2015 Fiscal Year Research-status Report
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26400357
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
草部 浩一 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (10262164)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
丸山 勲 福岡工業大学, 情報工学部, 准教授 (20422339)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 強相関電子系 / 強相関エレクトロニクス / 計算物理 / 超伝導材料・素子 / 磁性 |
Outline of Annual Research Achievements |
超過程を自己無撞着計算理論から導く我々の方法に基づき、銅酸化物高温超伝導体のバッファ層依存性を調査した。検証がなされた最高転移温度を生じる3層水銀系に加え、タリウム系、カドミウム系には特に伝導バンドに共通した電子状態特性が見られる一方、結晶形が類似ながら30Kクラスの金系では定性的な違いが見られる。そこで、フェルミ準位近傍での強相関性dバンドと、占有された酸化銅バンドおよびバッファ層が与える非占有酸化物バンドが共存する系に特有の、超過程を評価した。電子状態計算である我々の結果は、有効磁気交換散乱過程として3バンドが存在する系に特有に表れる過程が優位であることを示している。驚くべきことに、この状況はディラック型バンド分散の中央に局在性と強相関性の両者を示すゼロモードや平坦バンドがある系に現れる磁気的超交換相互作用と同じ形式のプロセスである。従って、この強相関電子状態特有の磁気的超過程は、注目されている複数の異なる系に共通した多体相互作用プロセスになっているのである。そこで、鉄セレンに関しても、超過程に加えて電子格子相互作用評価を開始し、良好な結果を得た。また、BiFeO3の電子状態評価を通して強相関絶縁性物質中のエキシトン評価を開始した。バイエキシトン評価プログラムと量子ダイナミクスプログラムを作成し原子層状に与えられたペロブスカイト鉄酸化物のモデル計算を実施して、現実的なシミュレーション実施が可能であることを示した。最近発見された最高転移温度を示す超伝導物質系の超過程評価も開始した。これらの物質系評価計算に加えて、グリーン関数法の整備を進め、既存の制限RPA法やダウンフォールディング法がもつ収束性に関する原理的困難が、我々の方法では存在しないことを示した。我々の理論は、電子系ばかりでなくクォーク・グルーオン系など他のゲージ理論にも適用できると言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
超過程評価法は、一般の多体電子状態において生じる量子多体散乱プロセスを評価する方法を与えるものである。従来法が適用困難な物質系であり本方法が改善法を与える特徴的な物質群は、高温超伝導体から強磁性材料、誘電性マルチフェロイック材料など多岐に渡る。そこで、昨年度以来進めている銅酸化物高温超伝導体の評価に加え、鉄ヒ素系等の複数の物質系の検討を進めた。応用上は、光学材料や永久磁石材料が次の重要ターゲットとなる。今年度は、非線形光学応答を示すBiFeO3のバイエキシトン評価に我々の方法論を適用する計算を新たに開始した。物質構造依存性を評価して、Biが示す特性を明らかにした。量子散乱過程の評価結果は、多体秩序状態の決定法として超伝導体や磁性体に応用されるだけでなく、少数多体系問題の典型であるエキシトン・バイエキシトンの評価でも有効な応用が可能である。これを、新たに少数多体系用計算プログラムの構築から初めて、量子ダイナミクス計算まで研究を展開させた。永久磁石材料としては、希土類系磁石の計算を開始するため電子状態計算を開始した。また、重要な磁性現象である近藤効果の評価が重要である。我々の方法を、従来問題となっていた擬ギャップ近藤問題に適用することで理論の精度評価を行うことができる。一例としてグラフェン中の原子欠損構造での近藤状態評価を進めた。その結果、ディラック分散中央にある強相関状態に特有の磁気的超過程を見出した。この過程の発見を元に高温超伝導体におけるスピン散乱過程として転移温度上昇に寄与する過程を見出すことができた。この未解明であった相互作用過程は、スピン揺らぎ機構とt-J模型による強相関系計算理論のどちらに基づく場合にも有効で転移温度向上を齎す。このように、当初予定の内容を超えたプログラム提供、物質構造評価を進めたことから、今年度の研究成果は、当初計画以上の進展を見せたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
グリーン関数法の整備結果から見えてきたことは、計算手法としての効率性ばかりでなく、既存の方法論がもつ困難を解決できる我々の方法論がもつ有効性である。従来、ダウンフォールディング法などの繰り込み手法と位置づけがされてきた方法論は、半群構造をもつ自由度の逐次消去法という位置づけが考えられたことで、消去した自由度の再決定問題を与えることが困難になるという議論があった。この点は、自己無撞着計算法という位置づけを与える幾つかの方法論が形式解を与えているとの議論もあった。しかし、本質的な困難は、連続自由度系としての相互作用多体系がもつ発散問題であることは、十分認識がなされていなかったとも考えられる。我々のアップコンバージョン模型を用いる方法は、本質的にこの点を解決している。それは、高エネルギー自由度同士の相互作用部分を消去した模型列を構成する手続きと、その列の収束判定手続きを用いて最終的な解の収束判定法を変更することによって成立している。この方法は、27年度に米国で成立したUS patent No.9,262,591 (2016)により理論的な面から強化された。そこで、制限RPA法などを置き換えていく方法を提供し、バーテックス補正が制御された形式でダイソン方程式系を定めることができる我々の方法が優位性をもつことを意味する。従って、高速電子状態計算プログラムとの連携が重要な展開を与えるのだ。幸いなことに、28年度から高速電子状態計算プログラムの開発元の一つであるアドバンスソフト株式会社との連携を共同研究として展開することになった。また、クォーク・グルーオン系への適用を開くグルーオン伝搬関数を用いた方法を提案する段階に至っている。これらにより、より広範な応用と、基礎論分野の展開が予想できることになる。
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Causes of Carryover |
投稿論文の掲載決定まで時間を要したため、論文投稿時に必要と予定された印刷費用を年度内執行に至らなかったためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
投稿論文の掲載決定後に印刷費用として用いる。
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Research Products
(24 results)