2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26400382
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
谷口 伸彦 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (70227221)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 量子ドット / 量子輸送 / 強相関電子系 / 非平衝現象 / ナノ系 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、ナノ系の非平衝量子輸送現象を物質ゲージ場の理論見地から再定式化することで、非平衝電流保存則を自然に保証する理論的枠組みを構築し、理論的扱いが困難な非平衝相関系に対し、ゲージ理論での強力な解析手段を活用することにある。本年度の研究実績は以下の通りである 1.電荷自由度を記述する物質ゲージ理論(物質位相場)に着目し、ナノ系量子輸送現象の定式化を行った。非平衡量子輸送現象を扱うために、Keldysh理論と計数場統計の手法を組み合わせ、量子ドット系を流れる非平衝電流の生成関数を構成した。得られた生成関数は、電子相関のない極限では計数統計のLevitov-Lesovick公式を再現し、電子相関の影響は物質位相場の寄与として表される。特に有限バイアス下では、位相場の閉時間経路に沿う巻き付き数の効果が重要となることがわかった。 2.従来の電子相関に関する非平衝摂動計算は、一般的なゲート電圧配置では非平衝電流が必ずしも保存されないことが知られている。本課題を遂行するにあたり、我々は改めて従来の摂動計算と電流保存の問題を見直したところ、これまで20年以上、数値積分に依り評価されてきた2次摂動自己エネルギーの寄与が、二重対数関数とよばれる特殊関数により厳密に評価可能であることがわかった(Phys. Rev. Bで発表済)。 3.ナノ量子輸送の位相コヒーレンスを撹乱する効果としては、有限温度と有限バイアスが代表的であるが、両者は多くの類似する性質を持つ一方、理論的には前者は平衡系で可解、後者は非平衝系で非可解と大きく異なる。仮想的な多端子系を導入することで両者を連続的につなぐことができ、非平衡電子相関系の位相緩和効果を考察する上で、可解極限として平衡相関系を考え得ることを提案した(日本物理学会・米国物理学会にて発表済)。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、ナノ系の非平衝量子輸送現象を解析するにあたり、系の正しい電荷・スピン対称性が明確な位相的自由度(=物質ゲージ場)による理論を構築・展開することである。これは、ナノ構造系の非平衝量子輸送を考察する際に標準的に用いられる不純物準位Anderson模型で電子相関に関する摂動計算を行うと、必ずしも非平衝電流保存則が保証されないという根本的問題を解消するためである。予算の支出は研究実施計画に則り、課題遂行に必要となった計算機・ソフトウエア・周辺機器等の購入、および研究課題に関する成果発表を行なった日米物理学会への参加・出張・滞在費を支出した。 現在、量子輸送現象に関するAmbegaokar-Eckern-Schoen模型を電荷位相自由度(=可換物質ゲージ場)により非平衝量子輸送現象へと拡張し、詳細な解析を行っている。ほぼ研究実施計画どおりに進展している。ただし、研究開始当初は、非線形シグマ模型によりAES模型を扱う形式を非平衡系へ拡張する予定であったが、その後の検討で物質位相場の非摂動的効果・トポロジー効果を調べるためにはより直感的に理解しやすい本来のAES模型に類似した形をまず調べることが望ましいことがわかり、この形での解析を進めた。 電子間相互作用に関する非平衝摂動計算は、元々はベンチマークとして副次的に利用する予定であったが、再検討を進めていく上で、2次摂動の自己エネルギーが特殊関数を用いて解析に評価可能であることがわかった。これを踏まえ、電流保存則を保証する自己無撞着条件を課すことにより、線形・非線形電流の計算、および人為的な多端子自由度を使った平衡ー非平衝の連続的な接続を見出したことは、予想外の収穫であった。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究課題の遂行にあたっては研究協力者として、筑波大学大学院において研究代表者が研究指導を行っている大学院学生1名を予定する。研究協力者は研究代表者とともに、課題遂行に必要な解析、数値計算の実行、国内外で調査研究、成果発表を行う。その実施のため、主な予算の使途は、計算機環境整備費と旅費である。 第二年度以降、まず初年度に開始した電荷自由度(可換ゲージ場)による非平衝電流の解析を継続・完了する。これは主として非平衝クーロン閉塞領域を記述する理論となる。一方、近藤温度以下の極低温領域では、スピン自由度を考慮する必要があり(近藤効果)、電荷自由度のゲージ場を電荷・スピン自由度の物質ゲージ場へと拡張する必要がある。そのため、スピン自由度に対応する非可換SU(2)ゲージ場(スピンゲージ場)にまで理論を拡張することが必要になる。このような非可換物質ゲージ場描像に関する既存の研究はほとんどないが、関連する手法として近藤効果を可換・非可換ボゾン化による取り扱いがあるので、非線形シグマ模型との比較検討を通して、スピン自由度を記述する物質のゲージ理論の構築を開始する。具体的には段階的に(1)平衡系不純物Anderson模型に対して電荷・スピン自由度を記述する物質のゲージ理論の定式化、(2)平衡不純物Anderson模型において知られる厳密解との比較、(3)電荷スピン自由度の物質ゲージ場を用いた非平衝電流の解析、(4)系が持つ電荷・スピン対称性を尊重するスピン流の導出と評価法の確立、を行う。また同時に、従来の相互作用に関する非平衝摂動理論等の結果とも比較検討を行う。
|
Research Products
(4 results)