2015 Fiscal Year Research-status Report
動力学的に形成された量子絡み合いの統計的普遍性の広がりとその応用
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26400421
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
窪谷 浩人 神奈川大学, 工学部, 教授 (60281143)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
戸田 幹人 奈良女子大学, 自然科学系, 准教授 (70197896)
足立 聡 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (90211698)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 量子カオス / 量子絡み合い / ランダム行列理論 / Schmidt固有値 / 最大固有値 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々の先行研究により、十分に発達したカオス動力学を持つ系では、時間発展する状態に形成される量子絡み合いが完全にランダムな統計的普遍性を獲得することが明らかにされた。ここで着目している統計的性質は、時間発展する一つの状態を一定時間間隔ごとにサンプリングすることによって得られる量子状態の標本におけるものである。 本研究の目的は、この先行研究の対象となっていた強いカオスのみならず、弱い量子カオス系や可積分系などにも、動力学的に形成された量子絡み合いの統計的性質に普遍性が成立するかどうかを調べることにある。さらに、これらの統計的普遍性の存在を手掛かりに、量子状態の制御法を提案し、また、統計力学の基礎付けを行おうとするものである。 平成26年度の研究実施計画では、(1)強いカオス系において、2つの部分系のHilbert空間の次元が異なる場合に拡大して解析を行うこと。(2)弱いカオス系・可積分系においても同様な統計的普遍性が成立しているかを明らかにすること。としていた。 実際には、平成26年度から平成27にかけては、平成27年度に実施が計画されていた以下のテーマを先行して行うこととなった。我々は、最新の論文で、最大Schmidt固有値が、量子絡み合いを形成させている動力学の特徴のなごりを検出するために極めて敏感な指標となりうる可能性を指摘した。これを確認するため、固定跡複素ランダム行列の最大Schmidt固有値の分布関数の解析的な関数形(多項式)を導出することに成功し、これを完全にランダムさをもった状態のSchmidt固有値の統計性とし、これを基準とした、量子カオス系で実測した最大Schmidt固有値の分布関数と比較する解析を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的の一つは、十分に強いカオスによって形成された量子絡み合いで見つかった統計的普遍性がどこまで広がっているのかを明らかにすることである。 我々の先行研究は、弱いカオス系からカオス性を強めていくと、選択した表示によらない量子絡み合いの指標であるSchmidt固有値の一体分布関数がランダム行列のそれに近づいていくことを示している。さらに詳細な解析により、Schmidt固有値の一体分布関数のずれは最大のSchmidt固有値において有意に大きいことも示されている。その結果は、系のカオス性が強まるに従いSchmidt固有値がランダムな統計性を獲得していくものの、最大のSchmidt固有値に、力学由来であることの痕跡を残しているという描像を与える。そうだとすれば、十分強いカオス性を有する範囲では、理想的なランダム行列からのずれとの比較には、Schmidt固有値の一体分布関数より最大のSchmidt固有値の分布に注目するのが直接的である。 そこで、われわれは、ランダム行列のSchmidt固有値の一体分布関数の解析的関数形を求めた方法を拡張して、最大固有値の分布関数を解析的に導出しようと試みたところ、これに成功した。その成果は論文発表準備中である。 さらに、その結果を受け、ランダム行列の最大固有値の分布関数と強いカオス系により形成されたからみあった状態のSchmidt固有値の最大値の分布の比較を行っている。 統計物理学の基礎付けという観点からは、現実の系が持つランダム性が完全ならランダム性からどの程度、どのような性質をもってずれているのかをその領域において明らかにすることは重要である。その解析で基盤となる複素ランダム行列の理論を構築できたことは大きな進展である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26~27年度の研究成果として、複素ランダム行列の最大Schmidt固有値の分布関数の解析的な関数形(多項式)を得た。 平成28年度は、その分布関数を利用することによって、弱いカオス系から十分に強いカオス系に近づくに従って、系の最大Schmidt固有値がどのようにランダム行列のものに近づくかを解析する計画である。 最大のSchmidt固有値で絡み合う状態同士は、量子確率が最大となる量子相関を持っているということであり、力学過程がいかに量子絡み合いを形成するかという解釈上重要であるばかりでなく、量子絡み合いを利用した量子制御の観点からも重要である。 他方、弱いカオス系・可積分系に対応するランダム行列理論の構築に着手できないでいる。平成28年度の後半には、弱いカオスに対しては、固定跡アンサンブルに少数のパラメータを組み込み、うまく変形したアンサンブルに対応するランダム行列理論を構築し、現実を説明可能か調べたい。また、回帰的で予測可能な振る舞いをする可積分系に対しては、初期条件による平均化を施すことにより共通した統計的特徴をSchmidt固有値に見出せることを期待している。以上のような方策での研究を実施したい。 他の発展として、動力学的に形成された量子絡み合いの統計的普遍性の応用として、 量子推定や量子制御の問題も検討したい。2自由度の純粋量子状態の密度行列に対して第2番目の自由度の粗視化を行うと、第1番目の自由度の縮約密度行列が得られ、この縮約密度行列の対角化固有値は、まさしくSchmidt固有値の絶対値の2乗である。このテーマは、全系が量子絡み合いの統計的普遍性を獲得していることを所与として、縮約密度行列からどれだけ全系の情報を引き出せるかという逆問題を解こうというものである。
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Causes of Carryover |
研究分担結果を検討するため研究代表者と研究分担者とが集って打ち合わせを行う旅費が本研究において重要度の高い支出使途である。従来、施設の面から奈良女子大が利用されてきた。2015年度は、本務との兼ね合いで奈良女子大学に集まらず神奈川大学に集まる回があった。その結果、研究組織の過半数の2名が日帰りとなったため、旅費の支出が想定より減った。 また、研究内容上も、ランダム行列の最大固有値に関する研究の進展があり、そちらを優先することとなった。その結果、モデルのシミュレーションのための計算機環境の整備を優先して完了しておく必要性が低かった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2016年度現在、ランダム行列の最大固有値に関する研究成果を発表するための論文数本を作成する予定である。作業のため研究打ち合わせが必要となっている。施設の面から奈良女子大を利用したく、出張旅費を増額して臨みたい。 また、本研究で行っているモデルのシミュレーション結果のデータは5TB~10TBに及んでいる。現在、外付けハードディスクで急をしのいでいる。作業の効率化やデータ維持の信頼性向上のため、ファイル・サーバーへの移行が急務になっている。この用途にも充てたい。
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Remarks |
Mechanism and Experimental Observability of Global Switching Between Reactive and Nonreactive Coordinates at High Total Energiesに関しPRLの編集者の勧めによりプレスリリースを行い(北大と東北大)、日経産業新聞、大学ジャーナルオンライン、日経バイオオンラインで報道された。
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Research Products
(17 results)