2015 Fiscal Year Research-status Report
強相関系の励起子ボーズ凝縮と超伝導に関する微視理論の展開
Project/Area Number |
26400349
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
太田 幸則 千葉大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (70168954)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 物性理論 / 強相関電子系 / 励起子凝縮 / 遷移金属カルコゲナイド / 変分クラスター近似 |
Outline of Annual Research Achievements |
バンドギャップが小さな半導体やバンドの重なりが少ない半金属において荷電子帯のホールと伝導体の電子が形成する励起子が低温において量子凝縮を起こす励起子絶縁体と呼ばれる状態が近年再び注目を集めている。遷移金属カルコゲナイドTa2NiSe5やTiSe2が一重項励起子凝縮系として、ぺロブスカイト構造のCo酸化物などが三重項励起子系として研究され始めた。 本研究では、これらの物質について、密度汎関数理論に基づく第一原理バンド計算を通して得られる有効電子模型を、量子多体系を扱う変分クラスター近似の手法を用いて解析し、その特徴を明らかにしてきた。特に、フント結合の効果と電子格子相互作用の効果を取り入れ、励起子絶縁体状態の安定性を調べた。また、Ta2NiSe5の励起子絶縁体状態に対する外場応答を調べ、超音波吸収係数の温度依存性に転移点以下で量子干渉効果によるコヒーレンスピークが現れることを予言した。s波BCS超伝導の場合と異なり核緩磁気和率の温度依存性にはピークは現れない。これらは2件の学術論文として出版した。また、強相関励起子凝縮系では、励起子凝縮がボンドオーダーや磁気多重極子を導くことを示し、実験的な検証を可能にした(出版準備中)。 これらの研究成果は、東京大学物性研究所が開催する短期研究会「低次元電子系におけるエキシトニック相の新展開」において、本研究代表者が「エキシトニック相の理論とTa2NiSe5の電子状態」と題して講演した。また、いばらき量子ビームセンターが開催する第16回CROSSroads研究会「電子物性とその将来」および第17回研究会「強相関電子系の凝縮状態」において、「励起子凝縮の理論とTa2NiSe5の電子状態」という講演を行い、広く研究成果を公表した。 関連する研究として、Ruニクタイド系の電子状態やフラストレート系ハバード模型の磁気無秩序状態の研究を推進した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
励起子絶縁体は半世紀以上も前に予言された量子多体系の基底状態であるが、古くは電子相関の弱い半導体系に対する研究が主流であった。しかし近年では、新たな物質群の発見により、強相関電子系において発現する励起子絶縁体の研究が盛んに行われるようになり、この分野は今まさに新展開の時期を迎えている。本研究課題は、この新展開を牽引する重要な役割を担っている。 電荷を持たない励起子の量子凝縮状態は、超伝導の場合とは異なり、実験的な検証に少なからず困難を伴うことが歴史的にも明らかとなっている。励起子絶縁体状態が現実の物質において実現してることを実験的に検証する方法は、従って、この分野の大きな課題である。今年度は特に、超音波吸収係数や核磁気共鳴のスピン格子緩和率の温度依存性に現れるコヒーレンスピークの存在の有無を通して、励起子凝縮状態に固有のミクロな量子干渉効果を観測することにより、それが可能であることを予言した。学術論文の出版による公表ばかりでなく、国内学会や研究会、国際学会を通した公表により、広く実験家への提言を行うことができた。その結果現在、こうした実験が精力的に進められている。 また、磁気多重極子の形成やボンドオーダーの形成というより直接的に実験的検証が可能な物理現象の予言(近々に論文投稿予定)により、今後はさらに広く検証実験的が進められることが期待される。 以上の理由により、本研究はおおむね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、これまでの2年間の研究成果を背景に、特にTa2NiSe5に対して、外場応答に対する微視理論の更なる展開を行う。具体的には、励起子絶縁体状態におけるスピン・軌道磁化率の温度依存性の計算、光学伝導度スペクトルの温度・圧力依存性の解明、非弾性X線散乱スペクトルの計算等を行う。また、ボンドオーダーの発現としての励起子凝縮に注目し、その検証方法を提案する。加えて、高圧下で実現する超伝導に対して、励起子の揺らぎを媒介とする機構を提案する。 また、関連する励起子絶縁体物質、特にぺロブスカイト型コバルト酸化物系の磁気応答に関する研究を展開し、計画されている中性子非弾性散乱実験との比較を通して、この系がスピン三重項励起子系である可能性を検証する。また、この系の磁気多重極子の発現を具体的模型で提案し、実験的検証に耐えられるまでに定量化した理論を構築する。強磁場下での励起子相の発現の可能性についても定量的に検証したい。さらに、他の遷移金属の酸化物・カルコゲナイド系物質へと研究を展開する。 今年度は、本研究の研究期間の最終年度として、得られた研究成果の全体を総括し、学術論文等を通して公表する。これにより、今後の新たな研究への展開を確実なものとする。
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Causes of Carryover |
国内学会のための旅費が予想したより少なく済んだので、その結果若干の未使用額が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
未使用額は翌年度分に加算して使用するが、加算分は少額であるため、従前から予定している使用計画に特段の変更は発生しない。
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Remarks |
千葉大学大学院理学研究科太田研究室ホームページ http://physics.s.chiba-u.ac.jp/ohtal/index.html
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[Presentation] レーザー角度分解光電子分光によるIr1-xPtxTe2の超伝導ギャップの直接観測2015
Author(s)
大槻太毅, 溝川貴司, N.L. Saini, 大田由一, 山本遇哲, 橋本嵩広, 岡崎浩三, 辛埴, 藤森淳, 鳥山達矢, 小西健久, 太田幸則, 卞舜生, 工藤一貴, 野原実
Organizer
日本物理学会
Place of Presentation
関西大学(大阪府・吹田市)
Year and Date
2015-09-16 – 2015-09-19
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