2018 Fiscal Year Research-status Report
可積分非平衡統計力学模型による揺動と相関の新理論構築
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26400405
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
香取 眞理 中央大学, 理工学部, 教授 (60202016)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 行列式点過程 / 行列式過程 / ランダム行列理論 / テータ関数 / アフィン・ルート系 / 非衝突ブラウン橋 / 1成分プラズマ模型 / ガウス自由場 |
Outline of Annual Research Achievements |
次の研究成果をあげることができた。 (1)Rosengren-Schlosser(2006)が導入したアフィン・ルート系に付随した7種類のテータ関数が、パラメータをうまく調整するといずれも直交関数系を成すことを証明した。この結果により1次元上の7種類の行列式点過程を構成した。それらは1パラメータ族を成すが、そのパラメータを時間と見なすと、それぞれある有限の時間区間で定義される非衝突ブラウン橋とよばれる多粒子確率過程を与えることを示した。Rosengren と Schlosser は、Macdonald 分母式という群の表現論で重要な関数に対する行列式表示を与えたのであるが、それとは別の Karlin-McGregor-Lindstorm-Gessel-Viennot の非交差経路行列式による表示を導いたことになる。非衝突ブラウン橋は、その初期配置と終配置(この2つは同一)が指定されるが、その配置の対称性がアフィン・ルート系によって定まる。得られた7つの系は、空間スケールを表すパラメータ、ブラウン橋の時間区間、および粒子数という3つのパラメータを有するが、それらに対する極限やスケーリング極限を系統的に調べた。その結果、これらの7つの系は、ランダム行列理論でこれまで知られていた古典的な行列式点過程の楕円関数拡張と見なせることを示すとともに、テータ関数を用いて相関核が表現される新たな無限粒子系を導くことに成功した。 (2)上記のテータ関数で表現される7種の行列式過程は1+1次元時空上に構成された行列式点過程と見なすことができる。この着眼点を発展させることにより、2次元平面(複素平面)上での点過程を構成した。得られた2次元行列式点過程と、トーラス上の1成分プラズマ模型、及びガウス自由場との関連を明らかにした。それらの無限粒子極限として、3種類の Ginibre 行列式点過程を導いた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
可積分非平衡統計力学模型として、ランダム行列理論、特に行列式点過程とその動的拡張である行列式過程を中心に研究し、多粒子系、さらには無限粒子系の相関関数の特性を調べてきた。当初は空間1次元、時間1次元系を研究対象としてきたが、本研究課題の最終年度になり、空間2次元上での行列式点過程について研究成果をあげることができた。その結果、2次元上の可積分プラズマ模型やガウス型自由場といった統計力学模型として重要な別の系との関係を厳密かつ詳細に調べることに成功した。この最終年度の内の前期半年間は、所属大学の在外研究制度を利用してオーストリアのウィーン大学で研究に専念することが出来たため、研究成果を直ちに論文にまとめて発表することができた。ヨーロッパ在住の機会を利用して、フランスおよびポーランドの確率論研究者を訪れ、多くの議論を行った。その結果、得られた結果を、確率微分方程式の理論を用いて整理し発展させるという新しい研究課題が見いだされた。この件に関して、Graczyk 氏(フランス)と Malecki 氏(ポーランド)と共同研究を開始したが、論文完成には未だ至っていない。そのため、本研究課題の期間延長を申請し、認可された。延長期間である今年度(平成31年)4月に、Graczyk 氏が名古屋大学を訪問し滞在する機会を利用し、申請者の所属する大学に招へいし、さらなる共同研究を行った。期間延長は大変有用であった。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の Graczyk 氏と Malecki 氏との、確率微分方程式に関する共同研究を推進させ、成果を論文にまとめる。これとは別に、白井朋之氏(九大マス・フォア・インダストリー)と、行列式点過程の一般化に関する研究を遂行する。上述のように、時空2次元系における行列式点過程から空間2次元トーラス系への拡張は重要な成果であり、それをさらに進めることで、さまざまな空間構造、あるいは高次元空間における行列式点過程を研究対象とすることが可能となった。系統的な研究を行いたい。
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Causes of Carryover |
Graczyk 氏(フランス)および Malecki 氏(ポーランド)との共同研究の成果を期間内の平成30年度中に論文にまとめることができなかった。本年度平成31年4月に、Graczyk 氏が名古屋大学大学院多元数理研究科に1か月間滞在することになり、その機会を利用して本研究課題の研究代表者である香取の所属する中央大学理工学部に数日間招へいすることとした。そのため、期間延長を申請し認可された。実際に平成31年4月17日から21日の間に Graczyk 氏を招へいし、共同研究を遂行することができた。その結果、論文作成の具体的な方針を定めることができた。この招へいのための国内旅費と滞在費として本科研費を使用したが、現時点で 12,140円の残額がある。これは、関連書籍の購入などに使用する予定である。
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Research Products
(14 results)