2015 Fiscal Year Research-status Report
メソ-ミクロシミュレーションによる親水・疎水スイッチング表面の機構解明
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26400430
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Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
古石 貴裕 福井大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20373300)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 親水・疎水スイッチング界面 / 分子動力学シミュレーション / 散逸動力学シミュレーション / 国際情報交換 |
Outline of Annual Research Achievements |
複雑な構造を持つPNIPAM(N-イソプロピルアクリルアミド)に先立ち、より単純な構造で実験データが多いPS(polystyrene)を用いてメソ-ミクロ連携シミュレーションシステム構築のため全原子シミュレーションと粗視化シミュレーションを連携させて実行した。 全原子シミュレーションでは分子動力学(MD)シミュレーションを用いて高分子1本鎖の重合度を変化させながらシータ溶媒中での広がりの実験値を再現するための計算を行った。ここで得られた原子配置を用いてPSを粗視化したときの粗視化粒子間に働く結合力のパラメータを導出した。一つの粗視化粒子に対応するモノマー数を粗視化度とし、その粗視化度が10,20,50のときのパラメータをそれぞれ求めた。 得られたパラメータの妥当性を調べるために、粗視化シミュレーションである散逸粒子動力学(DPD)シミュレーションを用いて、複数本の高分子の溶融状態を再現する計算を行った。得られた結果から高分子の広がりを求めたところ、粗視化度が大きい程、高分子の広がりが実験値に近い値を取ることが分かった。これは、粗視化度が増加し、一つの粗視化粒子に対応するモノマーを数が増えると、粗視化粒子で表される高分子鎖の粗視化粒子間の配置の相関が小さくなり、高分子の性質がガウス鎖に近くなることが原因であると考えられる。 また、本研究のMDシミュレーションに使用するプログラム開発を引き続き行っている。今回行った高分子のMD計算で用いた系は、溶媒が無く1本の高分子のみが存在するものであるが、この系において原子間相互作用を弱めることで、シータ溶媒中での広がりの実験値を再現した。溶媒の無い状態での並列計算は系の密度差が大きいため、通常の空間分割法では計算効率が悪くなる。そこで、空間を一様ではなく粒子密度に応じて分割するようにプログラムを改良し、効率の良い並列計算が行えるようにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究で疎水・親水スイッチング界面に使用する高分子はPNIPAMであるが、この高分子の構造は複雑であるため、先ずDPDシミュレーションの実験値再現性を調べるため一昨年度は、より単純な構造であるPS及びPMMAのDPDシミュレーションを行った。この結果から、これまで標準的に使用されていた粗視化粒子間結合力パラメータでは、実験結果を再現できないという問題点が存在することが分かっている。 そこで今年度は、重合度を変化させた全原子シミュレーションを行い、それぞれの重合度において、粗視化度も変化させ、その粗視化度に対応したDPDシミュレーションでの結合力パラメータを導出した。この結果から粗視化度が大きい場合は、粗視化シミュレーションであっても実験値における高分子の広がりを良く再現できることが分かった。 今後は電荷の効果が小さいPSではなく、電荷間の相互作用が大きいPMMA(poly-methyl-methacrylate)においても、同様のシミュレーションを行い、本課題で扱う予定のPNIPAMの計算に備える予定である。このため当初予定していたPNIPAMのシミュレーションを行うことができず、計画はやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究から、通常使用されているDPDの結合力パラメータでは実験結果を定量的に再現できないことが分かっている。昨年度は主に、このことを改善する方法の構築を行った。DPDにおける結合力パラメータを求めるためにMDシミュレーションを用いる。高分子を含む系において全原子を扱うMDシミュレーションを行う場合、粒子数が多いため現実的な時間でシミュレーションを終えることができない。そのため、高分子の周りに配置する水を省略することで計算時間を短縮する。ただし、このままでは真空中における高分子の計算を行っていることになるので、原子間の相互作用を減少させ水分子による遮蔽効果を取り入れる。これにより水中での高分子の広がりをMDシミュレーションを用いて再現する。昨年度は、ここから得られる分子配置を用いて、DPDシミュレーションで粗視化したときの粗視化粒子が満たすべき粒子間距離分布を再現する結合力パラメータ求めることで、実験結果を定量的に再現するDPDシミュレーションを行うことができることを明らかにした。 今年度は、昨年度構築したパラメータ導出法を用いてPNIPAMに適用できるDPDシミュレーションのパラメータを求める予定である。ただし、PNIPAMは温度により、親水・疎水の性質が変わる複雑な構造を持つ。そこで、PNIPAMに先立ち、昨年度用いたPSよりも電荷間の相互作用が強いPMMAにおいて、これまでに構築した手法を用い、実験値を再現できるパラメータの導出を試みる。 また、昨年度の研究で異なる粗視化度におけるDPDシミュレーションのパラメータを求めることができたので、粗視化度を大きくした計算の結果から、粗視化度の小さい計算のための初期配置を求める微視化のための基礎データを準備することができた。今年度はこれらを用いて微視化の手法についても研究を行い、メソ-ミクロ連携シミュレーションの構築を行う。
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Research Products
(3 results)