄膜を積層した試料によって表面の寄与を大きくした試料でサイクロトロン共鳴の測定を行っていく。この方針でサイクロトロン共鳴の信号を得ることができなかった場合は、バルクに存在するキャリアを減らした低濃度キャリア試料の作成を研究協力者である笹川氏に依頼し、その試料の測定によりディラック電子状態を明らかにしていく。また、薄膜化による信号検出はバルク/表面比に1次でしか効いてこないので、精々100倍程度の感度向上しか望めない。信号検出のためより高感度な測定が必要になった場合、パルス強磁場中での高感度ロックイン検出を成功させている研究協力者の大道英二氏より技術供与してもらい、パルス強磁場中でのロックイン検出によりさらに100倍の検出感度の向上を試みる。これによりBi2Se3のサイクロトロン共鳴の観測によりディラック電子状態を明らかにする。さらにBi2Te3などの系へと拡張し、3次元トポロジカル絶縁体のディラック電子の有効質量、フェルミ速度を決定し、グラフェンや2次元有機導体α-(BEDT-TTF)2I3で議論されているディラック電子状態と比較することでディラック電子一般に普遍的に存在する物理を発見する。
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