2014 Fiscal Year Research-status Report
クエンチダイナミクスによる乱れた系のグリフィス特異性
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26400402
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Research Institution | Saitama Medical University |
Principal Investigator |
鈴木 正 埼玉医科大学, 医学部, 講師 (30391999)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ランダム系 / 相転移 / 厳密解 / 不連続(1次)転移 / 量子相転移 / スケーリング / キッブル・ズーレック機構 / 国際情報交換(インド) |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度科学研究費助成事業による実績は以下の3点である。 (1)本事業の研究代表者(以下、単に代表者と書く)は、東京大学物性研究所の森田悟史氏と共同で、層状の乱れを含む2次元イジング模型(正方格子、蜂の巣格子)における乱れの濃度と温度をパラメターとした相図の研究を行い、有限温度の相境界を精密に定め、また絶対零度の転移点を厳密に求めた。本成果は平成26年度の日本物理学会秋季大会において報告した。論文は26年度末の段階で鋭意準備中である。 (2)本事業の一環として平成26年度5月20日にインドから来日していたA. Dutta氏とS. Sharma氏(ともにIIT Kanpur)を交えて小規模な研究会を開催した。その前後には、特にA. Dutta氏と研究上の意見交換を行った。それがきっかけとなってA. Dutta氏と共同研究が始まり、不連続量子相転移近傍における量子クエンチダイナミクスの理論を作ることに成功した。この研究は必ずしも本事業と同じ目的を有しているわけではないが、より基本的な乱れの無い系に対するクエンチダイナミクスを扱っており、重要である。本成果は平成27年日本物理学会年次大会で報告し、論文は投稿中である。(arXivにて閲覧可能:1503.01512) (3)代表者は平成26年9月にギリシャ、ロードスで行われた数値解析と応用数学の国際会議に招待され、量子アニーリングに関する講演を行った。量子アニーリングは乱れた系のクエンチダイナミクスを最適化問題に応用したものであり、本事業に密接に関係している。本講演のプロシーディングはAIP Conf. Proc.より出版された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
計画では古典模型について静的特性を明らかにするとともに、クエンチダイナミクスの数値実験を行う予定であったが、静的特性の一部を明らかにするにとどまった。理由としては次の二つがあげられる。 一つは、研究実績の概要の(2)に書いた不連続量子相転移のクエンチダイナミクスの研究を推進させたことである。その研究は本事業の目的に直接沿っているわけではないが、クエンチダイナミクスという点では本事業に関係しており、しかもより基本的でかつ今日の研究動向をふまえると緊急性が高かった。そのため、26年度の計画には含まれないが、研究代表者は本事業の一部として上記の研究に取り組んだ。結果として重要な成果をあげることができ、意義のある判断であったと考えている。 もう一つの理由は、量子アニーリングの特集記事の編集に携わったことである。この仕事は26年度の計画には含まれておらず、それに時間を取られたことは予定外であった。ただし、量子アニーリングは本事業に関わるテーマであり、編集の仕事を通じてそれに関する最近の動向を詳細に把握できたことは、研究代表者にとって大きな収穫となった。それは今後の本事業の実施に必ず良い影響をもたらすはずである。
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Strategy for Future Research Activity |
27年度の早い段階で現在準備中の論文を完成させ、そのうえでクエンチダイナミクスの数値実験を行い、古典系におけるグリフィス特異性とクエンチダイナミクスの関係を明らかにする。27年度は量子系の研究も進める。量子系は(A)1次元横磁場イジング模型と(B)2次元もしくはキメラグラフ上の横磁場イジング模型を扱う。まず(A)について量子モンテカルロ法のダイナミクスとシュレーディンガー方程式のダイナミクスを比較し、絶対零度における両者の同等性および相違を明らかにする。次に(B)について量子モンテカルロ法によるシミュレーションを行う。最終的には(A)と(B)両方について、絶対零度でのグリフィス特異性とクエンチダイナミクスの関係を明らかにする。(A)の計算については27年度の夏頃までに、(B)については27年度中に結果を出せるように行う。 28年度および29年度は熱揺らぎと量子揺らぎが共存する場合のクエンチダイナミクスとグリフィス相の研究に充てる。有限温度で相転移が起こり、グリフィス特異性が生じる場合として2次元以上のランダム横磁場イジング模型に注目する。その模型に対して温度あるいは横磁場(またはその両方)を時間変化させるクエンチダイナミクスを調べ、その結果からグリフィス相の静的特性を導く。相転移線(古典系の相転移点と絶対零度の量子相転移点を結ぶ線)のまわりにグリフィス相がそれを挟むように存在することを実際に確かめる。 ところで、26年度に実施された本事業により、不連続相転移近傍のクエンチダイナミクスに関する研究の切り口が見出された。不連続相転移のクエンチダイナミクスは本事業の当初の研究目的には含まれていなかったが、27年度以降はこれも本事業の一部として進める。具体的には27年度には不連続相転移を起こす古典2次元ポッツ模型のクエンチダイナミクスを調べる。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じたのは海外出張1回分の旅費の清算が次年度になってしまったためである。26年度は、あらかじめ予定していなかった海外出張(旅費は自費の招待講演)があり、秋までに旅費に多くを費やした。その後、予定されていた海外出張は年度末に行くように計画を立て、旅費が残るように計算機の購入台数を意図的に抑えた。しかし、年度末の海外出張は年度をまたぐことになり、その支払いは27年度となった。結果的に計算機の購入台数を抑えて残した分は次年度に繰り越しとなってしまった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は26年度末をまたいで行った海外出張の旅費の清算と26年度中に購入予定であった計算機の補填に使用する。
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